“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
竹2
(竹1 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/01/22/231333 )
ホヲリ(ヤマサチビコ)に与えられた「タケを隙間なく編んだ小さな籠の船(⇒*)」は,ワタツミ(海の神)の宮へ,なくしてしまった兄(ホデリ ウミサチビコ)の釣り針を探しに行くためのものでした.
⇒*
“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”の脚注では,次のようなイメージが語られています.
原文には,「无間勝間之小船(まなしかつまのこぶね)」とあり,カツマ(カタマとも)は,竹籠の意だが,ここは,目のない(マナシ=目なし)竹籠であり,海中に潜ることのできる潜水艦のような船をイメージしているのだろう.
海底にあるワタツミの宮に行くための船である.昔話「浦島太郎」のように亀の背にに乗って海底の龍宮城へ行ったら溺れてしまうはずだ.
この後,ホヲリ(ヤマサチビコ)は,ワタツミ(⇒**)の宮へ向かい,三年(みとせ)もの間その国に住みついて,トヨタマビメ(ワタツミの娘)とともに暮らします.
⇒**
ワタは海原の意.ツは格助詞で「〜の」の意.ミは神格を表す接尾辞.ワタツミという語だけで「海の神」の意になる.(三浦祐介)
なお,イザナギ-イザナミの間に“オホワタツミ”が生まれています.ウミサチビコ-ヤマサチビコの物語に登場する“ワタツミ”と“オホワタツミ”が同一かどうか,調べきれませんでした.世界大百科事典では,同一としていますが---,他にこのような言及は見つかりませんでした.
綿津見の宮(読み)わたつみのみや 世界大百科事典(平凡社)内の綿津見の宮の言及
【大綿津見神】より
…ワタツミノカミをまつる神社はいくつかあるが,とくにオオワタツミノカミとは,海底の宮殿に住み,海の幸また農の水を支配する神格として記紀の海幸・山幸の話に登場する神を指す。
兄の海幸彦に借りた釣針を失った山幸彦(瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の子)が,針を求めて訪れたのが綿津見の宮であった。ヤマサチはここでオオワタツミの女豊玉姫(とよたまひめ)をめとり,同神の助力で釣針をとりもどす。…
時が過ぎて,ホヲリ(ヤマサチビコ)はワタツミの宮に来たわけを思いだし(⇒***),探し出した兄の釣り針とともに,ワタツミにもらった潮盈珠(しおみつたま),潮乾珠(しおふるたま)を携えて地上に戻ります.
⇒***
三浦悠介氏は脚注で “ホヲリ(ヤマサチビコ)は,兄の釣り針のことをすっかり忘れて三年間の結婚生活を送ると言うことからすれば,けっこういい加減な男である”としています.
私も同感.
なお,
“異界での滞在期間を三年と語る例は多い.三と八は,神話においてもっとも多用される数字であり,短く少ないのが「三」,大きく長いのが「八」で表現される”とのこと.
ホヲリ(ヤマサチビコ)は,この二つの珠(潮盈珠,潮乾珠)の力で,兄ホデリ(ウミサチビコ)を屈服させ,また,トヨタマビメとの間に一子アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズをもうけることになります.
ホヲリ(ヤマサチビコ)の父ニニギ(アメニキシクニニシキアマツヒコヒコホノニニギ)は,オホヤマツミ(山の神)の娘コノハナノハクヤビメを娶りました.
そして,その子ホヲリ(ヤマサチビコ)は海の神の娘との間に一子をもうけたことになります.
このことについて,三浦悠介氏は,脚注で次のように解説しています.
天つ神(高天原/天上の神)一族は,オホヤマツミの娘との間に子をなすことによって,山(陸地)の力を手に入れ,次(本章)に語られる神話ではワタツミの娘とのあいだに子をなすことで海の力を手に入れる.
その山と海,つまり地上世界のすべてを継承することによって,地上の支配者として正統性と支配権を獲得し,初代天皇カムヤマトイワレビコを誕生させることができたのである. “三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”