マサカキ/サカキ2 古事記の時代のサカキは,「常緑樹の総称」でした.岩岩戸隠れの場面で用いられた “マサカキ”(サカキ)は,「天の香山に生え」「根つきのままにこじ抜いて」こられたもの.オモヒカネは「タマノオヤがつくった,八尺の勾玉の五百箇のみすまるの玉飾り」や「アマツマラとイシコリドメがつくった八尺の鏡」を「取り垂らし」ますが,八尺の勾玉と鏡は,後にアメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギに与えられます.植物をたどって古事記を読む(9)

現在のサカキ

かつては,ツツジ目ツバキ科の植物と見なされていましたが---

現在はモッコク科(ペンタフィラクス科)のサカキ属に分類されています.

モッコク科とツバキ科は系統樹の上ではかなり離れているようですが---

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ツツジ目 - Wikipedia

かつては,花や葉の類似点に注目して分類がなされたためでしょう.確かに似ているように思います.

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サカキ(榊) - 庭木図鑑 植木ペディア ツバキ - Wikipedia 

 

古事記の時代のサカキ.

現在のサカキのみを指す言葉ではなく「常緑樹の総称」でした.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/06/07/021457

現在,植物としてのサカキが神棚に捧げる正式な玉串と見なされているようですが(販売店を中心にした記事に多い気がします),そこで「代用」とされている植物は,その歴史を探っていくと,必ずしも代用ではないのかもしれません.

例えば,庭木図鑑植木ペディアでは,つぎのように記し,正式・代用の区別をしていません.

「玉串として神棚に捧げる木としては本種のほか,オガタマノキヒサカキが一般的である.オガタマノキは九州を中心とした暖地で,それよりも北ではサカキが使われ,サカキが育たない地域ではヒサカキを用いることが多い.地方によってはシキミ,カシ,ソヨゴ,マツ,イチイ,モミを用いる」サカキ(榊) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

古事記の岩岩戸隠れの場面で用いられた “マサカキ”(サカキ 榊)は,

「天の香山(かぐやま)に生え」「根つきのままにこじ抜いて」こられたもの.

アマテラスを天の岩戸から出すべく策をめぐらす思慮の神・オモヒカネは,このサカキにいくつかの捧げ物を「取り垂らし」,立派な神への贈り物「太御幣(ふとみてぐら)」とします.

そのうちの二つは,

「いわゆる天皇家の『三種の神器』と呼ばれるレガリ(王位を表す宝物):“三浦祐介著 口語訳古事記

となりました.

 

オモヒカネが「取り垂らし」た品々は次の通り:

タマノオヤがつくった,八尺(やさか)の勾玉(まがたま)の五百箇(いほつ)のみすまるの玉飾り

・アマツマラとイシコリドメがつくった八尺(やあた)の鏡

・白和幣(しろにきて),青和幣(あおにきて)

 

“八尺(やさか)の勾玉(まがたま)” と “八尺(やあた)の鏡”は,いわゆる天孫降臨の場面で,ヒコホノニニギに与えられました.

その場面の記述を“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”から

 

ここにようやく,ヒコホノニニギ(⇒注1)が降りることになっての,

アメノコヤネ,フトダマ,アメノウズメ,イシコリドメタマノオヤ,いずれも,あの天の岩屋に隠れたアマテラスを引き出すときに働いた神がみじゃが,そのあわせて五柱の神を,お伴の者として分かち与えられての,ヒコホノニニギを高天の原から降ろし下されたのじゃった.

また,それに加えての,アマテラスを招き出した時の,あの八尺(やさか)の勾玉と鏡,スサノヲが奉った草薙の剣(⇒注2),それに,常世のオモヒカネとタヂカラヲとアメノイワトワケとを副え与えなされての,

「この鏡は,ひとえにわが御魂として,わが前に額ずくがごとくに祈り祀りたまえ」と仰せになり,つぎに,「オモヒカネは,この鏡を祀ることを司り,祭りを執り行いなさい」と仰せになったのじゃった.

 

⇒注1 ヒコホノニニギ

正式な名前は「アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギ」:天を和らげ(アメニシキ),国を和らげ(クニニキシ),天空の日の御子(アマツヒコ),すばらしいにぎわい(ヒコホノニニギ

⇒注2 草薙の剣

スサノヲが退治したヤマタノオロチの尾から出現した剣.