“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
今日とりあげるのは
カツラ
愛らしいハートの形の葉で知られ,秋の紅葉も美しい.
カツラとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版 【楽天市場】植木・庭木を選ぶ(シンボル) > 落葉樹 > カツラ:グリーンロケット
古事記では二つの場面で登場.
一つは,一昨日と昨日にとりあげた竹
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/01/22/231333 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/01/23/233357
が登場するウミサチビコ.ヤマサチビコの物語.(神代編 其の六)
兄ホデリ(ウミサチビコ)の釣り針をなくしてしまったホヲリ(ヤマサチビコ).
泣き悲しんでいると,どこからともなく現れたシホツチ(潮の流れを支配する神)が “隙間なく竹を編んだ小さな籠の船” を造り,ワタツミの宮へ行き,泉のほとりにあるカツラの木に登って座って,ワタツミの娘を待つように教えます.
「わしが,この船を押し流すから,しばらくそのまま往(ゆ)きなされ.
うまく潮の路(みち)に乗るだろうて.
その路が見つかったなら,そのまま潮の路に乗って往(ゆ)きに往くと,鱗のさまに屋根を葺いた宮が見えてくるはずじゃが,それがワタツミ(海の神)の宮じゃ.
そして,その神の御門に到り着いたならば,そばにある泉のほとりに大きなカツラの木(⇒*)が立っておろうから,その木の上に登って座っておるとの,ワタツミの娘がそなたを見つけて,ともに考えてくれるでござろうよ」
⇒*
このカツラの木について,脚注では次のように解説しています.
▽脚注
原文はユツカツラ.
神聖な神の依りつく木として,他の神話にも描かれるが,「楓」「香木」「桂」などと表記されており,今言う桂ではなくキンモクセイではないかと言われたりする.
なお,”ユツ”の意味は ”清浄な”,もしくは“多数”.
▽精選版 日本国語大辞典の解説
ゆつ【斎つ】 桂(かつら)
清浄な桂の木.神聖で,神が降臨すると考えられる桂の木.一説に,枝が多く葉がしげり合った桂の木ともいう.
※古事記(712)上「其の神の御門に到りましなば傍なる井の上に湯津香木(ユツカツラ)有らむ〈略〉香木を訓みて加都良(カツラ)の木と云ふ」
▽日本の神々-古事記編-用語
湯津楓(ユツカツラ)
枝葉が繁った桂の木もしくは木犀(モクセイ 中国名で桂花)
ユツは多数の意
カツラが登場するもう一つの場面は,オオクニヌシによる国譲りの物語です.(神代編 其の五)
オホクニヌシが葦原の中つ国を治めて長い月日がたった頃.
アマテラスは,マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミに葦原の中つ国を治めさせようと考えます.
そして,
「この葦原の中つ国は,わが御子の統べ治めるくにであると言葉をかけ委ねた国である.-----いずれの神を遣わして言向ければよかろうぞ」と言って.神々を集めます.
オホクニヌシに国譲りを勧める使者を選ぶためでした.
はじめに,神々の進言により最初に遣わしたアメノホヒは,三年(みとせ)を過ぎても戻ってきません.
次に遣わしたアメノワカヒコも八年(やとせ)を経るまで何一つ言ってきません.
そして,三番目に遣わしたのがキジのナキメです.このナキメが中つ国に降りたって止まったのがカツラの木でした.
ナキメは天(あめ)より中つ国に降り到り,アメノワカヒコの家の門(かど)に植えられた大きなカツラの木の上に止まり,こまかなところまで天つ神の仰せになった言の葉のとおりに,大きな鳴き声をあげたのじゃった.
すると,アメノサグメがこの鳥の鳴き声を聞きつけての,アメノワカヒコをそそのかして,
「この鳥の,その鳴き声はひどく悪いものです.さあ,すぐに射殺しておしまいなされ」と言うと,アメノワカヒコは,すぐさま天つ神がお与えになったアメノマカモ弓と,アメノハハヤを持ち出しての,そのキジを射殺してしもうたのじゃ.