ゴーヤー1 1軒目:種から葉っぱまで!自慢のゴーヤーを召しあがれ! 「種!?」「種も」「種は捨てるでしょ」「でしょ?スプーンでとって.でも,それも食べるんですって」 料理1:ゴーヤーのかき揚げ 「トウモロコシを入れ忘れても,塩昆布だけは絶対入れてもらいたい」「これ---うまい.お昆布さんと豚肉とゴーヤーのちょっと苦い感じが,バランスが非常にいい!」料理2:葉っぱの天ぷら 「めちゃめちゃうまいです」まんぷく農家メシ「夏をピッタリ!栄養満点のゴーヤー料理 宮崎・宮崎市」NHK 

「さあ始まりました.『まんぷく農家メシ!』でございますけど,梅沢さん」「はい」

「今回は,宮崎県宮崎市にやってきました」「はい」

「え〜なんとですね,この宮崎ですけれども,今回の食材は,ゴーヤーでございますから」

「私たちの若い頃はね,ニガウリかな---って言ってましたね」

「苦手じゃないですか?ゴーヤーは」「いや,大丈夫です」

「あ〜そうですか」「ゴーヤーはしゃぶりついてましたから」

「タマネギは?ネギは?」「-----」

「ははは」「ゴーヤーはね--」

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【司会】東野幸治,梅沢富美男,【語り】鈴木奈々

 

どうも,鈴木奈々です.今回頂くのは,夏にぴったりのゴーヤー.意外な組み合わせがおいしい.梅ヨーグルトあえに,おつまみにも最高のゴーヤーの蒲焼き.そして,子どもも喜ぶ,お子様プレートも!

今が旬!栄養満点のゴーヤーを頂きま〜す.

 

今回の舞台は,宮崎県宮崎市

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宮崎県 都道府県から地図を検索|マピオン

 

宮崎県はゴーヤーの生産量が全国2位.中でも宮崎市は一大生産地です.

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地域特産野菜生産状況調査 確報 平成28年産地域特産野菜生産状況 年次 2016年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

 

ゴーヤーはビタミンCがたっぷり!食欲を増す成分も含まれていて,夏バテにぴったりの野菜なんです.

 

さあ今夏頂く農家メシはこちら.

1軒目:種から葉っぱまで!自慢のゴーヤーを召しあがれ!

「種!?」「種も」「種は捨てるでしょ」「でしょ?スプーンでとって.でも,それも食べるんですって」「え〜」

 

2軒目:夏をのりきる!新米農家のアイデアレシピ!

「これはいいかもしんないよ.みんな,これから暑くなるんでね」「ちょっと,アイデアレシピ.教えてほしい」

 

3軒目:孫に食べてもらいたい!栄養満点お子様プレート

「お子さんはなかなか食べないよ〜」「好き嫌いもあると思うんですけどね」「当然ですよ」「ちょっとね.美味しいレシピを教わりましょう」

「行きましょう」

 

それでは出発しましょう.

 

「さあ,梅沢さん.『種から葉っぱまで!自慢のゴーヤーを召しあがれ!』」「種が食べられるっていうのが,ちょっと不思議だな」「ね〜どうすんのやろ?」

「気候が暖かいから,ゴーヤーが作りやすいんですかね?」「それもあるでしょうね」

 

 1軒目:種から葉っぱまで!自慢のゴーヤーを召しあがれ!

「ゴーヤー.宮崎のゴーヤーでございます」「ゴーヤーね」「ハウスでおそらく作ってると思われます」

「こんにちは」

 

迎えたのは,野崎築(きずき)さん(ゴーヤー農家16年).息子・一将さん.

 

「やっぱ,この太陽の日照時間とか,土とかがゴーヤーに適してるんですか?」「そうですね,やっぱり宮崎は温暖で日照時間が長い.で,やっぱりお日様の光が適当にあたるっちゅうことで,条件が揃ってるんで,ビタミンCが多いということですね」

 

特に宮崎産のゴーヤーは,ビタミンCが多く含まれているんですって.

 

「初めてじゃないですか?カメラさん」「ちょっと教えてほしいん---.あ!あった!あった!ゴーヤー.これこれこれこれ.これで収穫のどれくらい前?」「え〜っと,それで5日ぐらい前でしょうか.あと五日ぐらいしたら,これぐらい.もうこれぐらいに--」

「うわっ,でかっ」「これは,もう収穫ですよね」「はい,収穫時期」

 

ゴーヤーは,20センチを越えたら収穫時.立派ですね.

野崎さんのお宅では,多いときには,一日2000本近くもとれるそうです.

 

「これは,作るうえで苦労されることって,どういうことが?苦労がありますが?」

「やっぱり,交配作業ですね.これ,雌花っていって」「はい,雌花」「もう花の下にちっちゃいゴーヤーがついているんですよ.これに雄花っつってですね」「受粉させるんですか?」

「はい,全部,人間の手で」

 

花の下に,小さなゴーヤーがついているのが雌花.何もついていないのが雄花です.

雌花が受粉しないと,実は大きくならないので,手で作業を行います.

 

「この花びらを,こうやって折ってですね,全体に--片一方じゃなくて,全面につけてやるんですよ.と,生育がものすごくいいんですよ」

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7月「人工授粉」編 | 1分間動画&育て方ガイド | みどりのある暮らしの楽しみ

 

「この,受粉を---奥〜までありますよ.カメラさん.写して下さい.奥〜までありますよ.これ,全部やんの?手作業で」「手作業で」

「え〜!じゃあ,お父さんが雄花持って,雌花探し.また,雄花持って雌花探し」「そうですそうです」

「これで,雌花妊娠させるじゃないですか,ほんだら,どれくらいで----」

(梅沢さん,受粉作業をしています)

「花びらを握って,軽く握って下さい.それで,そうです.それで着果します」

「着果っていうの.それ」「はい.これで,今日つけて,大体二週間ぐらいで,さっきみたいな,大きくなります」「え〜二週間ですって」

「私が受粉させたゴーヤーですよ」「これ,書きますわ」「ね,梅沢富美男が--」

「あ〜,梅沢さんが妊娠させたっていうことですか?」「はははは」

「でも,これ,全部,手作業でする---例えばハチがやってくれたりとか,良くあるじゃないですか.そんなんじゃないんですか?」「はい,ハチはですね,もちろんつけると思うんですけど,花がですね,最初から,こうやって曲がった花もあるんですよ.それにもハチはつけるんですよ.結局,今度はそれが大きくなったら,逆に摘果して取り除く」

「間引き,せんていしていかなアカンから--」「こう言った曲がったやつは,もう,大きくなっても曲がったままで大きくなるんですよ」「良くありますよね.こんなんなってるやつ」

「だから,やっぱり,ええ見栄えのやつをつくろう,っていうことで,自分で雄花ちぎって雌花持っては---」

 

苦労して作ったゴーヤー.

まずは,生で食べさせて頂きます.

 

「そんなー苦くないですよ」

「そんなに苦くはないけど,苦いです.でも,このぷつぷつが食感があるんで,みずみずしいです.不思議」

「このイボがですね.全部,水分がたまって---1個1個に」

「わかるわかる」「ここに水分たまってるんだ」「そうです」

「かめばかむほど,水分が出てきます.これは,ふだんは生で食べないんで,ちょっと今から調理の方,お願いします」

 

それでは種から葉っぱまで食べられるゴーヤー料理を頂きましょう.

 

「私の妻で野崎るみ子です」

「るみ子ちゃん.お願いします」「お願いします」

「結婚して何年ですか?るみ子ちゃんは」「37年ですね」

「お互い,地元で?」「はい,そうです」

「お手伝いもされてるんでしょ?一緒にやって」「あっ.もう嫁いだ日から,ずっと一緒に仕事してます」

「そうですよね」「はい」

「嫁いだその日から.甘〜い新婚時代もなく」「そうです」「はははははは」

 

そんなこと言ってますけど,出会ったときは,お互い,一目惚れだったそうですよ.

 

「今日は何を作ってくれますか?奥さんお願いします」

「はい,丸ごとゴーヤーということで----.ワタと種を入れたかき揚げを作りたいと思います」

「え〜!」「種も」「はい」

「ゴーヤーの種なんて,俺,何十年と料理してるけど,全部捨てたわ」

「捨てますよね.これうまいの?」「はい」

「お父さんが『これうまいっすよ』って」「うまいです」「マジで?」「はい」

 

作り方は--

 

料理1:ゴーヤーのかき揚げ(4人分)

レシピ(BSプレミアム) - 梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ! - NHK

材料  ゴーヤー(1本),塩昆布(15g),トウモロコシ(50g),豚肉こま切れ(100g),

薄力粉(大さじ2)

 <衣液>薄力粉・水(各1/4カップ

作り方

 ① ゴーヤーを縦半分に切り,ワタと種を除いたら約2mm幅の薄切りにする.

(ワタと種はとって置く)

② ①に塩昆布を加えて軽く混ぜ,5分ほどおく.

③ ②にトウモロコシ,一口大に切った豚肉,薄力粉を入れて混ぜ合わせ,

とっておいたワタと種を一口大にちぎって加える.

④ ③と衣液をさっくりと混ぜ合わせ,一口大ずつを170度の油に落とし,

約4分間揚げる.

*ワンポイント ・ゴーヤーは薄切りすることでほかの具材となじみがよくなる

・塩昆布の塩でゴーヤーから水分が出るので,衣液は少しかためにする

・揚げるとワタはトロリ,種はカリッとした食感になる

 

ボールを手で押さえる一将さん.

「お兄ちゃん,いいね」「ホンマ.お兄ちゃん,優しいわ」

「トウモロコシを入れ忘れても,塩昆布だけは絶対入れてもらいたい」

「あの〜皆様,トウモロコシは忘れてもいいけど,塩昆布だけは忘れるな」

「塩昆布を入れるんで,揚げたときに調味料がいらない」

「なんにもいらない」

「塩昆布の塩がついてるんですよ」

「全く調味料がいらない」「ね〜.ポイントは塩昆布」「そうです」

 

更に野崎さんちでは,ゴーヤーの葉っぱも食べているんです.

 

料理2:葉っぱの天ぷら

レシピ(BSプレミアム) - 梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ! - NHK

材料 ゴーヤーの葉,衣液(各適量)

作り方 ① ゴーヤーの葉に薄く衣をつけ,油で揚げる.

 

「葉っぱも食べる!」「はい」

「ゴーヤー生産者で,葉っぱを食べるっていうのは,うちだけじゃないかなと思うんですよ」

「そうでしょ?俺もあんまり聞かへんから.でも,ちょっと,これを機にね」

 

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レシピ(BSプレミアム) - 梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ! - NHK

 

「どうですか.どうですか---?」

「これ---うまい.お昆布さんと豚肉とゴーヤーのちょっと苦い感じが,バランスが非常にいい!」

「あ〜おいしい!あのワタがちょっと硬くなった食感みたいのものもあるじゃないですか.それも美味しいですよね」

 

葉っぱのお味はどうでしょうか?

 

「ぜんぜん苦くない」「大葉と一緒ですよね」

「めちゃめちゃうまいです.これはもう,ビールですね」「最高だわ」

「最高ですよ.いや,ええもん食べれた」「はい」

「何か,ゴーヤーのイメージ,変わりました」「変わりました」

「ちょっと,ぜひぜひ,かき揚げ,やって下さい」「やって,奥さん」

「大事なのは塩昆布.それがずっと頭にのこってますんで」

 

私も塩昆布,入れてみます.

ゴーヤーを丸ごと使ったかき揚げと天ぷら.ごちそうさまでした.

てんびん座2 てんびん座の天秤の持ち主には,女神テュケーの名も.「運命の女神テュケーの天秤が,てんびん座として星々の間におかれました.テュケー自身もおとめ座とされる女神の1人です」 テュケー,そしてローマ神話でテュケーと同一視されたフォルトゥーナは,沢山のシンボルとともに描かれます.「舵」「球」「豊穣の角(コルヌコピアイ)」---- 後年,Lady Justice(ユースティティア)と同様目隠しをして描かれることもありましたが,Lady Justiceと違って,天秤は持ちませんでした.

てんびん座のギリシャ神話(2)

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星座図鑑・てんびん座

てんびん座は,もともとは古代メソポタミアの星座でした.

アッカド語では,Zibanitu.シュメール語ではZI.BA.AN.NA.どちらも天秤を意味していました.Star Myths | Theoi Greek Mythology  

古代メソポタミアの星座名を引き継いだギリシャでは,ギリシャ神話に登場する女神が持つ天秤とされています.その天秤を持つ女神はおとめ座の女神.

おとめ座の女神/女性の候補5名の中で天秤を持つ資格のある女神が2人います.

その1人がアストライアー

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/06/17/012705

 

天秤の持ち主とされるおとめ座のもう1人の女神は

テュケー

この女神についても,既に本ブログで取り上げています.以下,かなりの部分が繰り返しになりますが---

 

ヘシオドスによれば,テュケーは3000人いるというオーケアニス(またはオーケアニデスOceanides :オーケアノスとティテュースの娘たち)の1人.

運命(fortune),運/巡り合わせ(chance),摂理(providence),宿命(fate)を司る女神.

 

天秤は運命/宿命をはかる天秤となります. 

 

運命/宿命の天秤 Star Myths | Theoi Greek Mythology  

運命の女神テュケーの天秤が,てんびん座として星々の間におかれました.テュケー自身もおとめ座とされる女神の1人です.(偽ヒューギヌス 天文詩)

SCALES OF FATE

The scales of Tyche, goddess of fortune, were set amongst the stars as the constellation Libra. Tyche herself was one of the goddesses identified as Virgo. (Hyginus 2.25.) Star Myths | Theoi Greek Mythology  

 

テュケーはいくつかシンボルとともに描かれます.

TYCHE (Tykhe) - Greek Goddess of Fortune & Luck (Roman Fortuna)

・「舵(かじ)道案内して,世の中の出来事を差配している女神の象徴

・「球」(不安定な運命を象徴:どの方向へも転がすことができる

 

テュケーは,幸運の贈り物を象徴する女神ともみなされ,次のような人物 / 持ち物とともに描かれることも.

TYCHE (Tykhe) - Greek Goddess of Fortune & Luck (Roman Fortuna)

・「富を司る神プルースト

・「豊穣の角(コルヌコピアイ)」

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TYCHE (Tykhe) - Greek Goddess of Fortune & Luck (Roman Fortuna)

“公平な分配”を司るネメシスと連れ添って描かれることがあり,ネメシスは幸運(テュケー)でもたらされる「いきすぎた恵み」をチェックします.

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TYCHE (Tykhe) - Greek Goddess of Fortune & Luck (Roman Fortuna)

テュケーは,ローマ神話の幸運の女神フォルトゥーナ(Fortuna ⇒*注1)と同一視されました.

フォルトゥーナはユーピテル(英語名ジュピター:ギリシャ神話ではゼウス)の娘とされ(⇒注2),とてもポピュラーな女神だったとのこと.その人気は中世まで続いていました(英語版ウィキペディア).

 

そして,フォルクトゥーナも沢山のシンボルを持って描かれます.

(上記テュケーの持ち物とされたものは,このフォルトゥーナの持ち物の事かもしれません.これらのシンボルを持つ古代ギリシャのテュケー像を捜せませんでした)

日本語版ウィキペディアによれば,

 運命を操るための舵を携えており,

 運命が定まらないことを象徴する不安定な球体に乗り,

 幸運の逃げやすさを象徴する羽根の生えた靴を履き,

 幸福が満ちることのないことを象徴する底の抜けた壺を持っている.

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フォルトゥーナ - Wikipedia

幸運の女神として描かれることがあるものの,基本は「運命(幸福も不幸も)を司る女神」ということですね.

英語版ウィキペディアによれば,Fortuna - Wikipedia

正義の女神Lady Justice(ユースティティア:ギリシャ神話アストライアー/テミスに対応するローマ神話の女神)と同様に,「公平さ」を象徴する目隠しをして描かれることがあるそうです.

ただし,

Lady Justice(ユースティティア)が天秤を持っているのに対し,フォルトゥーナは天秤を持っていないとのこと.

 

てんびん座を運命の女神の持ち物と見なしたギリシャ人(ローマ人も?).

しかし----

テュケー/フォルトゥーナの持ち物の中に,天秤はなかったようです.

 

⇒注1 英語Fortuneは,この女神の名前に由来します.

Fortune  Origin  :Middle English via Old French from Latin Fortuna, the name of a goddess personifying luck or chance. fortune | Definition of fortune in English by Lexico Dictionaries

⇒注2 ギリシャ神話でも,テュケーはゼウスの娘とする記述がみられます.

てんびん座1 てんびん座は,もともとは古代メソポタミアの星座でしたが,古代メソポタミアの星座名を引き継いだギリシャでは,ギリシャ神話に登場する女神が持つ天秤とされています.天秤を持つ女神はおとめ座の女神.その1人がアストライアー: 正義の女神の天秤は,てんびん座として,天の彼女のそばに置かれ,彼女自身はおとめ座になりました.(ヒューギヌス 天文詩)

てんびん座のギリシャ神話

 

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星座図鑑・てんびん座

 

てんびん座は,もともとは古代メソポタミアの星座でした.

アッカド語では,Zibanitu.シュメール語ではZI.BA.AN.NA.どちらも天秤を意味していました.

LIBRA

Latin : Libra (the Scales)

Greek : Zyygos (the Scales) or Khêlai (the Claws)

Akkadian : Zibanitu (the Scales)

Sumerian : ZI.BA.AN.NA (the Scales)

Star Myths | Theoi Greek Mythology  

 

古代メソポタミアの星座名を引き継いだギリシャでは,ギリシャ神話に登場する女神が持つ天秤とされています.

その天秤を持つ女神はおとめ座の女神.

 

そして,おとめ座の女神/女性の候補5名の中で天秤を持つ資格のある女神が2人います.

 

その1人がアストライアー

アストライアーについては,

おとめ座(*新1) http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/11/223156

おとめ座(*新2)http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/12/155043

で取り上げました.

その際てんびん座にも触れています.

以下,その繰り返しになりますが----

 

正義の天秤 

アストライアー,正義の女神の天秤は,てんびん座として,天の彼女のそばに置かれ,彼女自身はおとめ座になりました.(ヒューギヌス 天文詩)

 

SCALES OF JUSTICE

The scales of Astraea, the goddess of justice, were placed beside her in the heavens as the constellation Libra. Astraea herself was Virgo. (Hyginus 2.25.)

Star Myths | Theoi Greek Mythology  

 

正義のヴァージンゴッデス,アストライアーは,ギリシャ神話ではあまり多くの記述はみられませんが---

 

古代ローマで同一視された女神が,ユースティティア.

天秤を持った像が“Lady Justice"として,各地の残されています.

ただ,このLady Justice像はギリシャ神話の女神テミスとされることも多いのに対し,女神アストライアーが正義の天秤を持っている像や絵画は残されていません.

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Lady Justice - Wikipedia

 

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夏の星座 夏にみられる星座の多くのものにも.対応するギリシャ神話が知られています.黄道十二宮の星座,てんびん座,さそり座,いて座を含めて.しかし,てんびん座,さそり座は,ギリシャ神話が起源となった名前というわけではありません.それぞれに,古代メソポタミアの言語アッカド語,シュメール語で,同じ「天秤」「さそり」を意味する名前が付けられていました.

梅雨の季節.

夜空に星が見られる時間は限られますが---

夏の星座が私たちの季節とばかり輝いている---はず.

 

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5月の午前2時,6月の午前0時,7月の午後10時,8月の午後8時,頃見える星座 https://www.study-style.com/seiza/summer.html

 

夏の星座一覧

星座図鑑・夏の星座 https://www.study-style.com/seiza/summer.html

(*黄道12星座,下線:対応するギリシャ神話あり)

星座名・ 略符 / ラテン語学名 ( 英語名 ) : 位置の目安(20時頃南中の時期)

いて(射手)*  Sgr  / Sagittarius (the Archer  ) : 9月上旬

いるか(海豚)・Del  / Delphinus  ( the Dolphin)  :  9月下旬

こぎつね(小狐)・ Vul  / Vulpecula  (the (Little)Fox) : 9月中旬

こと(琴)・Lyr  / Lyra   ( the Lyra) :8月下旬

さそり(蠍)* ・ Sco   /  Scorpius  ( the Scorpion) :7月下旬

たて(楯)・ Sct  / Scutum  ( the Shield) : 8月下旬

てんびん(天秤)*・Lib  /  Libra (the Scales) :  7月上旬

はくちょう(白鳥) Cyg /  Cygnus ( the Swan )  :9月下旬

へび(蛇)・Ser / Serpens (the Serpent ) ; 7月中旬〜8月中旬

へびつかい(蛇遣)・ Oph / Ophiuchus  (the Serpent Bearer):8月上旬

ヘルクレス・ Her  / Hercules ( the Hrecules ) : 8月上旬

みなみのかんむり(南冠)・ CrA  / Corona Australis (the Southern Crown) 8月下旬

や(矢)・ Sge  / Sagitta  (the Arrow) : 9月中旬

りゅう(竜)・Dra / Draco (the Dragon) : 8月上旬

わし(鷲)・ Aql / Aquila (the Eagle) :9月上旬

 

  

the Theoi Projectのサイト(the Theoi Project “Star Myths”   Star Myths | Theoi Greek Mythology  によれば,下線を引いた星座(図では太線の四角で囲んだもの)には,対応するギリシャ神話が知られています.

 

*を付けた星座は,いわゆる黄道12星座.

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 星占いで使われる各星座に対応する“誕生日”(このときは太陽と同じ処にある)より3-4ヶ月早い時期に夜空でみることができます.

 

てんびん座 /星座占い誕生日9月23日~10月23日 ⇒20時南中は7月上旬

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Star Myths | Theoi Greek Mythology 

 

さそり座 /星座占い誕生日10月24日~11月22日 ⇒20時南中は7月下旬

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Star Myths | Theoi Greek Mythology 

いて座/星座占い誕生日11月23日~12月21日 ⇒20時南中は9月上旬

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Star Myths | Theoi Greek Mythology 

 

この三つの星座は,それぞれに,対応するギリシャ神話が知られています.

 

とは言っても----

てんびん座,さそり座は,ギリシャ神話が起源となった名前というわけではありません.

それぞれに,古代メソポタミアの言語アッカド語,シュメール語で,同じ「天秤」「さそり」を意味する名前が付けられていました.Star Myths | Theoi Greek Mythology 

 

てんびん座

Latin : Libra (the Scales)

Greek : Zyygos (the Scales) or Khêlai (the Claws)

Akkadian : Zibanitu (the Scales)

Sumerian : ZI.BA.AN.NA (the Scales)

 

さそり座

Latin : Scorpio (the Scorpion)

Greek : Skorpios (the Scorpion)

Akkadian : Zuqaqipu (the Scorpion)

Sumerian : GÍR.TAB (the Scorpion)

 

各星座のギリシャ神話は,古代メソポタミアの名前に合わせて,新たに作られたり,既存のギリシャ神話が当てはめられた結果でしょう.

 

それに対し,いて座については,シュメール語の名前があるものの,その正確な意味がまだ不明なようです.

 

明日は,てんびん座のギリシャ神話.

おとめ座が誰か?というこのブログでもたくさん取り上げた話題が,てんびん座の意味を決めることになります.

いかにも梅雨,という一日.6月は「気象学的季節」では夏の始まりですが,6月を初夏とは誰も言わない? やっぱり,「春は短く,夏は長い」!七十二候「梅子黄(うめのみきばむ)」の今日,梅ならぬアンズジャムを大量に作成!

いかにも梅雨,という一日でした.

 

そんな日のブログのネタ.

ほとんどが,以前取り上げたものばかりになってしまいました---

 

昨日も取り上げたアジサイ

梅雨時の庭を彩っています.

そのほかには---?

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片隅の小さな美しく姿はキョウガノコ

シモツケソウの古くからある園芸種(下野草(シモツケソウ)と越路下野草(コシジシモツケソウ)の交雑種?)です.

どのサイトでも絶賛する言葉が並びます.

 「日本の気候や美意識によく合った花」「せつなくなるまでに愛らしい花姿」----  キョウガノコ 新・花と緑の詳しい図鑑 京鹿子(キョウガノコ) | 日本園芸福祉普及協会

 

ナンテンは花盛り.やや地味で目立ちませんが--- 秋の赤い実の準備.

 

やっぱり,「春は短く,夏は長い」

6月は,気象学的季節(⇒国立天文台 暦Wiki/季節 - 国立天文台暦計算室 )では,夏の始まり.

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---ということは「6月は初夏」? 

しかし,「梅雨が夏の始まり」は,体感的になかなか受け入れがたいものがあります

 

5月に感じたこと

「日常的には5月から8月まで4ヶ月間を夏と考えている」

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/05/24/013549  

は,梅雨に入って,確信に変わりつつあります.

 

「5月が初夏(伝統的季節 - 節季区切り)」

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「6月は梅雨」

「8月までが夏(気象学的季節)」

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が多くの方々による夏のとらえ方のように思いますが---?

 

その結果---

 春は短く(3・4月),

 夏は長い(5・6・7・8月).

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暦Wiki/季節 - 国立天文台暦計算室

 

24節季72候

24節季は太陽の位置に基づくものですから,「春分」「立夏」「夏至」「立秋」「秋分」などが含まれ,これらは,季節の区切りを語る上で欠かせないものとなっています.

ただし,季節の説明は,中国のものそのままなので,日本の気候には合わないものが残されています

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二十四節気|暮らし歳時記

 

一方,あまり意識することがない72候.

日本の季節の移ろいを描写しています.

現代の生活に合わないものも見られますが,

自然と共にある季節を知る指標として,今も十分に役立ちます.

 

今日は

二十四節気芒種(ぼうしゅ)」

(中国:稲・麦など芒(のぎ)をもつ穀物の種をまく時期)

 

七十二候「梅子黄(うめのみきばむ)」

(梅の実が黄ばんで熟す頃.青い梅が次第に黄色みをおび,赤く熟していきます)

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二十四節気|暮らし歳時記

 

我が家のウメはまだ色づきません.

でも,青果店には,梅が並ぶようになりました.今日見たお店では,和歌山県産.

少しだけ色づいたものも.

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梅とごく近縁のアンズ.

(ウメの多くは,アンズとの雑種! http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/01/09/000233 )

色づくのはウメよりずっと早く,我が家のものは,ほとんどが木から落ちてしまいました.

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上の写真はほんの一部.

拾い上げたバケツ半分ぐらいのアンズから,今日は,大量のジャムを作成!

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1.梅雨の時期の花と言えば,やはりアジサイ.でも,アジサイは,梅雨明けまで,庭を彩ってくれるわけではありません. 少なくとも我が家の庭では. 2.花瓶にさした花は,ナナカマド? ホザキナナカマド?30センチに満たない,とても小さな苗を買い求めたのは,7,8年前. 「ナナカマド」として売られていたもの.丈は,今,1.5メートルぐらいでしょうか.昨年初めて花が咲きました.しかし,ナナカマドの花とはどうも違うように見えます.花の姿が似ているのは,7.8月開花というホザキナナカマド.

梅雨の時期の花と言えば,やはりアジサイ

我が家の庭も,今一番元気な花はアジサイです.

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ハイドランジア(⇒1)とよばれる西洋あじさいが広まりって以来(⇒2),梅雨空の下の庭を華やかなものにしてくれています.

 

ただ,我が家のアジサイ何種類かあるうちで,現在元気なのは,上の2種.画像右側はもう最盛期を過ぎているので,厳密には1種. 

まだまだ続く梅雨.

梅雨明けの“平年”(過去三十年間の平均)は7月21日頃.

気象庁 | 過去の梅雨入りと梅雨明け(関東甲信)

「最近梅雨明けが少しずつ早まっていること等を考慮すると,早くて7月10日,遅くて7月24日」としているのは “2019 梅雨入り・梅雨明け予想Navi【2019年版】” http://tsuyu.biz/kanto/

アジサイは,梅雨明けまで,庭を彩ってくれるわけではありません.

少なくとも我が家の庭では.

 

⇒1 ハイドランジアは,アジサイ属の学名(ラテン語Hydrangea .日本のホンアジサイを元に,フランス・アメリカで品種改良された品種.アジサイの歴史、広がる品種の世界 | NHKテキストビュー 

⇒2 同じく アジサイの歴史、広がる品種の世界 | NHKテキストビュー によれば,

ハイドランジアが日本に広まったのは,1984年(昭和59年)“ミセスクミコ”という品種が種苗登録されて以降だそうです.

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http://hananoyakata.shop-pro.jp/?pid=31502647

その後,「墨田の花火」「城ヶ島」などがヒットし,

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https://sodatekata.net/flowers/page/548.html

また,山野で見付けられたヤマアジサイ(清澄沢;房総の清澄山で発見された,等)も品種改良に用いられ,品種の数は450を越えようとしている(2018年)とのこと.

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花瓶にさした花は,ナナカマド? ホザキナナカマド?

十日前,ガクアジサイ:我が家のものでは一番気に入っている品種,を母が生けたところへ,庭の白花をさして,写真に撮りました.

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なかなか美しい花です.

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ただ---

名前がはっきりしません!

30センチに満たない,とても小さな苗を買い求めたのは,7,8年前.

「ナナカマド」として売られていたものです.

 

「盆栽にでもするの?大きくなるよ」とは店主の言葉.

内心「しまった」と思いつつそのまま購入.おそるおそる鉢に植えておいたところ,一向に大きくならない.水をやるのも面倒と,地植えにして3年.丈は,今,1.5メートルぐらいでしょうか.昨年初めて花が咲きました.

 

しかし,ナナカマドの花とはどうも違うように見えます.

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樹木図鑑(ナナカマド) 北海道の街路樹 「ナナカマド」。冬でも赤いままの実は、鳥たちの大切なごちそう !!(tenki.jpサプリ 2015年10月12日) - 日本気象協会 tenki.jp

 

花の姿が似ているのは,ホザキナナカマド.

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ナナカマド(七竈) - 庭木図鑑 植木ペディア ホザキナナカマド - 庭木図鑑 植木ペディア http://www.neko-net.com/hana/archives/11610

 

ただ,ホザキナナカマドの開花期は7.8月とネット上に.

我が家の花は既に終わっています.

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ホザキナナカマドの情報がやや少ないため,7.8月開花というのが,どの地方での開花なのかが確かめられません.

初夏に開花といわれるナナカマドの場合,関東では4月から咲くとの情報もあり---

ホザキナナカマドであってほしい.ナナカマドと違って,あまり大きくならず,我が家でもキープできそうなので.

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「無属の人」と「8050問題」 このような事件(川崎殺傷事件)は「拡大自殺」とも呼ばれる.ひろゆき氏は「無敵の人」が増えると予見.私見では,「無敵」というより「無属の人」と呼ぶべき.背景には,個人主義の台頭と「包摂型社会」から「排除型社会」への移行が指摘できる.私たちは三つの「排除への不安」を抱えている.「死にたいなら一人で死ぬべきだ」は社会的排除に苦しむすべての人々の現状を「自己責任」論へと収斂しかねない.「個人的」に「家族だけ」で背負うにはあまりに重い.水無田気流 東京新聞社会時評

「無属の人」と「8050問題」 

「家族だけ」では解決困難   水無田 気流

  東京新聞 2019年6月12日(水曜日)夕刊 社会時評

 

 「社会から孤立した中高年」を軸に,やりきれない事件が続く.五月二十八日に,川崎市で五十一歳の男が登校時間にスクールバスに乗ろうとしていた小学生やその保護者を包丁で襲い,二十人を殺傷.その後すぐに,男は自殺した.

 

 このような事件は,社会的孤立や絶望感,長期にわたる不満により,不特定多数の人々を巻き込んだ壮絶な「無理心中」の性質を持つため,精神医学では「拡大自殺」とも呼ばれる.

類似の事件に,古くは戦時中の「津山三十人殺し」から,近年では二〇〇一年の「付属池田小事件」,〇八年の「秋葉原通り魔事件」,一六年の「相模原障害者施設殺傷事件」などがあげられる.世界中で問題となっている「自爆テロ」も,これに類する.

 

 ネット掲示板2ちゃんねる」の創設者・ひろゆき氏は,かつて「失うものがない」がゆえに,大胆な犯罪行為に及ぶ「無敵の人」が増えると予見.この言葉は,事件直後からネット上で話題となった.私見では,彼らは「無敵」というより「無属の人」と呼ぶべきではないか.

 

 犯罪社会学者のジャック・ヤングは,近年の社会変化と犯罪との関係を,次のように述べた.

先進産業国では,一九七〇年初頭より以前から犯罪発生率が上昇し始め,その後景気の後退とともに加速した.

背景には,個人主義の台頭と,それにともなう「包摂型社会」から「排除型社会」への移行が指摘できる.

八〇年代から九〇年代にかけて,製造業を中心とする安定した労働市場が再編されるとともに,既存の家族関係・コミュニティーとの関係も解体・再編され,社会の分断も進んでいった,と.

 

 ヤングの説を軸にすると,私たちは現在,三つの「排除への不安」を抱えている.

第一に,自らが労働市場から排除される不安.

第二に,人々の間から社会的に排除される不安.

第三に.これらから排除された「孤立した他者」により,犯罪被害に遭う不安.

以上である.

 

 「不安」に具体的な対象はないが,「恐怖」はそれをもつ.

「無敵の人」は,不安を恐怖に転化し,具体化させるマジックワードかもしれない.そして「恐怖」が極点に達したとき,人々の感情的爆発が起こる.

川崎殺傷事件の犯人に対し,テレビのコメンテーターが「死にたいなら一人で死ぬべきだ」と発言し物議を醸したのは,この代表だろう.

 

 個人的には,子どもが被害者となる悲惨な事件には,近ごろめっきり弱くなってしまった.だから同発言の「感情」は分からなくもないが,道義的には容認しがたい.

これは孤立し死を考えるほど追い詰められた人,ならびにその関係者への想像力を欠くだけではなく,社会的排除に苦しむすべての人々の現状を,「自己責任」論へと収斂(しゅうれん)しかねないからだ.

 

 この雰囲気に呼応するかのように,六月一日,七十六歳の元農水相次官が四十四歳で引きこもりの息子を殺害する痛ましい事件が起きた.

隣接する小学校の運動会がうるさいと言う息子に対し,同容疑者は怒りが子どもに向かうことを恐れ「殺すしかない」と決意したとみられる.その絶望的な決意に,言葉を失う.

 

 これらの事件には,高齢社会も大きな影を落とす.川崎殺傷事件の犯人は五十代の引きこもりで,同居の伯父夫婦は八十代.「8050問題」と呼ばれる「中高年引きこもりの子どもとそれを支える老親族」の家族問題でもあるのだ.

 

 内閣府は今年三月,自宅に半年以上閉じこもっている「引きこもり」の四十〜六十四歳の人が,全国で推計六十一万三千人いるとの調査結果を発表した.

労働市場や社会関係が急速に変動する中,適応できずはじき出された人たちを支援する責任は,現状ではまず家族が負わされる.「個人的」に「家族だけ」で背負うにはあまりに重い,と言わざるを得ない.

 (みなした・きりう=社会学者,詩人,国学院大経済学部教授)

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東京新聞 2019年6月12日(水曜日)夕刊 社会時評
 

ササ / 小竹 アメノウズメが手草(たぐさ/たくさ)として,手に持って踊るササ.篠とも表されるヤダケ・メダケの種類と考えられます.ササを手にもって踊ることがある伝統歌舞が現代にも残っています.神楽です.「御神楽」の「採物(とりもの)」としてササが認められ,また,「里神楽」巫女舞でも同様です.ただし,現在は,ほとんどの場合,榊が用いられているようですが.植物をたどって古事記を読む(12)

古事記,岩戸隠れの物語にある5つの植物を取り上げてきましたが,

最後は

ササ 小竹.

 

アメノウズメが手草(たぐさ/たくさ)として,手に持って踊ります. 

“三浦祐介著 口語訳古事記

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,

 

ササを手にもって踊ることがある伝統歌舞が現代にも残っています.

神楽です.

神楽には,宮中で行われる「御神楽」と,民間で行われる「里神楽」がありますが,どちらにもササを持つ踊りが伝わっています.

ただし,ササも認められはしていますが,実際に舞われるときには,ほとんどの場合,榊の様ですが.

 

「御神楽」とササ

御神楽ではササは「採物(とりもの)」の一つとして位置づけられています.

 

以下は,日本大百科全書の“神楽(かぐら)“神楽(かぐら)とは - コトバンク” ,“採物(とりもの)採(り)物(トリモノ)とは - コトバンク ,日本国語大辞典の“神楽”神楽(かぐら)とは - コトバンクを主な情報源とした関連事項の簡単なまとめ.

 

神楽は,アメノウズメの子孫とされる猿女(さるめ)が行った鎮魂術として始まり,古語拾遺(807)に「猿女君氏、神楽(かぐら)の事を供(たてまつ)る」とあります.

宮中の御神楽は各地の古神楽が母胎となり、11世紀初頭に整理、統一されたもの.

舞人は手に「採物(とりもの)」を持って踊ります.この「採物(とりもの)」は,下記の9種と決められていて,この 採物(とりもの)の歌をうたう「採物の部」が,「試楽」の次に用意されています.

 

「採物(とりもの)」:

(さかき)・幣(みてぐら)・杖(つえ)篠(ささ)・弓・剣(つるぎ)・鉾(ほこ)・杓(ひさご)・葛(かずら)

 

今日では榊の歌を選んで歌うとのことですが,上記の一覧には榊,葛とともに,ササの名前が!

アメノウズメが身につけていた物がしっかり入れられています.

そして,これら「採物(とりもの)」は,本来は,神霊の依(よ)りつく依り代(しろ),正月松飾りの松に当たるもの,としての意味を持っています.

 

なお,日本大百科全書「神楽」では,ササを「篠」と表記しています.口語訳古事記(三浦祐介著)で,「小竹」と書いてササと読ませる植物群は同じ物と考えてよいでしょう.

 

篠 しの:稈(かん)が細く,群がって生える竹類.篠の小笹.篠竹.しぬ.しのべ(日本国語大辞典篠(しの)とは - コトバンク

種類としては,ヤダケ,メダケなどですね.我々がササと聞いて思い浮かべる「笹」(クマザサ等)とは異なり,まさに小竹.

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ヤダケ - Wikipedia メダケ Pleioblastus simonii イネ科 Poaceae メダケ属 三河の植物観察

里神楽」とササ

民間で奏される神楽で,古くは石清水,加茂,祇園などの諸社で宮廷の楽人が奏した神楽も里神楽と称したとのこと.

形態の上からは,巫女(みこ)神楽、出雲流神楽伊勢流(いせりゅう)神楽、獅子(しし)神楽の4種に分類されています.

そして,巫女神楽には,ササを手にした舞が残されているとのこと.

 

巫女舞 ウィキペディア 

巫女舞 - Wikipedia

---古態(「神懸かり系」)を残すところもあるが,現在では優雅な神楽歌にあわせた舞の優美さを重んじた後者(「八乙女系」)がほとんどである.

千早・水干・緋袴・白足袋の装いに身を包んだ巫女が太鼓や笛,銅拍子などの囃子にあわせて鈴・扇・・榊・幣など依り代となる採物(とりもの)を手にした巫女が舞い踊る.

 

ただし,巫女舞の検索画像からは,ササを持って踊る巫女の姿は見付けられませんでした.榊 / 鈴を手にした画像がほとんど.

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えびすガール特別編(5月) 美保神社【巫女舞】|美保関町観光公式サイト|島根県松江市美保関町

 

なお,各地の神社には,笹踊りという神事舞(じんじまい)が残されています.

神楽をどれぐらい引き継いだ舞なのか調べることはできませんでした.画像などを見る限り,朝鮮通信使などの影響が見受けられる舞のようです.

いずれにせよ,笹舞いでは,笹は手に持つものではなく,踊り手とは別の者が捧げ持つ形で, 舞が進行しているように見受けられます.

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 豊橋祇園祭|吉田神社

 

ササを取り上げるのは,このブログで二回目です.初回は「写すだけ万葉集シリーズ」の一つとして,二年以上も前にのもの.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2016/11/20/002251

yachikusakusaki.hatenablog.com

以下に後半部分を再掲.

 

竹と笹 / 万葉

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山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」の説明は次の通りです.

一般に,稈(かん)が太く丈の高いものを竹,細く丈の低いものを笹と言っています.このため万葉時代にはヤダケやメダケなど「篠(しの)」といわれるものも竹としています.もともと竹と笹の呼称は曖昧なので,笹と言って竹の葉を指すこともあります.

植物学的な分類では,皮が成長すると脱落するものをタケ,枯れるまでついてくるものをササとします.マダケ,ハチク,モウソウは三大有用竹と呼ばれますが,モウソウは万葉時代にはまだ入っていませんでした.

 

ささ/万葉集

小竹(ささ)の葉は み山もさやに さやげども(乱れども) われは 妹(いも)思ふ 別れ 来ぬれば  柿本人麻呂 (巻2-133)

 

◎自分が越えていく山一面に生えた小竹が,山もとよむ許り(ばかり)に,やかましく騒いで居るが,その音にも紛れないで,私はいとしい人のこと許り思うて居る.哀しい別れをして来たので. (折口信夫 口語万葉集

◎人麿が馬に乗って今の邑智郡(おおちぐん)の山中あたりを通った時の歌だと想像している.-----

大意. 今通っている山中の小竹の葉に風が吹いて,ざわめき乱れても,わが心はそれに紛れることなくただ一向(ひたすら)に,別れてきた妻のことを思っている.

今現在山中の小竹の葉がざわめき乱れているのを,直ぐに取りあげて,それにも拘わらず(かかわらず)ただ一筋に妻を思うと言いくだし,それが通俗に堕せないのは,一首の古調のためであり,人麿的声調のためである.そして人麿はこういうところを歌うのに,決して軽妙には歌っていない.あくまでも実感に即して執拗に歌っているから軽妙に滑っていかないのである.(斎藤茂吉 万葉秀歌)

 

たけ/万葉集

わが屋戸(やど)の いささ群竹(むらたけ)  吹く風の 音(おと)のかそけき この夕(ゆふべ)かも  大友家持(巻19-4291)

 

◎自分の屋敷の,少し許りのかたまった,竹を吹く風に建てる音が,微かに(かすかに)聞こえる,今日の夕暮れであることよ. (折口信夫 口語万葉集

◎「いささ群竹」はいささかな竹林で,庭の一隅にこもって竹林があった趣である.

一首は,

私の家の竹林に,夕方の風が吹いて,幽かな(かすかな)音をたてている.あわれなこの夕がたよ

というので,これも後世なら,「あわれ」というところで,一種の寂しい悲しい気持ちである.この句は結句で,「この夕べかも」と名詞に「かも」をつけているが,これも晩景を主としたいい方で,この歌の場合はやはり動かぬものであるかも知れない.「つるばみの解洗(ときあら)い衣(ぎぬ)のあやしくも殊に着欲(きほ)しきこの夕べかも」(巻7−1314)という前例がある.

 小竹(ささ)に風の渡る歌は既に人麿の歌にもあったが,竹の葉ずれの幽かな(かすかな)寂しいものとして観入したのは,やはりこの作者独特のもので,中世期の幽玄の歌も特徴があるけれども,この歌ほど具象的でないから,真の意味の幽玄にはなりがたいのであった.---- (斎藤茂吉 万葉秀歌) 

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マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ)天のマサキをかずらにして頭に巻いての マサキノカズラは,古今集に記さている植物で,テイカカズラの古名.古事記と同時代の万葉集に,“まさき”や“マサキノカズラ”は出てきません.万葉集では,“つた”と詠まれている植物がテイカカズラだろうと言われていますが----.テイカカズラの名前の由来は,能の「定家」説が広まっていますが----.テイカカズラという名前をガーデニングショップで見ることはほとんどありませんが,ハツユキカズラはよく見かけます.テイカカズラの園芸種

古事記,岩戸隠れの物語にある五種の植物のうち,

 ヒカゲ/ヒカゲノカズラ

 マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ

は,“神懸かりする”アメノウズメ”の体を飾り,

 ササ 小竹

はアメノウズメの手に.

 

“三浦祐介著 口語訳古事記

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,

 

今日の話題は,この内のマサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ).

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テイカカズラ - Wikipedia テイカカズラの写真<1> - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸



「マサキノカズラが,テイカカズラの古名」であることは,広く認められていることのようで,

例えば,日本大百科全書(ニッポニカ)テイカカズラとは - コトバンク

には,

“昔,マサキノカズラといったものはテイカカズラであり.天鈿女命(あめのうずめのみこと)が天岩戸(あめのいわと)の前で鬘(かずら)にしたものはテイカカズラであるという.”

とあります.

 

マサキノカズラは,古今集にその名が記されている植物.

ウィキペディアテイカカズラ - Wikipediaや「森山 恵 詩のページ  poesia poesia」https://poesia.exblog.jp/18068854/

 に次の歌が紹介されています.

 

み山には あられ降るらし と山なる まさきのかづら 色づきにけり

神遊びの歌『古今集』巻第20,1077番歌

 

一方,古事記と同時代の万葉集に,“まさき”や“マサキノカズラ”は出てこないのが,やや不思議.

 

万葉集では,つた(つな,つの,いはつな)と詠まれている植物がテイカカズラだろうと言われています(山田卓三/中島信太郎 万葉植物事典 北隆館).

確証にまでは至っていないようで---

テイカカズラなら,頭を飾っている歌があってもいいように思うのですが(⇒注1),多くは「這うツタ」として詠まれているのが,ツタ=テイカカズラ説の弱み?

 

巻十七 3991 大伴家持

長歌----二上山(ふたかみやま)に 延(は)ふ蔦(つた)の 行きは別れず あり通ひ いや年のはに,思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと

 

----二上山(ふたかみやま)に延(は)う蔦(つた)のように,行き別れることなく,絶えることなく通って,毎年,友達同士,こうやって遊ぼうよ.いまの私たちのように.(たのしい万葉集

たのしい万葉集(3991): もののふの八十伴の男の思ふどち心遣らむと

 

⇒注1 

カズラ:蔓という漢字は,もともとは“ツル”を意味していました.

上代つる草を髪に結んだり,巻きつけたりして頭の飾りとし,これを(かずら)といった.そのためつる草を〈かずら〉と称するようになったという.」(世界大百科事典)

テイカカズラなら,頭を飾っていたのでは?

 

テイカカズラの名前の由来

名前の由来について,ウィキペディアや多くのガーデニングのサイトが,“能の「定家」”からとしています.

 

ただし,“庭木図鑑 植木ペディア” テイカカズラ - 庭木図鑑 植木ペディア

は---

“テイカは「定家」ではなく「庭下」であり,庭の下の方に咲く葛の花を意味するという説の方が有力視されている”

 

コトバンクにある,ブリタニカ国際大百科事典〜日本大百科事典では,テイカカズラの由来を記していません.名前の由来が確定事項ではないことは間違いないと思われます.

 

とはいえ,

能「定家」由来説はとても面白いので,話のネタとしてはこちらの方が数段上.この面白さ故にガーデニングのサイトなどではこちらの説が取り上げられているのでしょう.面白いといって拡散するのは×ですが---

とりあえず?能「定家」のあらすじを転載しておきます.

 

宝生流謡曲 定  家

宝生流謡曲 定 家

あらすじ

北国から上って来た旅の僧が,都千本辺りで暮色を眺めているうち,俄かに時雨が降ってきたので,雨宿りをしていると,そこに一人の若い女が現れ,ここは歌人藤原定家が建てた時雨の亭(ちん)だと教えます.

女は昔を懐かしむかに見え,定家の歌を詠み,僧を式子内親王の墓に案内します.

もと賀茂の斎院だった内親王は,定家と人目を忍ぶ深い契りを結ばれましたが,世間に漏れたため,逢うことが出来ないまま亡くなりました.それ以来定家の執心が,葛となって内親王の墓にまといつき,内親王の魂もまた安まることがなかったと女は物語り,自分こそが式子内親王である,どうかこの苦から救いたまえと言って失せます.

その夜,僧が読経して弔うと,内親王の霊が墓の中から現れ,法の力によって成仏したことを喜び,報恩のためと舞を舞います.やがてもとの墓の中に帰り,再び定家葛にまといつかれて姿を消します.  (「宝生の能」平成11年10月号より)

 

テイカカズラは,

リンドウ目 Gentianales,キョウチクトウ科 Apocynaceae,キョウチクトウ亜科Apocynoideae.連Apocyneae,テイカカズラ属 Trachelospermum

テイカカズラ T. asiaticum

テイカカズラ - Wikipedia

 

キョウチクトウ科には,和名の科の名前になっているキョウチクトウをはじめ.毒性を持ち,薬としても役立っていた(いる)有名な植物がいくつか分類されています.

キョウチクトウ科 - Wikipedia

しかし,テイカカズラには強い毒性は見られないようで,朝鮮伝統医療では薬としても用いられているとのこと.Trachelospermum asiaticum - Wikipedia )

 

そして,ガーデニングで人気が高いのは--

なんといっても,テイカカズラの園芸種ハツユキカズラ

ガーデニングショップで,しばしば見かけます.

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ハツユキカズラとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

ヒカゲノカズラ2 古事記では “神懸かりする”アメノウズメの体を飾っていたヒカゲノカズラ. 現代でも正月飾りに,また,神社の縁起物に用いられ,ヒカゲノカズラを必須アイテムとする祭礼も行われています.しかし,古事記と同時代の万葉集の歌をみると,古代日本では,ヒカゲノカズラは必ずしも神に結びつく植物ではなく,ごく普通に髪飾りなどに用いられていたと思われます.人はよし 思ひ止むとも 玉かづら 影に見えつつ 忘らえぬかも 万葉集 巻二 149  倭姫皇后

万葉集におけるヒカゲノカズラ

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ヒカゲノカズラ ヒカゲノカズラ - Wikipedia 

古事記では “神懸かりする”アメノウズメの体を飾っていたヒカゲノカズラ.

現代でも正月飾りに,また,神社の縁起物に用いられ,ヒカゲノカズラを必須アイテムとする祭礼も行われています.

これら現代に残るヒカゲカズラの飾りは古事記の記述に基づくものと言えるでしょう.

yachikusakusaki.hatenablog.com

しかし,古事記と同時代の万葉集の歌をみると,古代日本では,ヒカゲノカズラは必ずしも神に結びつく植物ではなく,ごく普通に髪飾りなどに用いられていたと思われます.

 

たのしい万葉集たのしい万葉集: ひかげのかづらを詠んだ歌によれば,ヒカゲノカズラを詠んだ歌は6首.

そのうち,意味の解説が掲載されていたものは,次の4種.

 

あしひきの 山かづらかげ ましばにも 得がたきかげを 置きや枯らさむ

作者不詳 巻十四 3573

山のひかげのかずら.めったに手に入らないそのかずらを手にしないで,放って置いて枯らしたりするものですか.

 

あしひきの 山縵(やまかづら)の子 今日行くと 我れに告げせば 帰り来ましを

巻十六 3789 作者不詳 

山縵(やまかづら)の子が,きょう逝(い)ってしまうと私に告げてくれたのなら,帰ってきたのに.

 

見まく欲(ほ)り 思ひしなへに かづらかけ かぐはし君を 相(あひ)見つるかも

巻十八 4120 大伴家持 

お逢いしたいと思っていたところ,かづらを飾りつけた素敵なあなたさまにお逢いすることができました.

 

あしひきの 山下ひかげ かづらける 上にやさらに 梅をしのはむ

巻十九 4278 大伴家持 

山のひかげのかずらを髪飾りにして(この宴をたのしんで)います.その上,さらに梅(うめ)をたのしもうとおっしゃるのですか.(席を立たずに,ここにいて宴をたのしみましょう)

 

「山縵(やまかづら)の子」「かづらかけ かぐはし君」「山下ひかげ かづらける」---

ヒカゲカズラが,神を意識することなく,飾りとして,特に髪飾りに用いられていたことがよく分かります.

 

なお,「たのしい万葉集」にあげられた6首以外に,一般的にはヒカゲカズラではないと解釈されているものの,斎藤茂吉氏がヒカゲカズラが使われているとした歌があります.

天智天皇崩御に際した皇后・倭姫王(やまとひめのおおきみ)の歌.

「切実な悲しみを歌い上げた絶唱(朝日日本歴史人物事典  倭姫王(やまとひめのおおきみ)とは - コトバンク )」としてよく知られている四首のうちの一つ.

 

「万葉秀歌 斎藤茂吉」から,解説共々,転載します.

 

人はよし 思ひ止むとも 玉かづら 影に見えつつ 忘らえぬかも 

巻二 149  倭姫皇后

 これには,「天皇崩じ給ひし時,倭太后の御作歌一首」と明かな詞書がある.倭太后(やまとのおおきさき)は倭姫皇后(やまとひめのこうごう)のことである.

 一首の意は,他の人は縦い(たとい)御崩れになった天皇を,思い慕うことを止めて,忘れてしまおうとも,私には天皇の面影がいつも見えたもうて,忘れようとしても忘れかねます,というのであって,独詠的な特徴が存している.

「玉かづら」は日蔭蔓を髪にかけて飾るよりカケにかけ,カゲに懸けた枕詞とした.山田博士は葬儀の時の華縵として単純な枕詞にしない説を立てた.

この御歌には,「影に見えつつ」とあるから,前の御歌もやはり写象のことと解することが出来るとおもう.

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 この御歌は,「人はよし思ひ止むとも」と強い主観の詞を云っているけれども,全体としては前の二つの御歌よりも寧ろ弱いところがある.それは恐らく下の句の声調にあるのではなかろうか.

 

ヒカゲノカズラは,“広義のシダ植物”とされています.

“広義のシダ植物”は大葉植物(シダ綱/シダ植物門),子葉植物(ヒカゲノカズラ綱/ヒゲノカズラ門)に分けられ,大葉植物は,種子植物と同一の起源を持つことが分かっている(合わせて“真葉植物”という単一系統を形成)とのこと.

“広義のシダ植物”という言葉がいつまで使われるのかは分かりませんが---

大きなくさびが打ち込まれ,「一つのグループではない」ことが分かったと言うことですね.

“広義のシダ植物”は,“かつてのシダ植物”と言い換えてもいいように思われますが---(素人考え).

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ヒカゲ/ヒカゲノカズラ1 ヒカゲは,“神懸かりする”アメノウズメ”の体を飾っていました.“アメノウズメが,天の香山の天のヒカゲを襷にして肩に掛けての” ヒカゲノカズラを飾る風習は,現代にもしっかり息づいていています.▽掛蓬莱,▽京都上賀茂神社の縁起物「卯杖」,▽ 奈良市率川神社「三枝祭」では,ヒカゲカズラを頭に飾った舞姫が ▽京都伏見稲荷大社大山祭では,神職の方々がヒカゲノカズラを首に掛けた装束で拝礼します.植物をたどって古事記を読む(10)

古事記,岩戸隠れの物語にある植物は五種.

(以前のブログでは,ササ小竹を入れ忘れていましたので訂正しました)

 

ハハカ/ウワミズザクラ

マサカキ/サカキ(榊)

ヒカゲ/ヒカゲノカズラ

マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ

ササ 小竹

 

すでにこのブログで取り上げたハハカ,マサカキ.

古事記では,それぞれ,占い(太占),神への捧げ物として用いられていました.

 

残りの三つは---

ヒカゲ,マサキは“神懸かりする”アメノウズメ”の体を飾り,

ササはアメノウズメの手に.

 

“三浦祐介著 口語訳古事記

アメノコヤネが太詔戸言(ふとのりとごと)(⇒脚注9)を言祝(ことほ)ぎ唱えあげての,

アメノタジカラヲが,天の岩屋の戸のわきに隠れ立っての,

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,天の岩屋の戸の前にオケを伏せて置いての,

その上に立っての,足踏みをして音を響かせながら神懸かりしての,二つの乳房を掻き出しての,解いた裳(も)の緒(お)を,秀処(ほと)のあたりまで押したらしたのじゃ.

 

今日はこのうちの

ヒカゲ / ヒカゲノカズラ.

ウィキペディアによれば,  ヒカゲノカズラ - Wikipedia

・広義のシダ植物(⇒注1)ではあるが,その姿はむしろ巨大なコケを思わせる .

・山野に自生する多年草

・カズラという名をもつが,つる状ながらも他の植物の上に這い上ることはなく,地表をはい回って生活している針状の細い葉が茎に一面に生えているので,やたらに細長いブラシのような姿である.

(⇒注1 葉の発達が見られるシダ綱とは別の“ヒカゲノカズラ綱”として分類されています)

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ヒカゲノカズラ ヒカゲノカズラ - Wikipedia 

また,植物雑学事典(岡山大波田研)ヒカゲノカズラでは,

・和名は日陰の葛であるが,日当たりの悪い場所には生育しない.ある程度の水分は必要であるが,尾根筋や谷筋の鉱物質土壌が露出しているような場所に生育する.

 

古事記では,アマノウズメの裸体を飾っていますが----

「今日でも地方によっては新年や祝いの席に飾る風習がある」日本大百科全書ヒカゲノカズラとは - コトバンク )

 

改めて調べてみると---

ヒカゲノカズラを飾る風習は,奈良,京都を中心に現代にもしっかり息づいていていました.

 

正月飾りとしては

▽掛蓬莱

「正月飾り,ヒカゲノカズラ」で検索すると,たくさんの画像が

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A, Bのサイトでは,「掛蓬莱」という関西のお飾り,と解説.Aには作り方も掲載されていました.

A. https://lovegreen.net/lifestyle-interior/p132051/, B. https://ameblo.jp/nanakoarikawa/entry-12428348476.html

 

正月飾りのみではなく,

京都・奈良の神社では,ヒカゲノカズラを用いた縁起物が作られ,またヒカゲノカズラを必須アイテムとする祭礼がありました.

 

▽京都上賀茂神社の縁起物「卯杖」は,ヒカゲノカズラで飾られいます.

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http://www.ntv.co.jp/kyoto/backnumber/oa/20041225/naiyou.html

「卯杖」とは,

日本国語大辞典 卯杖(うづえ)とは - コトバンク

“中古、正月初の卯の日に悪鬼を払う意味で地面をたたくために、大舎人寮(おおとねりりょう)、諸衛府から天皇、皇后、東宮などへ献上した杖”

 

平安時代には宮中の行事が個々の貴族に広がったようで,互いに「卯杖」を贈り合っている.”

“卯杖を贈る風習は、江戸時代まで賀茂神社の氏子の間で行なわれていた.”

 

そして,現在の上賀茂神社の「卯杖」は,

https://www.sagagoryu.gr.jp/post_id_2449/ によると,

“中が空洞の空木を二本併せて、やぶこうじ・石菖蒲・紙垂(しで)をはさんで、日蔭蔓(ひかげのかずら)を飾ったもの”

 

奈良市率川神社(いさがわじんじゃ)「三枝祭」(さいくさのまつり)

ヒカゲカズラを頭に飾った舞姫が踊る『五節の舞』が奉納されます.

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 https://noborioji.com/news/article/215


三枝祭の別名は「ゆりまつり」.

ささゆりの古名が「さい」,枝先が3つにわれた「三枝(さいくさ)」の花が「ささゆり」.

巫女が手に持つのはこのササユリ.

https://noborioji.com/news/article/215

素敵なお祭りですね.

 

▽京都伏見稲荷大社大山祭(おおやまさい)

大山祭は

“その昔、御膳谷に御饗殿(みけどの 神饌を調理する建物)と御竈殿(へついどの かまどの神をまつってある所)がありました.

お祭りは御饌石(ぎょせんいし)と呼ばれる霊石の上に神饌(しんせん)をお供えしたという故事に基づいています.

毎年正月5日に行われます.

祭礼と行事|伏見稲荷大社

神職の方々は,ヒカゲノカズラを首に掛けた装束で,拝礼します.

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祭礼と行事|伏見稲荷大社

瀬戸啓一郎さんという方のブログ  によれば,この日の参拝者は

・神事のあとでヒカゲノカズラをいただける.

・ヒカゲノカズラを付けて拝礼に参加できる

とのことです.

 

以上のような神社での祭礼での使用や正月飾りは,その多くは,古事記のアメノウズメの神話に基づくものでしょう.

 

ヒカゲノカズラには別名がたくさんあるとのこと.

会社名にヒカゲノカズラの別名を使用しているお店の紹介によると,

ウサギノネドコ図鑑6 ヒカゲノカズラ | ウサギノネドコ

ヒゲノカズラの別名として挙げられている名称は:

ウサギノネドコ,キツネノクビマキ、キツネノマクラ、キツネノタスキ、サルノタスキ、リュウノヒゲ、ムカデカズラ、オオカミノアシ、ヤマノカミサマノフンドシ、カミダスキ.

 

「タスキ」「クビマキ」「フンドシ」は,おそらく古事記の記載に関連のある名前と言えるでしょう.ウサギノネドコ図鑑6 ヒカゲノカズラ | ウサギノネドコ

しかし,その前につく名前は,キツネだったりサルだったりするのも面白いですね.

そして,ウサギノネドコ,キツネノマクラ,オオカミノアシは,古事記の記載とは関連のない名前.多くの日本人に愛されてきた植物の証しと言えるように思いますが---

マサカキ/サカキ2 古事記の時代のサカキは,「常緑樹の総称」でした.岩岩戸隠れの場面で用いられた “マサカキ”(サカキ)は,「天の香山に生え」「根つきのままにこじ抜いて」こられたもの.オモヒカネは「タマノオヤがつくった,八尺の勾玉の五百箇のみすまるの玉飾り」や「アマツマラとイシコリドメがつくった八尺の鏡」を「取り垂らし」ますが,八尺の勾玉と鏡は,後にアメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギに与えられます.植物をたどって古事記を読む(9)

現在のサカキ

かつては,ツツジ目ツバキ科の植物と見なされていましたが---

現在はモッコク科(ペンタフィラクス科)のサカキ属に分類されています.

モッコク科とツバキ科は系統樹の上ではかなり離れているようですが---

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ツツジ目 - Wikipedia

かつては,花や葉の類似点に注目して分類がなされたためでしょう.確かに似ているように思います.

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サカキ(榊) - 庭木図鑑 植木ペディア ツバキ - Wikipedia 

 

古事記の時代のサカキ.

現在のサカキのみを指す言葉ではなく「常緑樹の総称」でした.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/06/07/021457

現在,植物としてのサカキが神棚に捧げる正式な玉串と見なされているようですが(販売店を中心にした記事に多い気がします),そこで「代用」とされている植物は,その歴史を探っていくと,必ずしも代用ではないのかもしれません.

例えば,庭木図鑑植木ペディアでは,つぎのように記し,正式・代用の区別をしていません.

「玉串として神棚に捧げる木としては本種のほか,オガタマノキヒサカキが一般的である.オガタマノキは九州を中心とした暖地で,それよりも北ではサカキが使われ,サカキが育たない地域ではヒサカキを用いることが多い.地方によってはシキミ,カシ,ソヨゴ,マツ,イチイ,モミを用いる」サカキ(榊) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

古事記の岩岩戸隠れの場面で用いられた “マサカキ”(サカキ 榊)は,

「天の香山(かぐやま)に生え」「根つきのままにこじ抜いて」こられたもの.

アマテラスを天の岩戸から出すべく策をめぐらす思慮の神・オモヒカネは,このサカキにいくつかの捧げ物を「取り垂らし」,立派な神への贈り物「太御幣(ふとみてぐら)」とします.

そのうちの二つは,

「いわゆる天皇家の『三種の神器』と呼ばれるレガリ(王位を表す宝物):“三浦祐介著 口語訳古事記

となりました.

 

オモヒカネが「取り垂らし」た品々は次の通り:

タマノオヤがつくった,八尺(やさか)の勾玉(まがたま)の五百箇(いほつ)のみすまるの玉飾り

・アマツマラとイシコリドメがつくった八尺(やあた)の鏡

・白和幣(しろにきて),青和幣(あおにきて)

 

“八尺(やさか)の勾玉(まがたま)” と “八尺(やあた)の鏡”は,いわゆる天孫降臨の場面で,ヒコホノニニギに与えられました.

その場面の記述を“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”から

 

ここにようやく,ヒコホノニニギ(⇒注1)が降りることになっての,

アメノコヤネ,フトダマ,アメノウズメ,イシコリドメタマノオヤ,いずれも,あの天の岩屋に隠れたアマテラスを引き出すときに働いた神がみじゃが,そのあわせて五柱の神を,お伴の者として分かち与えられての,ヒコホノニニギを高天の原から降ろし下されたのじゃった.

また,それに加えての,アマテラスを招き出した時の,あの八尺(やさか)の勾玉と鏡,スサノヲが奉った草薙の剣(⇒注2),それに,常世のオモヒカネとタヂカラヲとアメノイワトワケとを副え与えなされての,

「この鏡は,ひとえにわが御魂として,わが前に額ずくがごとくに祈り祀りたまえ」と仰せになり,つぎに,「オモヒカネは,この鏡を祀ることを司り,祭りを執り行いなさい」と仰せになったのじゃった.

 

⇒注1 ヒコホノニニギ

正式な名前は「アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギ」:天を和らげ(アメニシキ),国を和らげ(クニニキシ),天空の日の御子(アマツヒコ),すばらしいにぎわい(ヒコホノニニギ

⇒注2 草薙の剣

スサノヲが退治したヤマタノオロチの尾から出現した剣.

マサカキ/サカキ 岩戸隠れの物語では,ハハカ/ウワミズザクラの他に三種の植物が登場 します.マサカキ/サカキ(榊),ヒカゲ/ヒカゲノカズラ,マサキ/マサキノカズラ.サカキはモッコク科,サカキ属,サカキ C. japonicaで,現代でも玉串や神棚へのお供えに.しかし, 古事記の時代のサカキは現在のサカキのみを指す言葉ではなく「常緑樹の総称」を意味していたとのことです!--天の香山(かぐやま)に生えている大きなマサカキを根つきのままに.植物をたどって古事記を読む(8)

昨日,一昨日,古事記の植物として取り上げた「ははか/うわみずざくら」.

アマテラスが岩戸に隠れた「岩戸隠れ」の際に行われた「占い(太占)」で用いられていました.

そして,この岩戸隠れの物語では,他に四種の植物が登場します.

 

マサカキ/サカキ(榊)

ヒカゲ/ヒカゲノカズラ

マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ

ササ 小竹

 

マサカキが登場するのは次の文章の中:

 

----天の香山(かぐやま)に生えている大きなマサカキを根つきのままにこじ抜いての,

そのマサカキの上の枝には八尺(やさか)の勾玉の五百箇(いほつ)のみすまるの玉をとりつけての----

(“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”)

 脚注 マサカキ;榊のこと.マはほめ言葉.

 

今日は,この“マサカキ/サカキ(榊)”を冒頭の紹介植物として,古事記に触れていきます.

 

とはいっても,サカキについては,かなり以前,“写すだけ万葉集”シリーズで取り上げました.

yachikusakusaki.hatenablog.com

今日の紹介文は,これとほぼ同じもので代用させていただきます.

 

サカキは

ツツジ目 Ericales,モッコク科 Pentaphylacaceae,サカキ属 Cleyera,

サカキ C. japonica

 

NHK出版趣味の園芸サカキとは によると以下の通り(一部割愛/改変)

サカキはサカキ科サカキ属の常緑樹.(以前はツバキ科に分類)

つややかで厚みのある葉は互生し、縁には鋸歯(きょし)がなく表も裏も無毛で長さが8cm前後と大ぶりです.

この美しい葉のついた枝は玉串(たまぐし)として神事に用いられます.

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玉串 - Wikipedia

関東地方の生花店で販売されている神棚用の「お榊」はサカキの代用として使われている別属のヒサカキが多く,こちらは葉は小さく縁に浅いぎざぎざがあります.

花は直径1.5cmほどの小さな白花で6月から7月に開花し,11月から12月には果実が熟して黒色になります.

ちなみに漢字一文字で表される名前の「榊(さかき)」は日本でつくられた漢字で国字の一つです.

 

サカキはホンサカキとも呼ばれヒサカキと区別されることもあるそうです.サカキとヒサカキ.確かに葉で見分けるのがよさそう.

 写真は上段がサカキ(サカキ属),下段がヒサカキヒサカキ属).

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サカキ(榊) - 庭木図鑑 植木ペディア ヒサカキ(姫榊) - 庭木図鑑 植木ペディア

ぎざぎざがなくてかなり大ぶりの葉がサカキ.栄える木の意味だそうです日本国語大辞典

ぎざぎざがあってサカキに比べて葉が小さいのがヒサカキヒサカキの語源はヒメサカキ日本国語大辞典とのことですが,他の説もあり,またヒメサカキという別の種もあるので要注意.

 

神棚に飾る場合,サカキをヒサカキで代用することは全く問題ないようですが(本榊とひさかきについて|日本榊本舗),いわゆる玉串はサカキを使用している(神社本庁 | 玉串の意味について),とのことでしたが----

 

 

更に重要情報!

「万葉/古事記の時代のサカキ:現在のサカキのみを指しているのではありません」

日本国語大辞典のサカキの項では,

冒頭は(「栄える木」の意).

②で現在のサカキについて記載しています.

そして 

①としては「常緑樹の総称.特に神事に用いる木を指すことが多い」.

古事記古事記(712)上「天香山の五百(いほ)つ真(ま)賢木(さかき)を根許士爾許士(ねこじにこじ)て」)や源氏(斎宮の,まだ本の宮におはせませば,さかきのはばかりことつけて)の用例とともに!

 

「①がより古い用法/もともとの意味」というのが国語辞典の約束ごと.

古事記のサカキは現在のサカキのみを指す言葉ではなく「常緑樹の総称」!

松田修氏の「万葉の植物(保育社)」では:

上代のサカキも栄木で,上古は常磐木の総称であるといっている馬淵の説が正しい.しかしその常磐木の中でも葉が常緑で,葉形も美しいサカキ,ヒサカキ,シキミなどの類が用いられていたことが想像できる.後世これが神祭りにはサカキ,ヒサカキの類,仏にはシキミと変化したものであろう.要するに上代のサカキは一種を指すものではない」

 

ヒノキやヤドリギをかざす万葉人は常磐木を神事にも用いました.ヨーロッパでもモミなどevergreen treeをクリスマスツリーに,ヤドリギをクリスマスの飾りに.生命力あふれた美しい常緑樹を愛で尊ぶのは世界共通!

 

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以下に,

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋

より岩戸隠れの前半部分を今日も転載します.いくつか新たな脚注を添えて.

-----

さても困った八百万(やおよろず)の神がみは,天(あめ)の安(やす)の河のカワラに我も我もと集まり集(つど)うてきての,タカムスヒの子のオモヒカネ(⇒脚注1)に,どうすればよいかを思わしめることにしたのじゃった.

このオモヒカネはかしこい神での,思いをめぐらし考えに考えての末に,まず,常世の長鳴き鳥(⇒脚注2)を集めて鳴かせたのじゃ.(夜は明けたということじゃのう.:訳者挿入)

そうしておいて,天の安の河上にある天の堅石(かたしわ)(⇒脚注3)を取ってきての,天の金山(かなやま)の真金(まがね)を取ってきての,鍛人(かぬち)(⇒脚注4)のアマツマラ(⇒脚注5)を探してきての,イシコリドメ(⇒脚注6)に言いつけて鏡をつくらせての,

つぎには,タマノオヤに言いつけて,八尺(やさか)の勾玉(まがたま)の五百箇(いほつ)のみすまるの玉飾りをつくらせての,

つぎには,アメノコヤネトフトダマを呼び出しての,天の香山(かぐやま)に棲む大きな男鹿の肩骨をそっくりぬきとっての,天の香山(かぐやま)に生えておった天のハハカを取ってきての,その男鹿の肩骨をハハカの火で焼いて占わせての,

天の香山(かぐやま)に生えている大きなマサカキを根つきのままにこじ抜いての,

そのマサカキの上の枝には八尺(やさか)の勾玉の五百箇(いほつ)のみすまるの玉をとりつけての,中の枝には八尺(やあた)の鏡を取り掛けての,下に垂れた枝には,白和幣(しろにきて),青和幣(あおにきて)(⇒脚注7)を取り垂らしての,

そのいろいろな物を付けた根付きマサカキは,フトダマが太御幣(ふとみてぐら)(⇒脚注8)として手に捧げ持っての,

アメノコヤネが太詔戸言(ふとのりとごと)(⇒脚注9)を言祝(ことほ)ぎ唱えあげての,

アメノタジカラヲが,天の岩屋の戸のわきに隠れ立っての, 

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,天の岩屋の戸の前にオケを伏せて置いての,

その上に立っての,足踏みをして音を響かせながら神懸かりしての,二つの乳房を掻き出しての,解いた裳(も)の緒(お)を,秀処(ほと)のあたりまで押したらしたのじゃ.

 

⇒脚注1 オモヒカネ

「思い」を兼ね備えた神の意で,抽象的な思慮の神.以下の行為は,すべてオモヒカネの思慮によって仕組まれた芝居であり,オモヒカネは脚本家兼演出家兼舞台監督の役割を兼ね備えた存在である.

⇒脚注2 常世の長鳴き鳥

 ニワトリのこと

⇒脚注3 天の堅石(かたしわ)

 鉄を鍛える金床に使う堅い岩石

⇒脚注4 鍛人(かぬち)

 鍛冶屋のこと

⇒脚注5 アマツマラ

マラは男根の意で,立派な男根を持つ神の意

⇒脚注6 イシコリドメ

 石を固める(コル=凝)女神(ドは格助詞ツの転化,メは女).イシコリドメがアマツマラの男根を堅くするように,鍛えて堅い鉄を作るのである.このしたエロチックなリアルさも,語られる神話の本領である.

⇒脚注7 白和幣(しろにきて),青和幣(あおにきて)

 和幣は,糸を束ねた神への捧げ物で,白和幣(しろにきて)はコウゾの繊維,青和幣(あおにきて)は,アサの繊維を用いて作る.

⇒脚注8 太御幣(ふとみてぐら)

 立派な神への贈り物.

⇒脚注9 太詔戸言(ふとのりとごと)

 立派な神への唱え言.いわゆる祝詞(のりと)のこと.

ははか / うわみずざくら(2) 「うわみぞざくら」の変化した語で,昔,材の上面にみぞを刻んで占いに用いたことによる(日本国語大辞典).太占の薪として用いられていました.古事記では,この太占が,オモヒカネがアマテラスを岩戸から出すため“一芝居”のさなかに行われています.ここで行う意味が私にはやや分かりづらい.この“一芝居”がうまくいくかどうかを占っているようにも見えますし,太占自体も“一芝居”の一部であるようでもありますし---.植物をたどって古事記を読む(8) 

ははか(2)

 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

 

昨日に引き続き,ハハカ.

ハハカは,植物「うわみずざくら(上溝桜)」の異名.

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 ウワミズザクラ - Wikipedia ウワミズザクラ(上溝桜) - 庭木図鑑 植木ペディア

サクラの名前の通り,バラ科 Rosaceae,スモモ属(サクラ属) Prunus.

ただし,下位分類では,一般のサクラが分類されるサクラ亜属ではなく,となりのウワミズザクラ亜属.

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https://www.researchgate.net/figure/Phylogenetic-relationships-of-Prunus-sl-based-on-a-concatenated-dataset-of-chloroplast_fig1_255954651
 

ウワミズザクラは,古事記では,鹿の角を使った占い=太占(ふとまに)で火を付けて用いられています.

ただし,このウワミズザクラ自体も,溝を刻んで占いに用いられていたとのこと.太占の薪としての使用と何らかの関連性をうかがわせますが---.

 

精選版 日本国語大辞典の解説

ふと‐まに【太占】太占(ふとまに)とは - コトバンク

〘名〙 (「ふと」は美称) 上代の占いの一種.ハハカの木に火をつけ,その火で鹿の肩の骨を焼き,骨のひび割れの形を見て吉凶を占う.太町.

古事記(712)上「天つ神の命以ちて布斗麻邇(フトマニ)に〈此の五字は音を以ゐよ〉卜相(うらな)ひて」

 

うわみず‐ざくら うはみず‥【上溝桜】上溝桜/上不見桜(ウワミズザクラ)とは - コトバンク

------「うわみぞざくら」の変化した語で,昔,材の上面にみぞを刻んで占いに用いたことによる.金剛桜.ははか.かにわざくら.めずら.うわみぞざくら.〔草木六部耕種法(1832)〕”

 

何を占ったのでしょうか?

天の岩戸の前で,うわみずざくらを用いて行われた太占は,オモヒカネがアマテラスを岩戸から出すため“一芝居”(⇒三浦祐介氏の脚注1)のさなかに行われています.

(太占をここで行う意味が私にはやや分かりづらいのですが---.この“一芝居”がうまくいくかどうかを占っているようにも見えますし,太占自体も“一芝居”の一部であるようでもありますし---.何らかの重大なことを起こすとき,儀式のように執り行う?「うまくいく」となれば,士気を高めることにつながることを見越して?)

 

以下,この“一芝居”の描写を “三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”から.

アメノイワメが神懸かりして踊る場面までを引用して今日は終わります.注釈を大部分省いたので,分かりづらいところも多いかと思いますが,一部は明日転載の予定.

 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋

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https://www.amazon.co.jp

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さても困った八百万(やおよろず)の神がみは,天(あめ)の安(やす)の河のカワラに我も我もと集まり集(つど)うてきての,タカムスヒの子のオモヒカネ(⇒脚注1)に,どうすればよいかを思わしめることにしたのじゃった.

このオモヒカネはかしこい神での,思いをめぐらし考えに考えての末に,まず,常世の長鳴き鳥を集めて鳴かせたのじゃ.(夜は明けたということじゃのう.:訳者挿入)

 

そうしておいて(⇒脚注2),天の安の河上にある天の堅石(かたしわ)を取ってきての,天の金山(かなやま)の真金(まがね)を取ってきての,鍛人(かぬち)のアマツマラを探してきての,イシコリドメに言いつけて鏡をつくらせての,

つぎには,タマノオヤに言いつけて,八尺(やさか)の勾玉の五百箇(いほつ)のみすまるの玉飾りをつくらせての,

つぎには,アメノコヤネトフトダマを呼び出しての,天の香山(かぐやま)に棲む大きな男鹿の肩骨をそっくりぬきとっての,天の香山(かぐやま)に生えておった天のハハカを取ってきての,その男鹿の肩骨をハハカの火で焼いて占わせての,

天の香山(かぐやま)に生えている大きなマサカキを根つきのままにこじ抜いての,

そのマサカキの上の枝には八尺(やさか)の勾玉の五百箇(いほつ)のみすまるの玉をとりつけての,中の枝には八尺(やあた)の鏡を取り掛けての,下に垂れた枝には,白和幣(しろにきて),青和幣(あおにきて)を取り垂らしての,

そのいろいろな物を付けた根付きマサカキは,フトダマが太御幣(ふとみてぐら)として手に捧げ持っての,

アメノコヤネが太詔戸言(ふとのりとごと)を言祝(ことほ)ぎ唱えあげての,

アメノタジカラヲが,天の岩屋の戸のわきに隠れ立っての,

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,天の岩屋の戸の前にオケを伏せて置いての,

その上に立っての,足踏みをして音を響かせながら神懸かりしての,二つの乳房を掻き出しての,解いた裳(も)の緒(お)を,秀処(ほと)のあたりまで押したらしたのじゃ.

 

⇒脚注1 オモヒカネ

「思い」を兼ね備えた神の意で,抽象的な思慮の神.以下の行為は,すべてオモヒカネの思慮によって仕組まれた芝居であり,オモヒカネは脚本家兼演出家兼舞台監督の役割を兼ね備えた存在である.

 

⇒脚注2 そうして

以下,この段落の文章は,句点できることなく「〜して,〜して」と繋いで語っている.リズミカルな緊迫感のある語りの口ぶりを窺わせる.

ははか / うわみずざくら(1) 北海道西南と本州、四国、九州の山野に自生するスモモ属(サクラ属)の植物.紅葉が美しく,中国では実が珍重されていた. 神代篇その二 ----- つぎには,アメノコヤネトフトダマを呼び出しての,天香具山に棲む大きな男鹿の肩骨をそっくりぬきとっての,天香具山に生えておった天のハハカを取ってきての,その男鹿の肩骨をハハカの火で焼いて占わせての---- :占いに用いられていました.植物をたどって古事記を読む(7) 

ははか(1)

 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

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https://www.amazon.co.jp

今日取り上げるのは,ハハカ. 

ハハカと聞いて植物を思い浮かべる人は,古事記に精通した方のみでしょう.

 

精選版 日本国語大辞典の解説

ははかとは - コトバンク

ははか

〘名〙 (「はわか」の時代も) 植物「うわみずざくら(上溝桜)」の異名.

古事記(712)上「天の香山の天の波波迦(ハハカ)を」

 

「うわみずざくら(上溝桜)」のこと.

そして,この解説には古事記がしっかり引用されています.

 

「うわみずざくら」は,北海道西南と本州、四国、九州の山野に自生ウワミズザクラ - Wikipediaとのことですが,もともとは植物にも疎い私(そのため,現在勉強中),全く知りませんでした.

「多数自生」ともあったので,山歩きしてもほとんど植物を気にしてこなかったことを,またまた悔やむところ.

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 ウワミズザクラ - Wikipedia ウワミズザクラ(上溝桜) - 庭木図鑑 植木ペディア

バラ科 Rosaceae,スモモ属(サクラ属) Prunus,ウワミズザクラ Prunus grayana

サクラと名前があるわりには花は地味.しかし紅葉は美しい.

また,緑、黄色、赤、黒紫と移り変わって熟した実はそのままでも食べられ,妙薬として尊ばれたとか.塩漬けの「杏仁香(アンニンゴ)」,果実酒「杏仁香酒」はかなり知られているようです.ウワミズザクラ(上溝桜) - 庭木図鑑 植木ペディア )

 

ただし,古事記で「天の香山の天の波波迦(ハハカ)を(日本国語大辞典)」とあるのは,紅葉を愛でるためでもなく,実を食べるわけでもありません.

 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”では,次のように書かれています.

(全編,古老の語りの言葉で訳されています)

 

神代篇その二

----- つぎには,アメノコヤネトフトダマを呼び出しての,天の香山(かぐやま)に棲む大きな男鹿の肩骨をそっくりぬきとっての,天の香山(かぐやま)に生えておった天のハハカを取ってきての,その男鹿の肩骨をハハカの火で焼いて占わせての----

 

占いに用いたのですね.

この話は,誰もが知る,天岩戸の前の出来事.

口語訳古事記の記載については,次回とし,今日は,樹木図鑑ウワズミザクラ(樹木図鑑(ウワミズザクラ))で「こぼれ話」として記載のあった部分を,そのまま転載させて頂いて,終わることとします.

なお,下記の樹木図鑑こぼれ話では,「重要な行事」との解説があり,この占いが,とても大事なことを占ったように思ってしまいますが---古事記を読んでみると,実は「オノヒカネの思慮によって仕組まれた芝居」の一部だった!?

 

こぼれ話 「太占(ふとまに)」

樹木図鑑(ウワミズザクラ)

古代では,まつりごとで物事を決める時に占いは重要な行事(儀式)だった.

古事記神代編のやま場として,天照大神が弟の素盞鳴(すさのお)の乱暴狼藉に怒って天の岩屋に隠れてしまうという事件が起きる.

天照大神は太陽神であり,太陽が隠れてしまうことでこの世界は真っ暗になり,様々な禍が起こったとされている.そのような大事件のときに行われる占いが太占である.

古事記では「・・・天の香具山の鹿の骨を抜き取って,同じく天の香具山のハハカの木で占いを・・・」とされている.

牡鹿の肩甲骨をウワミズザクラの炭火で焼いて,骨の表面に現れる割れ目の模様によって占うとされるが,儀式の詳細は分からない.

骨の割れ目といっても,もちろんそこに文字が表れわけではなく占い師がその模様をどのように解釈するかが重要になる.つまり占い師は国の意思決定を行う役割を持つ.古事記ではアメノコヤネ命(みこと)とフトダマ命という2神が太占を司っている.