おとめ座 4. テュケー 番外編:姉妹「オーケアニデス(オーケアニス)」(5)
おとめ座の候補テュケーは
TYCHE CULT - Ancient Greek Religion
運命(fortune),運/巡り合わせ(chance),摂理(providence),宿命(fate)を司る女神.
ヘーシオドスによれば
その数三千人の女神/ニンフ,オーケアニス(オーケアニデス)の一人がテュケー.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/19/011108
オーケアニデスには名がよく知られた女神たちが幾人もいます.
ドーリス
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/20/003942
クリュメネー
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/04/21/000500
そして,昨日
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/05/18/005509
&今日取り上げるのが,
神統記の冒頭にオリュンポスの女神として記され,アプロディーテーの母として知られていますが---
物語の中にはあまり登場しません.
しかし,ホメーロス「イーリアス」では,傷ついたアプロディーテーを慰める母として登場しています.
イーリアス(*)で,ディオーネー(ディオネ)が登場する場面は,第5巻.
副題は「ディオメデス奮戦す」.
以下ディオーネが登場する場面の概略を
から(「」内は本文引用).
概略
ギリシャ軍(アカイア軍)の英雄ディオメデス(ディオメーデース)は,女神アテナ(アテーナー)の加護を受けて,トロイア(トローイア,イーリオス,イリオス)の2人の戦士と対峙します.1人は弓の名手パンダロス.もう1人がアイネイアス(アイネイアース).
ディオメデスは,アテナに導かれた槍でパンダロスを殺し,さらに,アイネイアスに立ち向かいます.
ディオメデスが振り回した大石がアイネイアスの腰にあたり----
[本文引用]
「勇士は倒れて膝をつき,逞しい手で辛くも地上に身を支えたが,その両眼を黒い闇が蔽った.
この時,アイネイアスの生みの母,その昔,牛を飼うアンキセスの腕に抱かれて,彼を妊った(みごもった),ゼウスの姫アプロディテが,目敏く(めざとく)もこの有様に気づかねば,一軍の将アイネイアスもここに最期を遂げたであろう」
アプロディテは,腕をわが子の体にまわし,美しい衣を被せて連れ去ろうとします.
ディオメデスは槍でアプロディテを襲い,神の衣を貫いて手首のあたりを切り裂きます.女神は悲鳴をあげ,わが子を手から落としますが,アポロンが腕に受け止め,黒雲を起こして矢の攻撃から守ります.
アプロディテは,戦の神アレスの戦車を借りてオリュンポスに戻り,ディオネの膝に---
[本文引用]
「麗わしいアプロディテが母なるディオネの膝に崩れ伏すと,母は娘を抱いて優しく撫でながら,語りかけていうには,
『可愛い娘よ,空に住む神々の一体誰が,そなたをこんな目に遭わせたのです,乱暴な---まるでそなたが人前で不埒なことでもしたかのように.』
それに応えて笑み(えみ)愛づる(めづる)アプロディテがいうには
『わたしにとって誰にもまして可愛い息子アイネイアスを,わたしが戦場から救い出そうとしたというので,テュデウスの倅,傲岸不遜のディオメデスめが,わたしを刺したのです.もはやトロイエ勢とアカイエ(ギリシャ)勢との戦いではありません.ダイオイ(アカイエ,ギリシャ)勢は今はもう,神々に対しても戦いを仕掛けているのです.』
すると,女神の中でも殊に美わしいディオネがそれに応えて,
『我慢なさい,娘よ,辛いではあろうが忍んでおくれ.オリュンポスに住む神々が,互いに相手を苦しめようと計ったことから,人間の手にかかって辛い目をした例はいくつもある.まずアレスがそうであった.-------
ヘレ(ヘーラー)もそういう目に遭ったのです.アンピュトルオンの倅,剛勇ヘラクレス(ヘーラクレース)に,三叉の(みつまた)の鏃(やじり)のついた矢で,右乳の辺りを射られた時だが----
とはいうものの,いやしくもオリュンポスに住む神々に弓を射かけて悩ますなどという,不埒を働いてけろりとしているとは,なんとあやしからぬ乱暴者であろう.そなたにあの男をけしかけたのは,眼光輝くアテネだったが,
テュデウスも愚かな男よ,神々を相手に戦うような者は,とうてい長生きできぬこと,戦場から無事に帰国して,膝に乗せた子供らから父よ父よと呼んで貰えぬことが判っておらぬのじゃ.------』
こういって両の手で娘の腕の霊血を拭ってやると,傷は癒えて腕は元の通りになり,激しい痛みも和らいゆく.」
ギリシャ最古の長編叙事詩.二四巻.「オデュッセイア」と並んでホメーロス(ホメロス)作と伝えられる.
ギリシャ軍(ミュケーナイを中心としたアカイア人が中心)第一の勇士アキレウスの怒りを主題とし,トローイア(トロイア,イーリオス,イリオス)攻防一〇年間(⇒トロイア戦争)の終わりに近い五〇日前後の出来事を扱っている.(小学館 大辞泉 一部改変)
パリスが,スパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーをトロイアに連れて行ったことに始まる(⇒⇒パリスの審判).そのため,ヘーラーとアテーナーは,ギリシャ軍(アカイア軍)に,またアプロディーテーはトロイア軍(イリオス軍)に肩入れをした.さらに有力な神々も別れて両軍に味方し,ポセイドーンはギリシャ軍,アレス,アポローンとアルテミスはトロイア軍側についた.(ウィキペディア等)
⇒⇒パリスの審判 トロイア王子パリスが,ヘーラー,アテーナー,アプロディーテーの3人の女神のうちアプロディーテーを最高の美神と認め,黄金のリンゴを渡した.アプロディーテーは「最も美しい女を与える」という約束をしていたため,スパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーがパリスの元に向かうよう仕向ける.(ウィキペディア等)