新型コロナウイルス感染症の治療薬として候補にあげれている薬剤二つ.
トランプ前大統領が推奨し使用もしていたという抗マラリア薬 ヒドロキシクロロキン.
High-profile coronavirus retractions raise concerns about data oversight
大村博士が発見した抗寄生虫薬 イベルメクチン.
Why Was a Major Study on Ivermectin for COVID-19 Just Retracted? - Grftr News
この二つの薬剤とコロナウイルス感染症に関するかなり重要な研究論文が取り下げられたことを,科学誌ネイチャーがニュース記事で取り上げていました.
High-profile coronavirus retractions raise concerns about data oversight
この記事とほぼ同じ内容を日経メディカルも報じています.
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202006/565932.html
通常の生活をしていれば,我々一般人には,なんの影響も及ぼさない業界内の問題と言えますが---
どちらの薬剤も,国内外に一部熱狂的な支持者がいることもあって,現在のパンデミックの最中,一般人には無関係とも言っていられない.
以下私が理解した範囲で概要を記録しておきます.
問題の論文を取り下げた理由は,「医療情報分析会社であるSurgisphere社が提供するデータを用いて解析したものの,その信憑性が疑われたため」とのこと.
ヒドロキシクロロキンについての論文は,臨床医学の専門誌としては評価が最も高い雑誌の一つLancetに掲載され,「この薬剤は毒性がある(心室性不整脈のリスクは有意に増加)」としたため,ヒドロキシクロロキンについての臨床研究がストップしてしまったという代物.
一方,同じ著者によるイベルメクチンの論文は,コロナウイルス感染症に対しイベルメクチンが効果を持つとしていましたが,査読を経ないプレプリントとして掲載されていたもので,本来なら影響力が小さかったはずでしたが---.
実際の影響力ではランセットの記事を上回るものでした.
ペルー政府がイベルメクチンを国の治療ガイドラインに盛り込むきっかけとなり,ボリビア政府がこれに追従.人気が沸騰し,パラグアイではイベルメクチンの販売規制に乗り出す---.
医学の専門家ではない政治家やジャーナリストの発言に対しては「専門家の言葉を無視して」と批判してしまいますが,専門家の世界にも本物と偽物が混在しています.
一般人は何を信じていいか分からなくなりますが,専門家の世界には真偽をチェックする仕組みが備わっていて,偽物はいずれ排除されていく---.
ネイチャーの記事はその好例とも言えるのではないでしょうか.
なお,ヒドロキシクロロキンについては,一旦止まっていた新型コロナウイルス感染症への効果を確かめる研究が再開される方向にあるようです.ただし,今までに集まってきている研究では,効果がないとするものが多いようです(いずれの研究でも毒性は見られていません).
一方のイベルメクチン.
南米での熱狂?はまだ続いているようですが---
ネイチャー誌が取り上げたものとは別の論文.
これが捏造で文章も盗作であったことがツイッター上で専門家の話題となっています.
捏造を指摘した元の記事はこちら.
Why Was a Major Study on Ivermectin for COVID-19 Just Retracted? - Grftr News
専門家によるツイッターの内容は
例えば
https://twitter.com/mph_for_doctors/status/1415808612186791943
手を洗う救急医Taka(木下喬弘)
@mph_for_doctors
これはひどい。 イベルメクチンの有効性を主張した論文のデータが捏造であり、文章も盗作であったことがわかり撤回されたとのこと。
イベルメクチン非投与群で4人死んだことにしたり(実際は0)、文章を盗作・改変した結果、SARS-CoV-2の名称を間違えたりと相当杜撰です。
https://twitter.com/georgebest1969/status/1415882851594096646
岩田健太郎 Kentaro Iwata
@georgebest1969
イベルメクチンRCT、生データと論文の齟齬を数々指摘されてリトラクション。これを採用したメタ分析(https://watermark.silverchair.com/ofab358.pdf?)も苦境に。