山桜以外に桜の品種名が詠み込まれた短歌を,古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)から,いくつか選んで紹介します.木の間なる染井吉野の白ほどのはかなき命抱く春かな 与謝野晶子//  清水のひがんざくらの下をゆく濃き緋の帯とむらさきの扇 与謝野鉄幹//  ひつ川の岸に匂へる樺桜散るこそ花のとぢめなりけり 藤原家良// 昼みてし牡丹桜の豪(おほ)いさや守宮(やもり)ゐすくみ障子暮れおつ 坪野哲久// ひがし山いでたる月をいざなふと大枝垂桜はなこぞるかな 上田三四二  

昨日取り上げたように,

yachikusakusaki.hatenablog.com

短歌に詠まれた桜は,古歌ではヤマザクラと考えられていますが,単に「桜・桜花」と呼ばれる場合も,「山桜」と呼んでいる場合もあります.

(桜・山桜以外にも,「花」「花散る」「散る花」として桜が詠まれている場合もありますが)

 

今日は,山桜以外に桜の品種名が詠み込まれた短歌を,古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)から,いくつか選んで紹介したいと思います.

 

 

染井吉野

木の間なる染井吉野の白ほどのはかなき命抱く春かな (白桜集)  与謝野晶子

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[https://www.hananokai.or.jp/sakura-zukan/someiyoshino/?n=1605&n=1640:title]

品種名  染井吉野 ソメイヨシノ

傘状,高木,一重咲,中輪,淡紅

開花期  4月上旬

江戸時代末期に江戸染井村(現・東京都豊島区)の植木屋が「吉野桜」として売り出したと伝えられ,1900年に藤野寄命により染井吉野と名づけられました.オオシマザクラエドヒガンの雑種と推定され,その起源については複数の説があり,明らかになっていません.サクラ類てんぐ巣病に罹るともに,最近は増生症状の罹病樹が増加しているため,その対策が急務となっています.

 

 

彼岸桜

清水のひがんざくらの下をゆく濃き緋の帯とむらさきの扇 (相聞あいぎこえ)  与謝野鉄幹

 

雨に濡れ彼岸桜の咲ける下木瓜(もとぼけ)はあまたの蕾ふふみぬ (夜風)  都築省吾

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[https://www.hananokai.or.jp/sakura-zukan/edohigan-ozakura/?n=1317&n=1319&n=1321&n=1322&n=1324&n=1626:title]

品種名  江戸彼岸(大桜) エドヒガン(オオザクラ)

傘状,高木,一重咲,中輪,淡紅,3月中旬

本州,四国,九州に分布する野生種.東京方面で多く栽培され彼岸の頃に開花するのでこの名がつけられました.花柱基部,小花柄,葉柄などに毛が多く,がく筒がつぼ形であるという特徴があります.この桜と他種の雑種には,がく筒上部がくびれるという特徴がほとんどの場合現われています.エドヒガン(大桜)は岩手県に原木があり,やや大輪咲で観賞性の高い個体です.

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[https://www.hananokai.or.jp/sakura-zukan/takatokohiganzakura/?n[]=1658:title]



樺桜

ひつ川の岸に匂へる樺桜散るこそ花のとぢめなりけり (新撰六帖・六・二三五六)  藤原家良

 

かば‐ざくら【樺桜】

日本国語大辞典 樺桜とは - コトバンク

① カンバ類と類似の樹肌をもったウワミズザクラ,チョウジザクラ,ヤマザクラなどの桜の木をいう.かんばざくら.《季・春》

※宇津保(970‐999頃)吹上上「岸に沿ひて大いなる松に藤懸りて,廿町ばかりなみ立ちたり.それにつぎて,かばざくらひとなみなみ立ちたり」

シダレザクラの一園芸品種で,枝などに毛を生じ,四月中旬頃白色の単弁花を開く.

 

 

牡丹桜

昼みてし牡丹桜の豪(おほ)いさや守宮(やもり)ゐすくみ障子暮れおつ (桜)  坪野哲久

 

ぼたん‐ざくら【牡丹桜】

日本国語大辞典  牡丹桜とは - コトバンク

〘名〙 サトザクラの園芸品種。花は芳香があり、旗弁のある半重弁で大きく径五センチメートルぐらい。花色は多少紅色を帯びた白色。芽は淡茶色。観賞用に栽植。《季・春》

 

サトザクラ さとざくら / 里桜

ニッポニカ サトザクラとは - コトバンク

バラ科(APG分類:バラ科)の落葉高木で、ボタンザクラともいう。オオシマザクラを主として、これにヤマザクラ、オオヤマザクラなどが交雑したものなどから改良選出された園芸品種の総称。人里近い所に植えられるので里桜の名がある。4月中旬から下旬に、新葉と同時または開葉後に開花するものが多く、一重咲きもあるが、八重咲きのものが多い。白色、淡紅色、紅色、濃紅色のほか、淡黄緑色の花もあり、200種以上の品種がある。

 

 

枝垂桜

ひがし山いでたる月をいざなふと大枝垂桜はなこぞるかな (遊行)  上田三四二

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シダレザクラとは - コトバンク

シダレザクラ しだれざくら / 枝垂桜

バラ科(APG分類:バラ科)の落葉高木.イトザクラともいう.エドヒガンの枝垂性品種で,枝が長く垂れ下がる.3~4月,葉の出る前にやや小形の花が開き,花托(かたく)は基部が膨らみ,柄とともに短毛がある.京都祇園(ぎおん)のシダレザクラなど公園や神社,寺院などによく植えられる.花が淡紅色のものをベニシダレといい,福島県三春(みはる)町の「三春滝ザクラ」は大木で天然記念物になっている.花が淡紅色で八重咲きのものはヤエベニシダレとよばれ,京都の平安神宮などに植えられている.