ははか(1)
“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
今日取り上げるのは,ハハカ.
ハハカと聞いて植物を思い浮かべる人は,古事記に精通した方のみでしょう.
精選版 日本国語大辞典の解説
ははか
〘名〙 (「はわか」の時代も) 植物「うわみずざくら(上溝桜)」の異名.
※古事記(712)上「天の香山の天の波波迦(ハハカ)を」
「うわみずざくら(上溝桜)」のこと.
そして,この解説には古事記がしっかり引用されています.
「うわみずざくら」は,北海道西南と本州、四国、九州の山野に自生(ウワミズザクラ - Wikipedia)とのことですが,もともとは植物にも疎い私(そのため,現在勉強中),全く知りませんでした.
「多数自生」ともあったので,山歩きしてもほとんど植物を気にしてこなかったことを,またまた悔やむところ.
ウワミズザクラ - Wikipedia ウワミズザクラ(上溝桜) - 庭木図鑑 植木ペディア
バラ科 Rosaceae,スモモ属(サクラ属) Prunus,ウワミズザクラ Prunus grayana
サクラと名前があるわりには花は地味.しかし紅葉は美しい.
また,緑、黄色、赤、黒紫と移り変わって熟した実はそのままでも食べられ,妙薬として尊ばれたとか.塩漬けの「杏仁香(アンニンゴ)」,果実酒「杏仁香酒」はかなり知られているようです.(ウワミズザクラ(上溝桜) - 庭木図鑑 植木ペディア )
ただし,古事記で「天の香山の天の波波迦(ハハカ)を(日本国語大辞典)」とあるのは,紅葉を愛でるためでもなく,実を食べるわけでもありません.
“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”では,次のように書かれています.
(全編,古老の語りの言葉で訳されています)
神代篇その二
----- つぎには,アメノコヤネトフトダマを呼び出しての,天の香山(かぐやま)に棲む大きな男鹿の肩骨をそっくりぬきとっての,天の香山(かぐやま)に生えておった天のハハカを取ってきての,その男鹿の肩骨をハハカの火で焼いて占わせての----
占いに用いたのですね.
この話は,誰もが知る,天岩戸の前の出来事.
口語訳古事記の記載については,次回とし,今日は,樹木図鑑ウワズミザクラ(樹木図鑑(ウワミズザクラ))で「こぼれ話」として記載のあった部分を,そのまま転載させて頂いて,終わることとします.
なお,下記の樹木図鑑こぼれ話では,「重要な行事」との解説があり,この占いが,とても大事なことを占ったように思ってしまいますが---古事記を読んでみると,実は「オノヒカネの思慮によって仕組まれた芝居」の一部だった!?
こぼれ話 「太占(ふとまに)」
古代では,まつりごとで物事を決める時に占いは重要な行事(儀式)だった.
古事記神代編のやま場として,天照大神が弟の素盞鳴(すさのお)の乱暴狼藉に怒って天の岩屋に隠れてしまうという事件が起きる.
天照大神は太陽神であり,太陽が隠れてしまうことでこの世界は真っ暗になり,様々な禍が起こったとされている.そのような大事件のときに行われる占いが太占である.
古事記では「・・・天の香具山の鹿の骨を抜き取って,同じく天の香具山のハハカの木で占いを・・・」とされている.
牡鹿の肩甲骨をウワミズザクラの炭火で焼いて,骨の表面に現れる割れ目の模様によって占うとされるが,儀式の詳細は分からない.
骨の割れ目といっても,もちろんそこに文字が表れわけではなく占い師がその模様をどのように解釈するかが重要になる.つまり占い師は国の意思決定を行う役割を持つ.古事記ではアメノコヤネ命(みこと)とフトダマ命という2神が太占を司っている.