昨日出かけた大船フラワーセンターの花と,その花を詠った短歌(見つけられた場合のみですが)を取り上げています.今日は---
八重桜
ソメイヨシノはほとんど散っていましたが,
桜の沢山の品種を集めたコーナーで,見頃を迎えていたのが八重桜.
一重の桜は,ソメイヨシノと同じくほとんど散っていました.
八重桜は,遅咲き桜といって,ほぼ間違いではないようです.
植えられていたのは,ほとんどが「サトザクラ」の園芸品種.
オウショウクン王昭君は「オオシマザクラ系の一品種で江戸時代から知られた品種」桜の種別を紹介していますとありましたが,「サトザクラ」とは呼ばれていないようです.なお,王昭君は王昭君哀話が広く知られる匈奴に嫁いだ宮女の名前.
(王昭君 おうしょうくん ニッポニカ 王昭君(おうしょうくん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
中国,前漢の元帝(在位前49~前33)の宮女.和親政策のため匈奴(きょうど)の王に嫁がされたことで知られる.
匈奴王・呼韓邪の妻として寧胡閼氏(ねいこえんし)とよばれ,1男を生み,単于の死後は匈奴の風習に従って,本妻の子で次の単于の復株累(ふくしゅるい)の妻となり,2女を生んで匈奴の地で一生を終えた.この王昭君哀話は後世広く伝承され史実とは異なる虚像が文学作品につくられていった.)
サトザクラは,ヤマザクラと対をなす言葉でもありますが,園芸の世界では,もう少し限定された意味でも使われているようです.
ニッポニカでは次のように解説しています.
サトザクラ(ニッポニカ https://kotobank.jp/word/サトザクラ-837929):バラ科(APG分類:バラ科)の落葉高木で,ボタンザクラともいう.オオシマザクラを主として,これにヤマザクラ,オオヤマザクラなどが交雑したものなどから改良選出された園芸品種の総称.人里近い所に植えられるので里桜の名がある.4月中旬から下旬に,新葉と同時または開葉後に開花するものが多く,一重咲きもあるが,八重咲きのものが多い.
さらに,「八重桜」という言葉は,当然,一重の桜(5枚の花弁をもつ)と対をなす言葉(5枚より多ければ八重と言って間違いではない)ですが,園芸の世界では「サトザクラの八重咲き品種の通称」の意味でも用いられているようです.
八重ざくら(ニッポニカ https://kotobank.jp/word/ヤエザクラ-143406):サトザクラの八重咲き品種の通称で,ボタンザクラともいう.4月中旬から下旬に大形の美しい花を開くものが多い.よく知られるものにフゲンゾウ(普賢象),カンザン(関山),イチヨウ(一葉),ショウゲツ(松月)のほか,淡黄緑色花を開くウコン(鬱金),ギョイコウ(御衣黄)などがある.
https://ja.wikipedia.org/wiki/フゲンゾウ
https://ja.wikipedia.org/wiki/カンザン
https://ja.wikipedia.org/wiki/イチヨウ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ショウゲツ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウコン
「奈良の八重桜」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/70/0/70_KJ00009380024/_pdf/-char/ja
現代に伝わる桜のもっ とも古いとされる栽培品種として「奈良の八重桜」がある. この桜は新古今和歌集などにその名前が見いだされる.一方,千年以上たった1920年頃に東大寺の裏山で見つかった野生樹が古代の「奈良の八重桜」と同じ特徴を持つとされ,これが現在栽培されている「奈良の八重桜」の起源である. しかし,有岡によると,この品種は実生では増えるが接ぎ木も取り木も難しいとのことなので,古代の 「奈良の八重桜」と同じクローンが現代まで伝わった,ということはありそうもない.
http://www4.kcn.ne.jp/~kagiroi/yaezakura/naranoyaezakuratoha.html
八重桜・遅桜を詠んだ短歌
(古今短歌歳時記より)
あはれてふことをあまたにやらじとや春に遅れてひとり咲くらん 紀利貞 古今集
待たせつつおそくさくらの花により四方の山べに心をぞやる 和泉式部 和泉式部集
いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな 伊勢大輔 伊勢大輔集/金葉集/小倉百人一首
春は来て遅くさくらの梢かな雨のあしまつ花にやあるらむ 西行 聞書集
一さかりありて散りぬる花の後に春をとどめし八重桜かな 村田春海 琴後集
風さそふ雨ふりいでて八重桜ちりかふ中を飛ぶつばくらめ 岡麓 朝雲
咲垂るる八重ざくら花ゆらぎ出でいや照りつつも重くしづまる 窪田空穂 卓上の灯
鈴鳴らす路加(るか)病院の遅ざくら春もいましかをはりなるらむ 北原白秋 桐の花
八重ざくら春の名残りと散り頻(し)くに心は寄りて木の下に来つ 村松英一 山の井
抱へゆく甕の桜の八重ざくら畳の上に花こぼれつつ 杉浦翠子 藤浪
八重のさくら咲きくづれゐるゆふやみの襞いろあふれ人ゆきはてし 河野愛子 鳥眉