ギリシャ最大最古の古典とされるイリアス(ホメロス/ホメーロス).
この物語の中にも,ニオベー(ニオベ)の子供たちがアポローンとアルテミス(ディアナ)に殺害される場面が描写されています.
といっても,イリアスは「10年にわたるトロヤ(トロイア)攻防戦も終末に近いころの,約50日間のできごとを扱っている(ニッポニカ)」物語で,比喩の形で語られる挿話としてニオベーの子供たちの惨殺が,アキレウスにより語られます.
イリアスの最終章トロイア(トリヤ/トロイ)王プリアモスが,アキレウスの陣営へおもむき,息子ヘクトル(ヘクトール)の遺骸をひきとる場面.
アキレウスは,親友パトロクロスを殺害したヘクトルへの怒りが収まらず,死骸を辱め続けていましたが,ゼウスと神々の取りなしの結果,プリアモスへの引き渡しに同意したのでした.
そして,遺骸に化粧を施し送り出す準備をしたあと,老王プリアモスに語りかけます.
第二四歌 ヘクトルの遺体引き取り
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「ご老体,ご子息の遺体はお望み通り引き渡し,寝台に寝かせてある.明朝連れて行かれる時,ご自身はその顔をご覧になれよう.
それでこれから食事にかかろうではありませんか.髪美わしいニオベすら,食事のことは忘れなかったのだから—
屋敷の中で十二人の子,六人の娘と若い盛りの六人の息子を失ったニオベですら.息子たちの方は,ニオベに腹を立てたアポロンが銀の弓で,娘たちは矢を降らすアルテミスが殺した.
因(もと)はといえば,ニオベが頬美わしいレトと張り合おうとしたからで,レトは子を二人しか産まれなかったが,自分は大勢の子を産んだといったのであった.
そこでそのたった二人の神がニオベの子らをことごとく殺してしまわれた.討たれた子らは,血塗(ちまみ)れの体を九日間横たえていたが,葬ってくれる者は一人もおらぬ.クロノスの子(ゼウス)が,住民をみな医師に化してしまわれたからだが,十日目になって天空の神々が葬っておやりになった.
このニオベが,泣き疲れるとやはり食事のことを思った.
今では人里離れた山の岩の上,つまりシピュロスの山,アケロイオスの山,アケロイオスの河のほとりで飛び舞うニンフたちの臥所のあるというシピュロスの山上で,石と化しながらも神々の降(くだ)された悲運を噛み締めているそうな.
されば高貴の御老体よ,われらも食事に心を向けようではありませんか.
その上でご子息をイリオスへ連れて帰り,泣いておやりになればよい.いくら泣いてもなききれぬことであろう」
こういうなり,俊足のアキレウスは颯(さっ)と立ち上がり,銀色の羊を屠る.
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