「求人倍率43年ぶり高水準」は何故? 藻谷浩介氏「消費も設備投資も増えず唐突に雇用だけが改善するという現実に矛盾を感じないようであれば、経済を語る資格はないだろう。 若者の雇用改善は数の多い昭和20年代以前生まれの世代の最終退職に伴う、著しい人手不足の補充のために生じた自然現象であり、経済政策の成果ではない。」毎日新聞 時代の嵐

経済のことは全くわかりませんが---

現在の政府の経済施策は危なっかしくないのでしょうか?そして,「景気が良い」ことを支持の背景として,経済施策以外の分野で,更に危なっかしい施策を進めているようにも思えるのですが---.

 

求人倍率43年ぶり高水準」という記事が,東京新聞にありました(2017年12月1日 夕刊).

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東京新聞:求人倍率43年ぶり高水準 10月1.55倍 失業率は横ばい:経済(TOKYO Web)

厚生労働省の発表した数値をそのまま載せたベタ記事ですが---.

「景気がよい」「いわゆるアベノミクスが成功している」を表す数値に見えます.

実際,政府サイドはこの「雇用の改善」を,経済施策の成功の証しとして大宣伝しているようですが---.

 

しかし,11月12日付け毎日新聞「時代の嵐」で藻谷浩介氏は,次のように述べています.

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https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/002/070/071000c

 

 自己正当化は人間のならいなので、「若者の雇用は空前の改善を見たのだから、アベノミクスは成功だ」とする向きが増えている。

だが、消費も設備投資も増えず唐突に雇用だけが改善するという現実に矛盾を感じないようであれば、経済を語る資格はないだろう。

去る7月9日の本欄にも書いたことだが、若者の雇用改善は数の多い昭和20年代以前生まれの世代の最終退職に伴う、著しい人手不足の補充のために生じた自然現象であり、経済政策の成果ではない。

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 ことほど左様に日本では、若者の雇用動向は、折々の新卒就職の世代と退職者世代の数の違いに左右される。そして、74年を境に出生者数が半減にまで至った日本では、退職者数を新卒者数が補えない事態は今後とも続く。つまり、「若者の就職は容易だが、個人消費は増えず設備投資も促進されない」という状況が、延々と続くということだ。

 

 

経済学の理屈は全くわかりません.

しかし,若者の就職状況が,退職者の数により大きく左右される実態を間近に見る機会があった者として,藻谷氏のこの意見はとても納得がいくものです.

そして,この意見が正しいとすればですが---,政府関係者は、それとなくウソの宣伝をし、多くの人々がなんとなくだまされていることになる.これは政府の責任だけとは言えない? 藻谷氏以外の経済学者,ジャーナリスト,野党議員は何をしているか,ということになりませんか?

 

記事の抜き書きと,関連しそうなグラフを並べておきます.

詳しくわかる方にもっと解説してもらいたいものです.

 

求人倍率43年ぶり高水準 10月1.55倍 失業率は横ばい

東京新聞2017年12月1日 夕刊

東京新聞:求人倍率43年ぶり高水準 10月1.55倍 失業率は横ばい:経済(TOKYO Web)

 厚生労働省が一日発表した十月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比〇・〇三ポイント上昇の一・五五倍だった。高度成長期直後に記録した一九七四年一月の一・六四倍以来、四十三年九カ月ぶりの高水準となった。総務省が同日発表した十月の完全失業率(季節調整値)は、前月と同じ2・8%で横ばいだった。

 有効求人倍率は、求職者一人当たりの求人数を示す数値。リーマン・ショック後の二〇〇九年八月には〇・四二倍にまで落ち込んだが、最近は景気回復に伴う企業の採用意欲の高まりと人手不足を受け、五年以上にわたって右肩上がりの改善が続いている。(以下略)

 

時代の風

政府の経済財政運営=藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員

毎日新聞2017年11月12日 東京朝刊

https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/002/070/071000c

長期戦の構え固めよ

 短期決戦と長期戦を混同してはならない。短期決戦用のやり方を長い間続ければ、必ず息切れし、ほころびが出て来る。

 7月9日付の本欄に続いて関心のない方には恐縮だが、またまたプロ野球を例に引く。横浜DeNAベイスターズ福岡ソフトバンクホークス日本シリーズ第6戦、九回裏にベイスターズの抑えの山崎康が同点弾を打たれ、後続が十一回裏に1点を失いサヨナラ負けしたのは、臨機応変のリリーフ投手起用という短期決戦用兵の限界だった。

(中略)

 こんな話を長々と書いたのも、奇手新手を尽くした末にゴール目前で力尽きたベイスターズの戦い方が、日本政府の経済財政政策にかぶって見えるからだ。

世界同時好景気の下で「異次元の金融緩和」と「マイナス金利」に財政出動を重ね、1~2年で大成果が出るはずが、4年半たっても個人消費や設備投資は一向に増えていない。これで世界景気が下降局面になったときにはどうするつもりなのか。何かの理由で金利が上がり始めれば、日銀が買い込んだ国債や、年金基金などが買い込んだ株式の価格が低下し、国民の資産がそれだけ蒸発することになるのだが、関係者は戦時中の大本営発表よろしく強気の発言に終始するばかりだ。

  自己正当化は人間のならいなので、「若者の雇用は空前の改善を見たのだから、アベノミクスは成功だ」とする向きが増えている。だが、消費も設備投資も増えず唐突に雇用だけが改善するという現実に矛盾を感じないようであれば、経済を語る資格はないだろう。去る7月9日の本欄にも書いたことだが、若者の雇用改善は数の多い昭和20年代以前生まれの世代の最終退職に伴う、著しい人手不足の補充のために生じた自然現象であり、経済政策の成果ではない。総選挙の前後を通じ、この単純な事実を無視するポジショントークが目に余ったので、再度、客観的な数字を示す。

  民主党の菅政権下の2010年10月1日と、アベノミクス3年目の15年10月1日に行われた国勢調査を比較しよう。15年に30歳未満(1985年10月以降の生まれ)の世代の就業者(非正規含む)は、5年の間に428万人増えた。だが、15年に60歳以上(55年9月以前の生まれ)の世代の就業者はこの間に515万人減っている。50~59歳の世代の就業者も34万人減った。雇用主側から言えば、意欲的な新卒採用にもかかわらず、加齢して退職していく中高年の穴を埋めきれなかったわけだ。

 注目すべきは、15年に30~49歳の世代の就業者も、男性に限れば4万人減ったことだ。同世代の女性の就業者が56万人も増えたのは、出産後の職場復帰を促す「女性活躍」政策の成果として政権の姿勢を称賛したいのだが、90年代半ばの就職氷河期に苦労した団塊ジュニア世代の男性には、「アベノミクスの恩恵」は及ばずじまいになっていることがわかる。

  ことほど左様に日本では、若者の雇用動向は、折々の新卒就職の世代と退職者世代の数の違いに左右される。そして、74年を境に出生者数が半減にまで至った日本では、退職者数を新卒者数が補えない事態は今後とも続く。つまり、「若者の就職は容易だが、個人消費は増えず設備投資も促進されない」という状況が、延々と続くということだ。

  人口変動は短期決戦では対処しようのないもので、目先の成果だけを追い求める姿勢は事態のさらなる悪化をもたらす。経済運営はプロ野球の試合とは違い、一瞬の興奮を実現できればいいものではない。政官財学の関係者は、本当に痛い目に遭う前にこっそりと認識を改めて、腹の底で長期戦の構えを固めてほしい。

 

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 出生数・出生率の推移 - 少子化対策 - 内閣府

 

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図2 就業者、雇用者|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT) 統計局ホームページ/労働力調査 用語の解説