鴨・家鴨を詠んだ短歌(2)  鴨は,人間に最も身近な水鳥といえるのではないでしょうか.多く飛来し,飼育したり猟の対象としたり.そして食べて美味しいとされ,肉・卵を利用するために家禽となったのがアヒル(家鴨). 遠つあふみ浜なのみ湖(うみ)冬近し真鴨翔(かけ)れり北の昏(くら)きに 北原白秋  胴体は笑いの充まんかなしげに首ふり首ふりアヒルは走る 加藤克巳   

鎌倉八幡宮源氏池に今浮かぶ鴨は,オナガガモ

北の地からやって来ました.最近著しく増加している種とのこと.

 

(:カモ科カモ亜科に属する鳥の総称)は,人間に最も身近な水鳥と言ってもいいでしょうか.

 

多くの種が,群れで飛来するばかりか,カルガモのように留鳥として繁殖する種も.

人間との関係も様々.

(ニッポニカ https://kotobank.jp/word/カモ-46888 

「飼育が容易であり、動物園などの水禽舎、池の放し飼いのような装飾飼い鳥として好適で美しい。」

「肉は赤みを帯び、脂肪は皮下に多く、柔らかく風味があり、鳥肉中もっともおいしいとされている」

 鴨猟は古来からさかんで,大名の猟場として「鴨場」が作られて,現在も宮内庁による伝承がなされている.

 

そして,

カモ亜科マガモ属の代表的な種:マガモから家禽となったのがアヒル です.

漢字では家鴨.

英語のDuckは,アヒルと和訳してしまうことがありますが,もともとは鴨のこと.

ヒルと特定したい場合にはa domestic duck.それに対して野生の鴨と特定したい場合にはa wild duck.

 

考古学上の史料が少なく,アヒルがいつの頃家畜化されたかはっきりしないとのことですが,紀元前500年頃には中国中央部の書物に初めて家禽化が記載されたとのこと(英語版ウィキペディア https://en.wikipedia.org/wiki/Domestic_duck ).

なお,近年の遺伝子研究から,

「家鴨はマガモから約3万8000年前に、ヒドリガモからは約5万4000年前に分離したことが明らかになった」. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7840458/

 

ヒルと言えば,「みにくいあひるの子(アンデルセン」に登場するアヒル一家やドナルドダックのような白い鳥を想像しますが---

実際には多数の種類があって,マガモ似の翅の色を持つ種も.よく飼育されている種類は食肉用,採卵用に特化されているようです.

白いアヒルの代表種がペキンダックで,食肉用.

合鴨農法で有名になったアイガモは,「アヒルとマガンの交配種」と解説されていますが,分類としてはアヒル(=家禽化されたマガモ)とするのがわかりやすいですね.

https://kotobank.jp/word/アイガモ-814078

 

アイガモの学名は,Anas platyrhynchos var.domesticus.

https://ja.wikipedia.org/wiki/アイガモ

そして,

ヒルの学名も,Anas platyrhynchos var.domesticus.

マガモの学名が,Anas platyrhynchos .

 

食肉用のアヒル

採卵用のアヒル

https://en.wikipedia.org/wiki/American_Pekin https://domesticanimalbreeds.com/rouen-duck-breed-everything-you-need-to-know/ https://en.wikipedia.org/wiki/Aylesbury_duck https://en.wikipedia.org/wiki/Rouen_duck https://en.wikipedia.org/wiki/Indian_Runner_duck https://www.metzerfarms.com/khaki-campbell-ducks.html

 

鴨・家鴨を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記 教育社 より)

 

花原の道はきはまる森の中の静けさ思へば鴨鳴く聞こゆ  島木赤彦 馬鈴薯の花

 

 

遠つあふみ浜なのみ湖(うみ)冬近し真鴨翔(かけ)れり北の昏(くら)きに  北原白秋 夢殿

 

 

風立てば沼の隈回(くまみ)のかたよりに寄りてあそべり鴨鳥の群れ  若山牧水 山桜の歌

 

 

いづくまでゆく鴨ならむ夕波の高まる沖に一羽なやめる  中河幹子 夕波

 

 

胴体は笑いの充まんかなしげに首ふり首ふりアヒルは走る  加藤克巳 球体

 

 

家鴨のごとき肉体(からだ)もつゆゑ遊ばれて女ありとふ神よ救ふな  三木アヤ 地底の泉

 

 

かた寄りに池にゐる鴨のその嘴(はし)にこもごもひたす浮き藻のひまに  玉城徹 蒼耳

 

 

かるがもの羽繕ひする岸の坑こがもは首を背に埋め眠る  来島靖生 雷