“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
ガガイモ(かがみ)
八十の神々を追い払い遠ざけ,葦原の中つ国(=地上世界)の主となったオホクニヌシ(オホナムヂ,アシハラノヨコヲ).
国を作り固めるとき,力を合わせた神がいました.
名はスクナビコナ.
“アメノカガミ船”に乗ってやって来て,国づくりを助け,“ふっと常世の国(神々が住まう永遠の世界)に渡ってしまわれた”
と挿話のような形で語られています.
“アメノカガミ船”とは,三浦祐介氏の脚注では,
“カガミは,ガガイモというマメ科の植物.ガガイモの実を二つに割ると船のような形をしている.”
とありますが---
マメ科は誤り.
従来は,ガガイモ科.
現在は.
リンドウ目 Gentiales,キョウチクトウ科 Apocynaceae,イケマ属 Cynanchum,
ガガイモ C. rostellatum
「花期は夏で,画像のような先端が五つに分かれた花が咲く.
花はややや紫色を帯び,内側は一面に細かな毛があるのが特徴」
(植木ペディア ガガイモ - 庭木図鑑 植木ペディア )
「実は長さ10センチほどで垂れ下がり,熟すと割れて中から長い綿毛のある種子が顔を出す.
この綿毛を集めて針指しやスタンプの印肉を作ることができる」(植木ペディア ガガイモ - 庭木図鑑 植木ペディア )
長さ10センチのアメノカガミ船に乗ってきたスクナビコナ.
衣は,“ヒムシ(鵝 蛾か鳥の名前とされる)の皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮”.
とても小さな神様でした.
“原文に少名毘古那神とあり,巨軀をもつオホムナジに対して小さな大地の神の意をもつ子人神.
この二神の競争や共同事業を語る神話は,播磨国風土記に多く語られており,時には笑い話にもなる.”(三浦祐介氏脚注)
この物語には,スクナビコナ以外にもタニグク,クエビコ(山田のソホド)という,異形の神様が登場しますが,その解説は明日.
神代編 其の四
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オホクニヌシが,出雲の美保の岬にいました時じゃが,波の穂の上を,アメノカガミ船に乗っての,ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来る神があったのじゃ.オホクニヌシがその名を問うたのじゃが何も答えず,また,お伴の神たちに尋ねてみても,みな,「知りません」と申し上げるばかりじゃった.
それで困っておると,タニグクが進み出て,
「この方のことは,クエビコがかならずや知っておりましょう」と,そう言うたので,すぐさまクエビコを召し出しての,お尋ねになると,クエビコは
「この方は,カムムスヒの御子,スクナビコナ様に違いありません」と答えたのじゃ.
そこで,母神であるカムムスヒに申し上げると,お答えになることには,
「この子は,まことにわが子です.子供たちの中で,私が手の指の間から落としてしまった子なのです.どうかアシハラノヨコヲと兄弟となって,あなたの治める国を作り固めなさい」ということじゃった.
そこでの,それからは,オホナムジとスクナビコナと二柱の神はともに並んで力をあわせ,この国を作り固めなさったのじゃが,あるとき,スクナビコナは,ふっと常世の国に渡ってしまわれたのじゃ.
それで,そのスクナビコナの名と筋とを明らめ申した,あのクエビコは,今でも山田のソホドというのじゃ.この神は足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しなのじゃ.