メーティス ゼウスが成年に達するやオーケアノスの娘メーティス(=「智」)を協力者とした.彼女はクロノスに薬を呑むように与えた.神々の王ゼウスは 神々と死すべき身の人間どものうちでも 並びなく賢いメティスを 最初の妻となさった.だが まことに彼女が 輝く眼の女神アテナを出産されようとしていたその折に彼は 策を用いて 言葉も巧みに 彼女の心を欺き彼女を 己れの腹中に呑みこんでしまわれた おとめ座 4. テュケー 番外編:姉妹「オーケアニデス(オーケアニス)」(6)

おとめ座の候補テュケーは

運命(fortune),運/巡り合わせ(chance),摂理(providence),宿命(fate)を司る女神.

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TYCHE CULT - Ancient Greek Religion

ヘーシオドスによれば

その数三千人の女神/ニンフ,オーケアニス(オーケアニデス)の一人がテュケー.

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オーケアニデスには名がよく知られた女神たちが幾人もいます.

ドーリス

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/20/003942

クリュメネー

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/21/000500

ディオーネ

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/05/18/005509

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/05/19/024202

 

今日取り上げるのは

メーティス(メティス)

神への助言,立案,狡猾/巧妙,智恵の女神

good counsel, planning, cunning and wisdom ( METIS - Greek Titan Goddess of Wise Counsel ).

 

ゼウス兄弟とティーターンとの戦いティーターノマキアー)では,ゼウスに助言して,地位が子によって危うくされることを恐れてクロノスが呑みこんだゼウスの兄・姉を吐き出させるよう,謀(はかりごと)をめぐらします(⇒偽アポロドーロス "ビブリオテーケー 日本語訳 ギリシャ神話”)

 

メーティスは,ゼウスの初めの妻となりますが(*),皮肉なことに,逆の立場になって,ゼウスに呑みこまれてしまいます.メーティスの子が神々の王としてのゼウスの地位を脅かすとの予言があったからでした.

そして,後にゼウスの頭から生まれてきたのが,智恵,工芸,戦争の女神アテーナーでした.(⇒ヘーシオドス "神統記”)

 

(*)偽アポロドーロス"ビブリオテーケー”によれば,「メーティスは,いろいろの形に姿を変えて,ゼウスが近づくのを避けた」.

 

メーティスはゼウスに呑みこまれてしまったままなので,その後,姿を現すことはありませんが,ギリシャの壺絵に「ゼウスの喉にいる女神の姿」が描かれており,メーティスかもしれない(possibly Metis)とされています.

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Metis (mythology) - Wikipedia

 

▽アポロドーロス ギリシャ神話 高津春繁訳 岩波文庫

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ゼウスが成年に達するやオーケアノスの娘メーティス(=「智」)を協力者とした.

彼女はクロノスに薬を呑むように与えた.薬の力で彼はまず石を,ついで呑みこんだ子供らを吐き出した.彼らと共にゼウスはクロノスとティターンたちと戦さを交えた.

  

▽ヘシオドス "神統記” 廣川洋一訳 岩波文庫

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ゼウスと女神たちの結婚

さて 神々の王ゼウスは 神々と死すべき身の人間どものうちでも

並びなく賢いメティスを 最初の妻となさった.

だが まことに彼女が 輝く眼の女神アテナを出産されようとしていたその折に

彼は 策を用いて 言葉も巧みに 彼女の心を欺き

彼女を 己れの腹中に呑みこんでしまわれた

大地と星散乱(ちり)ばえる天の勧めるままに.

すなわち 両神は こう勧められたのだ たれか他の者が

ゼウスに代わって 常磐(とこわ)にいます神々の王たる特権を得るようなことがあってはならぬと.

というのも 彼女(メティス)から 並外れて賢い子供らが生まれる定めになっていたからだ.

すなわち はじめに 輝く眼をもつトリトゲネイア(アテナ) つまり

父親に劣らぬ気性と賢い思慮を備えた娘御を

そのつぎには 傲慢な心もつ息子を

神々と人間どもの王として 生むこととなっていた.

ところが その前に ゼウスは 彼女を己れの腹におさめてしまわれたのだ.

この女神が 彼に 善きこと 悪しきことを助言してくれるように と.

2番目に ゼウスは 輝かしいテミスを娶(めと)られた.彼女は 季節女神(ホーラ)たち すなわち

秩序(エウノミア) 正義(デイケ) 咲き匂う平和(エイレネ)を生まれたが

この方々は 死すべき身の人間どもの仕事に 心を配られる.

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いちばん最後に ゼウスは ヘラを 咲き匂う花嫁となさった.

彼女はヘベ アレス エイレイテュイアを生んだ

神々と人間どもの王者と 情愛の契りをなさって.

そして ゼウスみずから 輝く眼のアテナを生まれたのだ ご自身の頭から.

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Athena - Wikipedia

この方は 畏(かしこ)い方で 鬨(とき)の声を惹(ひ)き起し軍勢を導き 疲れを知らず また女王である.

彼女は 喚声 戦い 闘争を楽しみたもうたのだ.

さて ヘラは 名にし負うヘパイストスを生まれた ゼウスと 情愛の契りもせずに.

というのも 彼女は 夫に腹を立て 仲違いしていられたからである.

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