ムーサイ / ミューズ 4 アポローンとマルシュアースとの音楽合戦では審判を務めたムーサたちは,自らも歌合戦に臨み,敗者に対しかなり残酷な刑を下しています.「思い上がったタミュリスが,たとえアイギスを持つゼウスの姫神,ムーサたちが自ら歌うとも,きっと負かしてみせようと高言し,憤った女神たちは彼を不具にし,その絶妙の歌をとりあげ,琴弾く術も忘れさせた」(ホメロス イリアス 松平千秋訳)

ムーサイ Mousai / ミューズ 4

(単数形ムーサMousa/英語ミューズMuse)

 

音楽,歌,ダンスの女神,そして,詩人のインスピレーションの源,ムーサイ(ミューズ).

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若きアポローンには音楽と歌唱を教えた彼女たちは,アポローンとマルシュアースとの音楽合戦では審判を務めます.

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敗者と判定したマルシュアースが皮膚を剥ぎ取られるという残忍な刑に処せられたのも,知っていたに違いないのですが----

 

ムーサたちも,実は幾つかの音楽合戦で勝利し,敗者に対してかなり残酷な刑を科していました.

 

ムーサイとタミュリスの歌合戦

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Thamyris | Greek Mythology Wiki | Fandom

偽アポロドーロス ビブリオテーケー(日本語訳『ギリシャ神話』)によれば,タミュリスはアポローンの孫にあたる吟唱の名手.後にアポローンの恋人となったヒュアキントスに恋し,男性同性愛者の先駆けとなったとされています.

ムーサイとの歌合戦もビブリオテーケーに記載があり,またホメーロス イーリアスでは,歌合戦の場であったドリオンの町を紹介した挿話で,歌合戦の有様が語られています.

 

アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫 より

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ピラモーンとニムフのアルギオペーの息子であるタミュリスが彼(ヒュアキントス)に恋し,彼が男性を愛する魁け(さきがけ)となった.

しかし後アポローンの恋人となっていた折りに,神は円盤を投げて誤ってヒュアキントスを殺した.

その美貌と吟唱の技にかけて人に優れていたタミュリスはムーサ女神たちと歌の技の競いをした.

その条件は,もし彼が勝利を得れば彼女らをすべてわがものとする,これに反して破れた場合には彼女たちの欲する物をなんなりと奪われるというのであった.

ムーサたちが勝利を得て,彼の両眼とその吟唱の技を奪った.

 

ホメロス イリアス上 松平千秋訳 岩波書店 より

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これに続くは,ピュロス,麗しき町アレネ,アルペイオス河の渡し場トリュオン,堅固に築かれたアイピュ,キュパリセイス,アンピゲネイアに住むものたち,またプテレオスヘロス,

さらにはドリオンの住民

—この町はその昔ムーサたちが,オイカリエ王エウリュトスの許を辞して旅を続けるトラケ人タミュリスに出会い,その歌(声)を奪ったところ,思い上がったタミュリスが,たとえアイギスを持つゼウスの姫神,ムーサたちが自ら歌うとも,きっと負かしてみせようと高言し,憤った女神たちは彼を不具にし,その絶妙の歌をとりあげ,琴弾く術も忘れさせた—

この軍勢を率いるのは,ゲレニア育ちの騎士ネストル,その指揮の下に軍船七十艘が船首を揃えた.

 

 

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