日本の料理の評価が高まるにつれ,肉料理も注目されるようになりました.
今まで取り上げた外国人にも人気の,チャーシュー,唐揚げ,ジンギスカンは,中華料理起源と考えられますが,ヨーロッパ起源の人気肉料理としては,とんかつ(トンカツ,豚カツ)があげられます.
https://en.wikipedia.org/wiki/Tonkatsu
2024年のTasteatlasの世界の肉料理評価ランキングでは,92位.
日本の肉料理の中では3位の評価を受けています.
https://www.tasteatlas.com/meat-dishes
Tasteatlasによる解説は次の通り.
https://www.tasteatlas.com/tonkatsu
Tonkatsu
(豚カツ, とんかつ, トンカツ, Pork Katsu)
パン粉を付けて揚げた豚肉のカツレツであるとんかつは,歴史の浅い日本料理です.19世紀末に西洋の影響を受けた日本料理である洋食の一種として登場しましたが,時代とともに,とんかつはますます日本化され,大衆に広く浸透し,よりポピュラーな料理となりました.
トンカツはそれ自体が料理ですが,他の食材と組み合わせると,ほぼ無限ともいえるバリエーションの料理に変身します.サンドイッチにしたり,ラーメンやご飯と組み合わせたり,名古屋風に濃厚な味噌ダレをかけたり,カツカレーのようにカレーと組み合わせたりします.
このような人気の結果,ハム,牛肉,ひき肉,鶏肉などを代用した多くの揚げ物料理が開発されました.
とんかつはスライスされ,千切りキャベツとともに皿に盛られます.ご飯と味噌汁は別々の器に盛り付けられ,漬け物と柑橘系のソースは皿の横に添えられます.
欠かせない要素は,伝統的にはソースと呼ばれる濃厚なウスターソースの一種,またはマスタードです.
英語による豚カツの紹介も沢山ありますが,上記Tasteatlasのものは例外的に外国人の執筆で,その他の「Tonkatsu 」の紹介は,英語で書かれていても日本人の手によるものが大部分です.
92位のランクとはいえ,Karaage,Chasu等に比べ,外国人への知名度はまだ低いのかな,などと思わされますが---
「Tonkatsu 」の日本人による英語での紹介の代表は,その歴史について記載した日本政府の手による紹介.今日の稿の最後にDeepL翻訳で掲載します.
とてもしっかり書かれていますが,1つ気になるのは,豚カツが,銀座煉瓦亭一軒による発明のように書かれている点.確かに煉瓦亭が様々な工夫をしたことは確かで,メニューに初めてポークカツレツをのせたのも煉瓦亭でしょう.しかし煉瓦亭からトンカツが広まっていったという証拠は示されていませんし,それを物語るエピソードもネット上には見当たりません.同時多発的に生まれ広まっていった可能性も大かと思います.
もう一つ気になるのは,「とんかつ」の起源を,フランスの「côtelette de veau」としている点.
なぜなら,「côtelette de veau」をグーグル検索すると,骨付き肉をそのまま焼いたものばかりで,パン粉を付けたカツレツ(英語ではBreaded cutlet)の画像は得られない!
明治期は分かりませんが,少なくとも現代では,フランスでのBreaded cutletは,Escalope(エスカロープ)と呼ばれる,多くの場合より薄い肉(時には中に詰め物も入れた)を揚げたものになっているようです.
ただし,よく知られているミラノ風カツレツをはじめ,ヨーロッパには,沢山の種類のBreaded cutletがあり,それぞれ人気があるようで,その料理法の起源はフランスということかもしれません.そして,現代のフランスではやや廃れた料理法になっている?
https://www.google.com/search? côtelette de veau
https://www.google.com/search? escalope
ヨーロッパのパン粉をつけて揚げたBreaded cutlet様々.
https://en.wikipedia.org/wiki/Schnitzel
https://en.wikipedia.org/wiki/Veal_Milanese
https://en.wikipedia.org/wiki/Escalope
https://en.wikipedia.org/wiki/Cachopo_(dish)
https://www.divinacocina.es/hacer-filetes-empanados-perfectos/
それでは,少し長くなりますが,日本政府による「Tonkatsu」の紹介を引用します.
The Roots of Tonkatsu: A Delicious Fusion of East and West
https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201810/201810_08_en.html
とんかつのルーツ:東西の美味なる融合
一般の人々に広く愛されているパン粉を付けて揚げたトンカツは,もともと西洋のレシピを日本風にアレンジした料理のひとつで,この場合はフランスの子牛肉のカツレツ(仏:côtelette de veau)でした.日本で初めてメニューに載せたレストランによるとんかつの歴史をご紹介します.
明治時代(1868年~1912年)に始まり,近代国家として急速な発展を遂げた日本は,その過程で西洋から多くの食文化を取り入れました.その頃に日本に伝わった西洋料理のひとつに,仔牛肉のカツレツをパン粉を付けてバターで揚げたフランス料理のコートレットがありました.
1895年に銀座で開業し,現在も営業を続ける西洋料理店「煉瓦亭」は,この調理法ではカツが油っぽくなりすぎて,日本人の好みに合わないと考えました.そこで,煉瓦亭は日本の伝統料理である天ぷらの技法を取り入れ,パン粉をまぶしたカツをフライパンで焼くのではなく,大量の油を入れた鍋で揚げるという方法を採用しました.こうして誕生したのがとんかつです.衣がサクサクとして軽くなり,日本人の口により合うようになりました.衣に使うパン粉も,古いパンから柔らかいフレッシュなパン粉に変わり,天ぷら風に肉全体にパン粉をまぶすことで,より柔らかくなり,美味しくなりました.また,仔牛肉の代わりに比較的安価な豚肉の部位が使われるようになりました.とんかつは1899年に「ポークカツレツ」という名称で煉瓦亭のメニューに登場しました.
煉瓦亭のとんかつは,時代の好みに合わせて進化を続けました.調理人の不足に対処するため,肉に添えていた手切りのかぼちゃやじゃがいもを,細かく刻んだキャベツで代用しました.また,独自のデミグラスソースを,2種類の輸入ウスターソースを混ぜ合わせたソースに置き換え,日本人好みのすっきりとした酸味のある味を生み出しました.
スタッフ不足が主な原因で進化を遂げたにもかかわらず,とんかつは,今ではすっかり愛される定番メニューとなった和風洋食の素晴らしい一例です.また,とんかつは,まったく新しい料理の数々を生み出すきっかけにもなりました.とんかつをサンドイッチの具材として使用したカツサンドや,客の要望に応えるためにシェフがこっそりとメニュー外の品を作った結果生まれたカツカレーなど,とんかつから派生した奇抜な料理は数多くあります.
「最も大切なのは,お客様が懐かしく,親しみのある味だと感じてくださることです」と,四代目店主の木田浩一郎氏は語ります. レシピは,実際には特定の時代のニーズに合わせて改良を重ねた結果ですが,れんが亭の目標は,時代を超えた味のトンカツを提供することです.
例えば,木田氏は品種改良により,現在使用されている豚肉は明治,大正,昭和の時代に利用されていたものよりも質が向上していると主張していますが,品質が向上しても味は変わらないべきだと述べています.完璧なとんかつを揚げる秘訣について尋ねられた料理長の正木氏は,昔の味と現代のニーズのバランスを取っていると答えました.
「使用済みの油は捨てずに保存して,より深い味わいを引き出します.また,肉の片面だけに塩と胡椒を振りかけ,一晩冷蔵庫で寝かせることで,うま味と柔らかさを引き出します.これらの技術は,れんが亭の創業以来,変わっていません.一方で,豚ロース肉の脂身を取り除いてヘルシーにするなど,時代の流れに沿った工夫もしています」と説明してくれました.
明治時代には関東でも養豚が盛んになりましたが,肉はまだ庶民には高嶺の花で,なかなか手に入らないものでした. そして,結果的に,仔牛の骨付き肉料理は日本人の口には少し脂っこすぎました.しかし,試行錯誤の末に,煉瓦亭はとんかつを生み出しました.とんかつは,家庭で調理される料理として,また外食の人気メニューとして,100年以上にわたって多くの人々に愛され続けています.