先日出かけた国立博物館特別展「毒」.独自に調べたことをつけ加えながら,内容を少しずつ紹介しています.主催者も「シェアしよう」とすすめていることもあり.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/archive/category/毒%2F毒展
(大阪展が始まりました.実際にご覧になることをお薦めします.実物の力は偉大です)
今日からは第3章になります
第3章 毒と進化
毒の存在は,生物同士の日常の関係ばかりでなく,長期にわたる関係や,個々の生物の生き方に影響を与えてきました.
その結果は進化として現れます.
どのような毒がどのような進化の引き金になったのでしょう?
いくつか代表例を見てみましょう.
という解説で始まったこの展示で取り上げられていたのは,前半は酸素,熱水域の硫化水素・重金属,後半は警告色,擬態,盗用とハチの多様化.
前後半で内容はガラリと変わった感がありましたが,確かに毒が生物の進化の引き金となっていることは納得できました.
見学した印象としては,
前半は生物進化にとってはとても重要な視点ですが,展示としてはやや地味.後半は,特殊な例かなとも思いましたが,わかりやすいし面白い展示でした.
今日紹介するのは,前半の酸素と熱水域の硫化水素に関わる進化の話になります.
酸素
多くの生物にとって,酸素は呼吸に不可欠です.
しかし,呼吸に使われなかった余剰の酸素(活性酸素)はさまざまな化学反応を引き起こします.
生体内にはビタミンをはじめとする抗酸化物質や酵素があり,活性酸素を片付けてくれます.しかし,これらで防御しきれないと,短期には痙攣,目眩(めまい)など,長期には老化や発がんを含むさまざまな障害が発生します.
このパネルは,酸素が毒であることを説明していますが,進化とどのような関係があるのかは,ほとんど説明していません.
特別展「毒」図説には,つぎのように書かれています.
20億年前,シアノバクテリアにより大量に放出された酸素が,海上から地上のあらゆるものを酸化しつくし,
「この酸化に耐えられなかった生物は絶滅したに違いない」.
「しかし,大量の酸素からオゾンが発生し,それまで地上に降り注いでいた有害な紫外線がカットされることになった.その結果,酸素の毒性に耐えられる生物は地上進出が可能になったのである」
このような酸素の毒性をたくみに防いでいる生物の例として,マメ科植物の根粒菌があげられていました.
根粒菌とレグヘモグロビン
(ピンク:写真が暗くて赤く見えます,に着色した部分にレグヘモグロビンが存在する)
マメ科植物の根粒菌は,根に「根粒」を作り,植物に空中の窒素を栄養として与えています.
根粒菌も酸素呼吸をしますが,窒素を取り込む酵素は酸素に弱いため,レグヘモグロビンというタンパク質によって酵素にとって邪魔な酸素を取り去る一方で,呼吸に必要な分だけの酸素を根粒菌に運搬しています.
毒と共存する深海の熱水チムニー
chimney ④〘地質〙(1)(火山の)排気口. (2)チムニー:岩壁や山肌に縦にできた体が入れるほどの裂け目(crack より大きく gully より狭い). (ランダムハウス英語辞典)
熱水域にはヒトに有毒な硫化水素や重金属が広がっていて,チムニーの噴出口周辺は100〜400℃程の高温になる場合がありますが,周辺は冷水です.
細菌は硫化水素や水素からエネルギー源を生み出し,その細菌を食べる動物たちが帯状に分布します.
最も毒や熱に耐性の強い種は熱水の近場に生息し,特殊なタンパク質やストレスに強い細胞をもっています.
熱水チムニー周辺の動物