「菅」は古事記で三カ所で記されています.
その内の二カ所では,菅で作られた畳,管畳(すがだたみ)として描かれ,昨日とりあげたイワレビコ(神武天皇)がイスケヨリヒメとの一夜の契りを懐かしんだ歌はその内の一つ.
あしはらの しげしきをやに
すがたたみ いやさや敷きて
わがふたり寝し
葦茂る原の 荒れ果てた小屋で
菅のたたみを 清らかに敷き重ね
わが二人でともに寝たおり
現在にも各地に残る菅笠,菅細工に用いられるカサスゲがこの「菅」の候補として有力.
「跡見群芳譜」というサイトに,菅が詠み込まれた歌が,全て記載されていています.数えてみると「菅」を詠む歌が45首,「山菅」を詠む歌が12首.
なお,山菅は,「山に生えているスゲの類.山地に自生するスゲの類(日本国語大辞典①)」とされていますが---
ヤブラン(藪蘭)山菅とは - コトバンク,もしくはジャノヒゲ(蛇の鬚,リュウノヒゲ)(折口信夫 万葉集)である可能性があります(明日取り上げる予定).
いずれにしても”ヤマスゲ(山菅)”は湿地に生えるカサスゲなどとは別種.
なお,日本大百科全書によれば,
“『万葉集』ではスゲはハギ,アシに次いで多く(草本類で比較していると思われます),49首も詠まれている“としています.
また,別のサイトでは菅を詠む歌は44で,万葉の草花としては菅は6番目に多く詠まれている植物.
ただし,この45(もしくは49/44)首のなかで,「菅の根」とあるのは,「山菅」と同じ植物と考えられているようです.
菅の根(読み)すがのね 日本国語大辞典の解説
山菅(やますげ)の根。こまかく分かれて長く、土にからみつく。
※万葉(8C後)三・四一四「あしひきの岩根こごしみ菅根(すがのね)を引かば難みと標(しめ)のみそ結ふ」
「菅の根の」は枕詞としても数多く用いられ,全て数えてみると菅が詠まれた歌の内,なんと18首は「菅の根」.
“「菅」を詠んだ歌45または49/44首”は,
”27または31/26首”に変更する必要がありそうです.
上記のランキングも変更して,
“万葉の草花としては菅は9番目に多く詠まれている植物”
になりますね.
さらに,白菅を詠んだ歌が4首あるとのこと,白菅はシラスゲかもしれません.
シラスゲ Carex doniana カヤツリグサ科 Cyperaceae スゲ属 三河の植物観察
すげ(すが) 菅 万葉集
大君(おほきみ)の 御笠に縫へる 有馬菅(ありますげ) 有りつつ見れど 事無き吾妹(わぎも)
作者不詳 巻十一 2767(2757)
山田卓三 万葉植物つれづれ 大悠社
「大君が用いる笠にする有馬菅のように,いつ見ても,いつまでもわが妻はかわいい」と言っています.
すげは「すが」から転音したもので「すがすがしい」から来ています.この歌は自分の妻とスゲの清浄・清純な姿とを重ねています.
一般にスゲは,カヤツリグサ科のスゲ類の総称ですが,古くは特にカサスゲを指していました.これはその名のように笠を作るスゲの意で,笠菅に由来しています.
カサスゲは平地の浅い池や沢などに生える大形の多年草で,草丈は1メートルにもなります.茎の断面は三角形,中実性で,中がつまっています.
笠のほか,蓑も作っていたので,ミノスゲの名もあります.