春の花1 サクラ 現在,私たちが目にする桜の多くはソメイヨシノ.オオシマザクラとエドヒガンの交配による雑種ですが,複雑な種間交雑の結果生まれた品種.吉野山を彩るヤマザクラが白い花と琥珀色〜透き通るような赤褐色の若葉で風情があるのに対し,ソメイヨシノの花は葉が開く前に枝という枝に群がって一斉に開花する華やかさが売り物.江戸期に隅田川堤に植えられ始め,明治期,国策とも相まって一気に全国に広まりました.ただし,現在はテング巣病に強いジンダイアケボノという後継品種の植樹が進んできているそうです.

おそらく,大きく育ってから,これほど人間に眺められなかった年はない(?)桜.

今年も同じように春を告げています.

f:id:yachikusakusaki:20200404234339j:plain

 

現在,私たちが目にする桜の多くはソメイヨシノ

 

ベネッセ教育情報サイトによれば

(1)幕末頃に江戸染井村(今の巣鴨近辺)の植木屋伊藤伊兵衛政武が開発した品種で,オオシマザクラエドヒガンの交配による雑種と推定されています.

(2)当初は桜の名所吉野に因んで「吉野桜」と名付けられ,あとに「染井吉野」と改名されました.

(3)十年ほどで立派な木に成長するため、明治時代に全国の学校、公園、沿道、河川沿いなどに次々と植えられ,主流となっていきました.

桜の種類を知って、もっとお花見を楽しもう|ベネッセ教育情報サイト

 

とのこと.

以下,(1)〜(3)に補足してみます.

 

(1)

・「江戸染井村(今の巣鴨近辺)の植木屋伊藤伊兵衛政武が開発した品種」という説がほぼ定着しているようですが,他に “伊豆半島自然交配説”, ”川島権兵衛創出説” も.有岡利幸 花と樹木と日本人 八坂書房

・「オオシマザクラエドヒガンの交配による雑種と推定」したのは,国立遺伝研竹中要.

竹中要(たけなか よう)とは - コトバンク

 

その後のDNA分析の結果は,これを支持しているものの,

「‘染井吉野’ が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された」

連鎖地図を利用した染色体ごとの解析による ‘染井吉野’ の起源推定の試み

そうです.

 

(2)桜の名所吉野に咲くのはヤマザクラソメイヨシノとは全く別の品種.

f:id:yachikusakusaki:20200406001142j:plain

ヤマザクラ - Wikipedia

「葉と一緒に花が咲く点で,ソメイヨシノと見分けられるよ」と子どもの頃教えてもらった覚えがありますが----

f:id:yachikusakusaki:20200406001256j:plain

ソメイヨシノ - Wikipedia

 

種々ある桜の見分け方のポイントが,桜博士として知られる勝木俊雄氏の言として次のように紹介されています.()内は分布域

「ソメイヨシノ」はどこからやって来たのか : 深読み : 読売新聞オンライン

 

ヤマザクラ(東北南部~九州)=白い花、赤い若葉

カスミザクラ(北海道~九州北部)=白い花、褐色・黄緑色の若葉

オオヤマザクラ(北海道~九州)=赤みのある花、赤い若葉

オオシマザクラ(伊豆諸島、伊豆半島など)=白い大きな花、緑の若葉

エドヒガン(本州~九州)=赤みのある小さい花、花が咲いた時には若葉は出ない

ソメイヨシノ(北海道南西部~九州)=赤みのある大きい花、若葉は出ない

f:id:yachikusakusaki:20200406001421j:plain

カスミザクラ - Wikipedia カスミザクラ

 

f:id:yachikusakusaki:20200406001454j:plain

オオヤマザクラ - Wikipedia

 

f:id:yachikusakusaki:20200406001604j:plain

オオシマザクラ - Wikipedia

 

f:id:yachikusakusaki:20200406001517j:plain

エドヒガン - Wikipedia

 

山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」によると

(万葉の歌にあるサクラは)現在の桜のイメージとは異なっていたはずです.

現在桜と言えばソメイヨシノや八重に咲く里桜ですが,当時はヤマザクラなので,清楚さはありますが華やかさや豪華さはなく,少なくとも「花なら桜」といった花の代表ではなかったことは確かです.

ヤマザクラの若芽は琥珀色から透き通るような赤褐色まで変異があり,この若芽の頃開花するので品位が高く,風情もあります. 

 

万葉集

あしひきの やまさくらばな ひならべて かくさきたらば いとこひめやも

あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも  山部赤人 (第8巻 1425)

 

山の桜の花が,幾日も続いて,こういう風に咲いていてくれるのなら,そんなに甚く(いたく:ひどく),桜の花に焦がれはするものか(早く散るから,焦がれるのだ.)折口信夫

 

わがせこが ふるきかきつの さくらばな いまだふふめり ひとめみにきね

我が背子が 古き垣内の 桜花 いまだ含めり 一目見に来ね  大友家持 (第18巻 4077)

 

あなたの以前の屋敷内の桜が,まだ莟んで(つぼんで)います.せめて一目,見にいらっしゃい.折口信夫

 

古今集

世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし  在原業平

 

蕾にときめき,花を待ちわび,風雨に散るのを惜しみ,散りつくすのを哀しむ.桜はもっとも心を悩ます花なのです.もし桜がなかったなら,どんなにか春をのどかに過ごせるだろう,と作者は詠みますが,つまり,それほどに桜の存在は大きいという,逆説の賛辞であることは言うまでもありません.

歌の名手・在原業平が詠った桜 | NHKテキストビュー

 

(3)

有岡利幸(花と樹木と日本人 八坂書房)によれば

ソメイヨシノの植樹が盛んに行われた理由は,生長が早いことに加えて,

“花は葉が開く前に枝という枝に群がって,一斉に開花するので一段と見事な眺めになる”ため.

 

広められたのは明治期ですが,隅田川堤に植えられたのは1844年以降,江戸時代に3回も植樹されたとのこと.

また,明治期一気に広まった要因の一つは国策としての植樹;“文明開化/御一新の桜“,“戦没者慰霊”.さらには「小学国語読本」にある“サイタ サイタ サクラ ガ サイタ”の文章が一役買っている可能性も.確かに小学校には桜がつきもの.

 

なお,ソメイヨシノはテングス病に弱いこともあり,現在は代替種としてジンダイアケボノという品種(片親はソメイヨシノ)の植樹が進んでいるそうです.ジンダイアケボノとは?ソメイヨシノの後継種とされる桜の概要をご紹介!| BOTANICA

f:id:yachikusakusaki:20200406002010j:plain

ジンダイアケボノ - Wikipedia