ビールの歴史は少なくとも5000年.
イランのゴディン・テペ遺跡(紀元前3500~3100年)から,六条大麦の醸造過程で生まれた「炭素のカス」が発見されました.
そして,シュメール人の記録(3900年前)からは,
初期の“ビール”は,発芽大麦でつくったパンを,香料と混ぜて発酵させたものと考えられています.
現代のビールとはかなり異なる古代のビール.
現代ではどのようなものをビールと呼んでいるのでしょうか?
日本語と英語の辞典に見られる定義を一つずつ例示してみましょう.
「麦芽」「ホップ」「発酵」「アルコール飲料」が共通して用いられています.
ビール 麦酒 (オランダ語 bier)
大麦の麦芽を水と共に加熱して糖化した液にホップを加え,更に酵母を加えて発酵させたアルコール飲料.
Lexco.com Beer | Definition of Beer by Lexico
Beer
(拙訳)麦芽を酵母で発酵させ,ホップで味・風味付けしたアルコール飲料.
An alcoholic drink made from yeast-fermented malt flavoured with hops.
現代のビールを大きく特徴付けている原料がホップであることが分かります.
https://www.facebook.com/hiroyuki.fujiwara.16/media_set?set=a.422024447883463&type=3
チェコホップ協会ROSA氏インタビューvol.1 チェコのホップ 歴史と種類 | 日本ビアジャーナリスト協会
ホップは苦みと香りの付与はもちろん,そのほかにもビールづくりで重要な役割を持つとされています.
ホップの役割
1. ビールに独特な芳香と爽快な苦味を与えること.
2. 麦汁の過剰なたんぱく質を沈殿・分離させ、ビールを清く澄んだものにすること.
3. 雑菌の繁殖を抑え、ビールの腐敗を防ぐこと.
4. ビールの泡もちをよりよくすること.
ホップはいつ頃からビール醸造に用いられるようになったのでしょうか.
英語版ウィキペディアによれば
(拙訳)ビールにホップ使用したのは9世紀からとの記録があります.ただし,それより300年後としている「Hildegard of Bingen」がしばしば最も古い記録として引用されています.
それ以前は,醸造家たちは,多くの種類の苦みのあるハーブや花,例えばタンポポ,ゴボウ,マリーゴールド,ニガハッカ(ドイツの古語ではBerghopfen;山のホップと意味する),グランドアイビー,ヘザーなど,からつくった"グルートgruit"を使っていました.
The first documented use of hops in beer is from the 9th century, though Hildegard of Bingen, 300 years later, is often cited as the earliest documented source.[3]
Before this period, brewers used a "gruit", composed of a wide variety of bitter herbs and flowers, including dandelion, burdock root, marigold, horehound (the old German name for horehound, Berghopfen, means "mountain hops"), ground ivy, and heather.
ホップが加えられるのは,仕込みの最終段階.その後に酵母による発酵が始まります.
現代のビールづくりには,多種類の副原料が使われるのがむしろ一般的になっています.
しかし,ドイツでは,1516年,「ビールは麦芽,ホップ,水,のみ(後に酵母が発見され,追加された)」とする「ビール純粋令 Reinheitsgebot」が施行され,今でも,ドイツ国内で作られる「下面発酵ビール(ラガービール)」は,この法令に準じたものだそうです.
(法令自体は,EU内貿易の障壁になるとして失効).
No.30 ビール純粋令と下面発酵│史学部│キリンビール大学|キリン ビール純粋令 - Wikipedia 本物のビールはヱビス、モルツなど5%だけ 「まじりっけなし」の嘘:MyNewsJapan
ドイツほど厳格に主原料のみによるビール製造にこだわっている国はありません.https://www.beerunion.ru/presentation/AXEL_Beer%20definition_ENGLISH.pdf
日本も含め,多くの国では,主に税制上,並びに貿易上の目的によって,「ビールの定義」を定めています.
そして,「ビールの定義は,ビールの質を保障するものではない」とのこと.
https://www.beerunion.ru/presentation/AXEL_Beer%20definition_ENGLISH.pdf
副原料の使用:太古に遡って見直せばそれもアリ?
(でも安くするために混ぜ物を使っていてはおいしいビールは作れないでしょうが)
付録
酒税法上のビールの定義
2018年,日本の酒税法が改正され,“「ビールの定義」が変わった”とかなり大きく報道されました.
そして,ビールの定義の変更は,販売価格に直結しています.
定義の変更⇒税率の変更⇒価格の変更
ビール好きにとっては,購入価格と直接響くだけに見逃せない情報!
ネット上に沢山解説がありますが,“ビール女子”のサイトの解説がわかりやすいので,興味ある方はこちらのサイトへ.
⇒「ビール」と「発泡酒」って何が違うの?今さら聞けない、ビールのはなし。 | ビール女子
簡単に説明すると,
日本の酒税法上のビールの定義は次の二つ要素から構成されています.
・原料に占める麦芽の割合50%以上
・「必須原料(麦芽・ホップ・水)」と「決められた副原料」のみで作られたもの
それ以外は「発泡酒」
「ビール」と「発泡酒」って何が違うの?今さら聞けない、ビールのはなし。 | ビール女子
そして
「今回(2018年4月1日)の酒税法の改正では,ビール類の酒税の税率を段階的に変えることが決まっています.
最終的に2026年10月1日には,ビール・発泡酒・新ジャンルの税率が一本化される(350ml缶1本当たり約54円)ことになっています」
「ビール」と「発泡酒」って何が違うの?今さら聞けない、ビールのはなし。 | ビール女子
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2017/explanation/pdf/p0919-0950.pdf
酒税法条文
第三条 十二 ビール 次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。
イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)