古事記,岩戸隠れの物語にある植物は五種.
(以前のブログでは,ササ小竹を入れ忘れていましたので訂正しました)
ハハカ/ウワミズザクラ
マサカキ/サカキ(榊)
ヒカゲ/ヒカゲノカズラ
マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ)
ササ 小竹
すでにこのブログで取り上げたハハカ,マサカキ.
古事記では,それぞれ,占い(太占),神への捧げ物として用いられていました.
残りの三つは---
ヒカゲ,マサキは“神懸かりする”アメノウズメ”の体を飾り,
ササはアメノウズメの手に.
“三浦祐介著 口語訳古事記”
アメノコヤネが太詔戸言(ふとのりとごと)(⇒脚注9)を言祝(ことほ)ぎ唱えあげての,
アメノタジカラヲが,天の岩屋の戸のわきに隠れ立っての,
アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,天の岩屋の戸の前にオケを伏せて置いての,
その上に立っての,足踏みをして音を響かせながら神懸かりしての,二つの乳房を掻き出しての,解いた裳(も)の緒(お)を,秀処(ほと)のあたりまで押したらしたのじゃ.
今日はこのうちの
ヒカゲ / ヒカゲノカズラ.
ウィキペディアによれば, ヒカゲノカズラ - Wikipedia
・広義のシダ植物(⇒注1)ではあるが,その姿はむしろ巨大なコケを思わせる .
・山野に自生する多年草.
・カズラという名をもつが,つる状ながらも他の植物の上に這い上ることはなく,地表をはい回って生活している針状の細い葉が茎に一面に生えているので,やたらに細長いブラシのような姿である.
(⇒注1 葉の発達が見られるシダ綱とは別の“ヒカゲノカズラ綱”として分類されています)
・和名は日陰の葛であるが,日当たりの悪い場所には生育しない.ある程度の水分は必要であるが,尾根筋や谷筋の鉱物質土壌が露出しているような場所に生育する.
「今日でも地方によっては新年や祝いの席に飾る風習がある」(日本大百科全書ヒカゲノカズラとは - コトバンク )
改めて調べてみると---
ヒカゲノカズラを飾る風習は,奈良,京都を中心に現代にもしっかり息づいていていました.
正月飾りとしては
▽掛蓬莱
「正月飾り,ヒカゲノカズラ」で検索すると,たくさんの画像が
A, Bのサイトでは,「掛蓬莱」という関西のお飾り,と解説.Aには作り方も掲載されていました.
A. https://lovegreen.net/lifestyle-interior/p132051/, B. https://ameblo.jp/nanakoarikawa/entry-12428348476.html
正月飾りのみではなく,
京都・奈良の神社では,ヒカゲノカズラを用いた縁起物が作られ,またヒカゲノカズラを必須アイテムとする祭礼がありました.
▽京都上賀茂神社の縁起物「卯杖」は,ヒカゲノカズラで飾られいます.
http://www.ntv.co.jp/kyoto/backnumber/oa/20041225/naiyou.html
「卯杖」とは,
“中古、正月初の卯の日に悪鬼を払う意味で地面をたたくために、大舎人寮(おおとねりりょう)、諸衛府から天皇、皇后、東宮などへ献上した杖”
“平安時代には宮中の行事が個々の貴族に広がったようで,互いに「卯杖」を贈り合っている.”
“卯杖を贈る風習は、江戸時代まで賀茂神社の氏子の間で行なわれていた.”
そして,現在の上賀茂神社の「卯杖」は,
https://www.sagagoryu.gr.jp/post_id_2449/ によると,
“中が空洞の空木を二本併せて、やぶこうじ・石菖蒲・紙垂(しで)をはさんで、日蔭蔓(ひかげのかずら)を飾ったもの”
▽ 奈良市率川神社(いさがわじんじゃ)「三枝祭」(さいくさのまつり)
ヒカゲカズラを頭に飾った舞姫が踊る『五節の舞』が奉納されます.
https://noborioji.com/news/article/215
三枝祭の別名は「ゆりまつり」.
ささゆりの古名が「さい」,枝先が3つにわれた「三枝(さいくさ)」の花が「ささゆり」.
巫女が手に持つのはこのササユリ.
https://noborioji.com/news/article/215
素敵なお祭りですね.
▽京都伏見稲荷大社大山祭(おおやまさい)
大山祭は
“その昔、御膳谷に御饗殿(みけどの 神饌を調理する建物)と御竈殿(へついどの かまどの神をまつってある所)がありました.
お祭りは御饌石(ぎょせんいし)と呼ばれる霊石の上に神饌(しんせん)をお供えしたという故事に基づいています.
毎年正月5日に行われます.”
神職の方々は,ヒカゲノカズラを首に掛けた装束で,拝礼します.
瀬戸啓一郎さんという方のブログ によれば,この日の参拝者は
・神事のあとでヒカゲノカズラをいただける.
・ヒカゲノカズラを付けて拝礼に参加できる
とのことです.
以上のような神社での祭礼での使用や正月飾りは,その多くは,古事記のアメノウズメの神話に基づくものでしょう.
ヒカゲノカズラには別名がたくさんあるとのこと.
会社名にヒカゲノカズラの別名を使用しているお店の紹介によると,
ヒゲノカズラの別名として挙げられている名称は:
ウサギノネドコ,キツネノクビマキ、キツネノマクラ、キツネノタスキ、サルノタスキ、リュウノヒゲ、ムカデカズラ、オオカミノアシ、ヤマノカミサマノフンドシ、カミダスキ.
「タスキ」「クビマキ」「フンドシ」は,おそらく古事記の記載に関連のある名前と言えるでしょう.ウサギノネドコ図鑑6 ヒカゲノカズラ | ウサギノネドコ
しかし,その前につく名前は,キツネだったりサルだったりするのも面白いですね.
そして,ウサギノネドコ,キツネノマクラ,オオカミノアシは,古事記の記載とは関連のない名前.多くの日本人に愛されてきた植物の証しと言えるように思いますが---