鎌倉本覚寺(日朝様)の境内には,センダン(栴檀)の大木があり,花が咲いていました!
近くで見るのは初めてです.
とても上品な花.
古来,多くの歌人に取り上げられてきたのがよく分かります.
また,詩人三木露風も「せんだんの花のうす紫/ほのかなる夕ににほい/幽(かす)かなる想の空に/あくがれの影をなびかす」と詠いました.(古今短歌歳時記).
小さな花なので手を伸ばして懸命に撮っていると,愛好する方が,「ちょっといいですか?」と声をかけてきました.
近づいて大きくとれる場所は限られていたので,快く場所をゆずりました.
「鎌倉にはもう1カ所,栴檀の木があるんですよ」と知らせてくれ,しばらく話が弾みました.
清少納言も,「花いとおかし」「必ず五月五日にあふもをかし」としています.
(旧暦の5月5日とすれば,今年は早く咲いているということでしょうか?)
木の花は,濃きも薄きも紅梅. 桜は,--
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木のさまにくげなれど,楝(あふち)の花いとをかし.かれがれに様異(さまこと)に咲きて,必ず五月五日にあふもをかし.
[ 木の形は不格好だけれど,楝あうちの花はとてもおもしろい.乾いた感じでいっぷう変わって咲いて,必ず五月五日に咲き合わせるというのもおもしろい.]
しかし,私は花の咲いている枝振りも,とても美しい木だと思うのですが---
夕方のお月様とよく似合います.
宵の明星と栴檀.
栴檀はこのあと実がなります.友人によれば「ムクドリが大好き」とのこと.
昨年7月の写真:
昨年10月の写真:
なお,この栴檀には,二つの植物が当てられています.
次の字源の㋐が本来の中国語の意味で,ビャクダンを意味しています.日本でもこちらの方が有名ですね.「栴檀は双葉より芳し」があまりにもよく知られているので.
字源の㋑国訓にあるのが,今日お見せした花.中国では「楝」.日本では「おうち/あふち」と読んで,本来はこの楝が本名と考えるべきかと思われます.しかし,現代では「栴檀」の方が通りが良く,本名扱いされ,植物学ではこちらを本名としています.
角川字源
㋐香木の名。インド・インドネシア原産のビャクダン科の常緑樹。同旃檀せんだん
㋑国訓:センダン科の落葉高木。楝おうちの別称。樹皮や根を薬用とする。
楝
角川字源
おうち(あふち)。せんだん。とうせんだん。センダン科の落葉高木。春、うすむらさきの花をつけ、実は薬用となる。建築材などに用いられる。
センダン(別名 おうち):
https://ja.wikipedia.org/wiki/センダン
ムクロジ目 Sapindales,センダン科 Meliaceae,センダン属 Melia,センダン M. azedarach
センダン(栴檀)/オウチ(楝)の花を詠んだ短歌
(古今短歌歳時記より)
妹(いも)が見し 楝(あふち)の花は 散りぬべし 我が泣く涙 いまだ干(ひ)なくにも 山上憶良 万葉集 巻五・798(802)
(妻の死を悲しんで,わが涙の未だ乾かぬうちに,妻が生前喜んで見た庭前の楝の花も散ることであろう.憶良が旅人の心に同化して旅人の妻を悼んだものである. 斎藤茂吉)
我がやどにあふちの花は咲きたれど名にしもおはぬ物にぞ有りける 紀貫之 古今六帖
あふちさく北野の芝生さ月来ぬみざりし人のかたみばかりに 藤原定家 夫木抄
ゆふぐれになりつつのこる明るさに楝花咲く下にて遊ぶ 岡麓 朝雲
羽根そよがせ雀楝の枝に居り涼しくやあらむその花かげは 北原白秋 雀の卵
楝の木うすむらさきの花のかげに美しき鵙(もず)がとまりをるなり 若山牧水 黒松
楝の花あふれ咲く季を旅行きて駅々に会ふいくたりの友 阿部静枝 冬季
栴檀のうすむらさきに咲きつげる窓おしひらきしばしの息つぎ 長沢美津 雪
花楝むらさき深く咲きゆらぐ夕べの道に人をかなしむ 岡野弘彦 異類界消息
栴檀はうすむらさきの雪のごと花咲きてしあわせなりしかの日よ 石川不二子 牧歌