ヒトが毒を利用した最古の証拠「切れ目のある木の棒」/ ソクラテスが仰いだ「毒杯」に入っていたとされるドクニンジン(毒と人間 国立科学博物館特別展「毒」より) ボーダー遺跡から発見された「切れ目のある木の棒」(推定約2万4000年前)からトウゴマ成分が検出されました. ソクラテスが仰いだ毒杯の中身はアテナイの刑法からするとドクニンジンが入れられていた.

先日出かけた国立博物館特別展「毒」.独自に調べたことをつけ加えながら,内容を少しずつ紹介しています.主催者も「シェアしよう」とすすめていることもあり.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/archive/category/毒%2F毒展

(大阪展が始まりました.実際にご覧になることをお薦めします.実物の力は偉大です)

https://www.ktv.jp/event/dokuten/

 

今日は第4章「毒と人間」の冒頭にあった,2つの話題.

 

1つは,ボーダー遺跡(南アフリカ)から発見された「切れ目のある木の棒」(推定約2万4000年前).

切れ目のある棒からはトウゴマの成分リシノール酸とリシンレイド酸が検出されました.トウゴマの毒成分リシンが利用されていた証拠とされています.

 

2つ目は,ソクラテスが仰いだ「毒杯」に入っていたとされるドクニンジン.

ニッポニカによれば

https://kotobank.jp/word/ソクラテス-89963

ソクラテスは自分自身の「魂」pschēをたいせつにすることの必要を説き、自分自身にとってもっともたいせつなものは何かを問うて,毎日、町の人々と哲学的対話を交わすことを仕事とした.そして、おそらくはこの仕事のために嫉(そね)まれて告発され,裁判され、死刑の宣告を受け、毒杯を仰いで死んだ.

毒杯の中身は----

アテナイの刑法からすると毒杯の中身は「ドクニンジン」” https://www.lifehacker.jp/article/how-to-not-fear-death-according-to-socrates/

毒はこんな形でも「利用」されていました.

 

ヒトが毒を利用した最古の証拠

発見されたのは矢ではなく「切れ目のある木の棒」.

検出されたのはリシンではなくトウゴマの他の成分.

突っ込まれそうな,エビデンスですが---

“「切れ目のある木の棒」は.現代の採集狩猟民が使うものとほぼ同じもの”

ということで,突っ込みに耐えられるエビデンスと認められているようです.

この話題に関しては,多くの文献がみつかります.ただし英語ですが.

https://www.google.com/search?q=Border+caves,+arrowheads,+poison.&client

 

トウゴマ

トウゴマの種子には細胞毒のリシンが含まれ,ヒトの場合,多臓器不全を引き起こし亡くなる場合もあります.

ニッポニカよりhttps://kotobank.jp/word/トウゴマ-855024

トウダイグサ科トウゴマ属の植物(学名Ricinus communisで、ヒマ(漢名は蓖麻(ひま))ともいう。世界の熱帯と温帯で油脂植物として広く栽培されている。

種子は有毒タンパクのリシンと、アルカロイドのリシニンを含むため、2~3個食べると致死量となる。また、種子は脂肪油を40~50%含むが、その成分の大部分はリシノール酸グリセリドである。

種子あるいは種皮を除いた仁(じん)(果実の核)を冷圧して得たひまし油(蓖麻子油)は下剤として用いるほか、印刷インキ、化粧用ポマードなどに大量に使用される。

 

Ricin toxicity 

https://www.britannica.com/science/ricin#ref285847

リシンの毒性は、タンパク質の合成を阻害し、細胞にプログラムされた細胞死(アポトーシス)を起こさせる性質に基づく。体内に入ると、毒素は容易に細胞内に取り込まれ、急速にアポトーシスを誘導し、数時間以内に中毒症状が現れる。

 

ドクニンジン

ドクニンジンはコニインという神経毒をもち,服用すると筋肉が麻痺して呼吸不全や心不全で死に至ります.

ドクニンジンについては,以前,このブログでも取り上げました.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/02/16/023625

繰り返しになりますが---

 

日本では自生していなかったので問題にならなかったのですが,現在は,三重・千葉,そして北海道に自生しているものが発見されています.

ドクニンジン / 国立環境研究所 侵入生物DB

そして,ヤマニンジンとも呼ばれる山菜のシャクと間違えられた中毒例も!

自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ドクニンジン|厚生労働省

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「ドクニンジンには葉や茎に紫赤色の斑点がありますが、シャクにはありません。またドクニンジンには全草に不快な臭気があり区別は可能ですが、怪しい場合は食べないにこしたことはない」とのこと ドクニンジン |  ハーブの館|日本新薬株式会社

 

ドクニンジンの毒成分コニインは,ニコチン性アセチルコチン受容体のアンタゴニスト(結合して作用を阻害する物質)で,神経系を抑制し,最終的には死に至らしめる.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29135964/

 

ドクニンジンは,

セリ目 Apiales,セリ科 Apiaceae,セリ亜科Apioideae,ドクニンジン属