ヤドリギ.何回か見たことはあります.でも実を付けた姿は見たことがなく,ほとんど何も知りませんでした
検索してみると----
日本語版Wikipediaの次は,なんと「ヤドリギの下でのキス」.さらには「クリスマスの飾り」としてのヤドリギの項目も多数.この二つがどれほど欧米で広まっているのか,調べる時間が今日はない!
ただ,次の二つの歌詞から,欧米(少なくとも英米)で広まっている言い伝え/習慣であることは確かでしょう.
1. ジャクソンファイブ時代のマイケルジャクソンの歌
(ママがサンタにキッスした:この歌は日本でもクリスマスソングとして時々聞きます)
の冒頭は
Wow! Mommy's kissing Santa Claus! I saw Mommy kissing Santa Claus
Underneath the mistletoe last night
「the mistletoe」がヤドリギ!
The Jackson 5 I saw Mommy kissing Santa Claus (with lyrics)
2. マライヤキャリーの「All I want for Christmas is you」という曲(私は全く知りませんがとても有名なようです)にも,次のような歌詞があるそうです.
----I’m just gonna keep on waiting Underneath the mistletoe I won’t make a list and send it (ずっと待ってるの ヤドリギの下で ほしいものリストもつくって)(http://英語力.biz/888 )
Mariah Carey - All I Want For Christmas Is You - YouTube
ヤドリギの下でのキスがアメリカで広く知られていることはこれで確か.
クリスマスの飾りとしては沢山の画像を見ることができます.
日本でも私が知らないだけで,いつの間にか広まってきていたようです.
ただ,ここにお借りした写真のデコレーションは,どうも西洋ヤドリギではなくEastern mistletoe of North America (アメリカヤドリギ? Eastern mistletoe of North Americaがアメリカヤドリギと一致しているか未確認)にみえます.アメリカ原産のヤドリギでセイヨウヤドリギとは異なるヤドリギの原種に近い品種.日本にはこれがアメリカから輸入されてきているような気も.
イギリスでは白い実=西洋ヤドリギがクリスマスのデコレーションになっていました.
Mistletoe -- Christmas Customs and Traditions -- whychristmas?com(なお英語が堪能な方は,このサイトを読むと,キスのいわれも分かるかもしれません)
日本のヤドリギはセイヨウヤドリギの亜種とされているようで,実は主に黄色.赤い実を付けるものもあって,アカミヤドリギと呼ばれているようです.
写真をお借りしたこのサイト「木のメモ帳」ヤドリギはとても詳細な解説と沢山の写真が掲載されています.
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説は次の通り.
やどりぎ / 宿木・寄生木
[学]Viscum album L. var. rubro-aurantiacum Makino form. lutescens (Makino) Hara
ヤドリギ科の常緑小低木。ホヤ(寄生)、トビヅタ(飛蔦)ともいう。ケヤキ、エノキ、サクラ、ミズナラその他の落葉広葉樹の樹上に寄生し、このためヤドリギの名がある。よく枝分れして径40~60センチメートルの球形になる。雌雄異株。----- 果実は球形、径約6ミリメートルの液果で、淡黄色の半透明に熟す。果肉は粘りが強く、鳥類によって他樹に運ばれ、粘着して発芽する。北海道から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。
変種のアカミヤドリギは果実が橙黄(とうこう)色に熟し、母種のセイヨウヤドリギはヤドリギに似るが、果実は白く熟す。セイヨウヤドリギはヨーロッパからアジア北西部に分布し、ヨーロッパブナ、ポプラなどのほか、果樹のリンゴにも寄生して被害を与える。イギリスではクリスマスのときに果実のついた枝葉を飾りに使う。
なお、ヤドリギに似た生態を示すもので日本に自生するヤドリギ科植物には、ほかにオオバヤドリギ、マツグミ、ホザキヤドリギ、ヒノキバヤドリギがある。[小林義雄]
文化史
落葉した木に着生し常緑を保つヤドリギは、古代の人々にとって驚きであったとみえ、ヨーロッパ各国でセイヨウヤドリギの土着信仰が生じ、儀式に使われた。その諸例はフレーザーの『金枝篇(きんしへん)』で取り上げられている。古代ケルト人のドルイド教では年初の月齢6日の夜、ヨーロッパナラに着生したセイヨウヤドリギを切り落とす神事があった。北欧では冬至の火祭りに光の神バルデルの人形とセイヨウヤドリギを火のなかに投げ、光の新生を願った。常緑のヤドリギを春の女神や光の精の象徴として室内に飾る風習は、クリスマスと結び付き、現代に残る。
日本でもヤドリギは、常緑信仰の対象とされていた。万葉集----ほよはヤドリギの古名で、髪に挿し長寿を祈る習俗があったことがわかる。[湯浅浩史]
山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」にも「ケヤキやエノキなど,落葉した高い木の梢に着生するつややかなヤドリギは,神秘的な生命力や呪力を持つ植物とされていたようです」との記載があります.
あしひきの、やまの こぬれの、ほよとりて、かざしつらくは、ちとせ ほくとぞ
あしひきの、山の木末(こぬれ)の、ほよ取(と)りて、かざしつらくは、千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ 大友家持(巻18-4160)
あしひきの、山の木末の、ほよ取りて、かざしつらくは、千年寿くとぞ
◎山の木立の梢に生えて居る,ほよの寄生木うぃ取って,こうして頭に翳して居るのは,老木にできたものだから,それにあやかって長生きすたい,と千年の齢を,祈ろうとてするのである.
◎山の木々の梢に一面に生い栄えるほよを取って挿頭にしているのは,千年もの長寿を願ってのことであるぞ.
◎山の木の梢(こずえ)に生えているほよを取って、髪(かみ)飾(かざ)りにしたのは、千年も続く長寿(ちょうじゅ)を祈ってのことです。
天平勝宝(てんぴょうしょうほう)2年(750)、正月2日に行われた宴(うたげ)の席で詠んだ歌です。
(たのしい万葉集 (4136): あしひきの山の木末のほよ取りて)