万葉集に14首詠まれている山菅(やますげ/やますが).
また,“菅の根”が詠まれている歌は少なくとも18首あり,
この菅の根は山菅の根の意とされています.
菅の根 すがのね 日本国語大辞典の解説
山菅(やますげ)の根.こまかく分かれて長く.土にからみつく.
山菅は実に32首も万葉集で詠まれている!
改めて,この山菅についてまとめてみました.
多くは本ブログのスゲ2,スゲ3で既に記載した内容の繰り返しになりますが---
スゲ2 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/11/30/234136
スゲ3 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/12/01/234518
山菅
日本国語大辞典では,山菅を山に生えているスゲとしています.
①「山に生えているスゲの類.山地に自生するスゲの類.やますが」※万葉(8C後)三・四一四「あしひきの岩根こごしみ菅根(すがのね)を引かば難みと標(しめ)のみそ結ふ」
しかし,
日本国語大辞典②に,ヤブランも候補になる資格ありと思わせる次のような解説が.
②「植物「やぶらん(藪蘭)」の古名.〔本草和名(918頃)〕」
「風土記の食物文化考」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oojc/28/0/28_KJ00000733526/_pdf
によれば,“漢名「麦門冬」は和名「也末須介(ヤマスゲ)」”の記載があるとのこと.
「麦門冬」は本草和名に「根以穣麥故名之和名也末須介(ヤマスゲ)」と記され----.
この“「麦門冬」がヤブラン”ならば全て決着.
—実際,幾つかのウェブサイトでは,「万葉集の山菅はヤブラン」としています—
ですが---
現在の生薬学では,“「麦門冬」はジャノヒゲ”が正解!
ジャノヒゲ
Ophiopogon japonicus (Thunb.) Ker-Gawl. キジカクシ科(Asparagaceae)
(局方)Ophiopogon japonicus Ker-Gawl. ユリ科(Liliaceae)
生薬名:バクモンドウ(麦門冬) 薬用部位:根の膨大部
日本、中国、朝鮮半島などに分布する常緑性の多年草です。花は7~8月に開花し、冬には光沢のある青色の果実をつけます。生薬「バクモンドウ」は本種の根の膨大部で、オフィオポゴニン(ステロイド配糖体)などの成分を含み、鎮咳、止渇、去痰などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、麦門冬湯(ばくもんどうとう)、竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)など23処方に配合されています。葉の形から、蛇のヒゲあるいは竜のヒゲと呼ばれています。日陰でもよく育ち、公園や庭の垣根ぞいに植えられていて、緑の少ない冬ではひときわ目立ちます。
ただし,韓国ではヤブコウジの根を用い,
ジャノヒゲは、生薬「麦門冬」の原植物で、その根の膨らんだ部分が生薬として使用され、「麦門冬湯」などの処方に配合されます。日本、中国では、ジャノヒゲの根が使用されますが、韓国では原植物が異なり、ヤブラン、コヤブランの根が用いられます。
日本でもジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の代用としてヤブランの根が処方されることがあるそうです.
(ヤブコウジの)根は太くて短く、ところどころで肥大する。この肥大した部分は「大葉麦門冬(だいようばくもんとう)」と呼び、咳止めや滋養強壮などの漢方薬としてリュウノヒゲ(小葉麦門冬)の代用になる。
かなりしつこくこの話題を追いましたが,万葉集の山菅(やますげ,やますが)について改めてまとめると,「たのしい万葉集」にあった次の解説が適切と思われました..
山菅(やますげ)
山菅(やますげ)がなにかということについてはいろいろな説がありますが,カヤツリグサ科の菅(すげ)が有力だと思われます.
▽菅(すげ).....カヤツリグサ科の菅(すげ)です.
▽ヤブラン.....ユリ科の多年草.8月~9月頃,林に良く見かけます.つやのある線形の葉と,紫色の小花を穂状につけた花茎が特徴です.
▽蛇の髭(じゃのひげ).....ユリ科の多年草で,冬に濃い青色の実をつけます.竜の髭(りゅうのひげ)とも言います.
スゲはカヤツリグサ科スゲ属の植物
一方
ヤブラン,ジャノヒゲはキジカクシ科の植物.属は異なりますが,両者は近縁の植物です.
キジカクシ科 Asparagaceae,スズラン亜科 Nolinoideae,ヤブラン属 Liriope
ヤブラン L. muscari
ジャノヒゲ
キジカクシ科 Asparagaceae,スズラン亜科 Nolinoideae,ジャノヒゲ属 Ophiopogon,
ジャノヒゲ O. japonicus
菅の根 万葉集
あしひきの岩根こごしみ菅根(すがのね)を引かば難みと標(しめ)のみそ結ふ 大伴家持 万葉集巻三,414
山の岩がごつごつとしているので,寄りつけないまでに辺りに生えている麦門冬の根が,引こうとすると,引きにくかろうというので,只自分の物だ,というしるし許りを付けておくことだ.(障碍多くて,言い入れて見ないが,只他人に奪われぬ様しておく)