鎌倉の桜は,この間の雨にも関わらずまだ花を楽しむことができます.現在市中で見かける桜はほどんどソメイヨシノですが,ソメイヨシノが生まれたのは明治時代ですから,それ以前の桜はソメイヨシノではないということ.短歌に詠われてきたのはほとんどがヤマザクラと思われます.一方,「山桜」と特定した短歌もあります. あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我恋ひめやも 大伴家持  うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花 若山牧水

冬のような寒い雨が続き,桜も散ってしまったのでは?

と思って出かけてみると---

外見上は未だ立派な花を咲かせたままの桜が目につく鎌倉でした.よく見るとかなり散ってはいましたが.

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後2-3日は楽しめるように思います.その後は桜吹雪も楽しめますね.

 

現在市中で見かける桜はほどんどソメイヨシノです.

正直言うと余りキチンと見分けられません.

ニッポニカによれば

サクラとは - コトバンク

明治初年ころ、東京・染井(現在の豊島(としま)区巣鴨(すがも)付近)から売り出されたサクラで、いまでは全国各地に広く植栽されている。オオシマザクラエドヒガンの雑種で、若枝や葉、花に毛があり、開葉前にエドヒガンより大きい一重咲きの花が木を埋め尽くして美しく咲く。

 

かつてこのブログでも取り上げたサイトの「桜の見分け方」を再掲しておきます.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/06/004628

「ソメイヨシノ」はどこからやって来たのか : 深読み : 読売新聞オンライン

ヤマザクラ(東北南部~九州)=白い花、赤い若葉

カスミザクラ(北海道~九州北部)=白い花、褐色・黄緑色の若葉

オオヤマザクラ(北海道~九州)=赤みのある花、赤い若葉

オオシマザクラ(伊豆諸島、伊豆半島など)=白い大きな花、緑の若葉

エドヒガン(本州~九州)=赤みのある小さい花、花が咲いた時には若葉は出ない

ソメイヨシノ(北海道南西部~九州)=赤みのある大きい花、若葉は出ない

 

一方,ソメイヨシノが生まれたのは明治時代ですから,それ以前の桜はソメイヨシノではないということ.

 

 

山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」によると

(万葉の歌にあるサクラは)現在の桜のイメージとは異なっていたはずです.

現在桜と言えばソメイヨシノや八重に咲く里桜ですが,当時はヤマザクラなので,清楚さはありますが華やかさや豪華さはなく,少なくとも「花なら桜」といった花の代表ではなかったことは確かです.

ヤマザクラの若芽は琥珀色から透き通るような赤褐色まで変異があり,この若芽の頃開花するので品位が高く,風情もあります.

 

今でも,吉野山など日本の山々でみられる桜の代表的な品種はヤマザクラで,鎌倉の山でみられる桜もその多くはヤマザクラと思われます.

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3日前に桜を詠んだ短歌を紹介しましたが,

yachikusakusaki.hatenablog.com

万葉に限らず,古歌に「桜」と歌われたのはほぼヤマザクラでしょう.

 

 

一方,「山桜」と名前を特定して詠まれた歌も沢山あります.

有名な本居宣長の歌も山桜ですね.

 

 

今日は,古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)から,山桜を詠んだ歌を以下に紹介します.

 

あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我恋ひめやも  万葉集 巻17)  大伴家持

 

山ざくら霞の間よりほのかにも見てし人こそ恋しかりけれ 古今集・恋一・四七九)  紀貫之

 

名もしるし峯の嵐も雪とふる山桜戸をあけぼのの空 (新勅撰集・春下・九四)  藤原定家

 

うらうらとのどけき春の心よりにほひいでたる山ざくら花 (賀茂翁歌集・春)  賀茂真淵

 

敷島の大和心を人問わば朝日に匂ふ山桜花 (肖像自賛) 本居宣長

 

山ざくら天城おろしは苦しきか我も悩めり身を捨てじとて (白桜集)  与謝野晶子

 

うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花 (山桜の歌)  若山牧水

 

目ざむればいのちありけり露ふふむ朝山ざくら額(ぬか)にふれゐて (いのちありけり)  五島美代子