花菖蒲を詠んだ短歌  ハナショウブは,野生するノハナショウブを改良した園芸種.ノハナショウブは,幻の花花かつみの候補とも(をみなへし 佐紀沢に生ふる 花かつみ かつても知らぬ恋もするかも).ハナショウブの育種は,江戸時代にさかんに行われ,現在は,日本だけではなく世界に広がっています. 花菖蒲かたき蕾は粉しろしはつはつ見ゆる濃むらさきはも 木下利玄  濃艶に咲きて日に照る花菖蒲風ふきくれば紫に揺る 大岡博  咲き萎えて摘み捨てられし花菖蒲泥のうえにてなお濃むらさき 久々湊盈子

昨日訪れた横須賀しょうぶ園では,沢山の種類のハナショウブを楽しむことができました.

ハナショウブは,日本に野生するノハナショウブを改良した園芸種です.

 

ニッポニカによれば

https://kotobank.jp/word/ハナショウブ-1577863

はじめに沢山の品種が生み出されたのは江戸時代で,幕末にはすでに200あまりに達していました.育成地ごとに江戸系、熊本の肥後系、伊勢松坂の伊勢系が発達し、この3系統のほかに、米国系、長井古種、交雑系などの系統があり、現在に至っているとのこと.

 

田淵俊人氏によれば,

http://www.tamagawa.ac.jp/agriculture/teachers/tabuchi/dictionary/index.html

ハナショウブは,万葉集にある幻の花「花勝美/花克巳」の候補ともされている花で,江戸時代は「水田雑草」と見られていたようです.

もともと花色の変異をもっていたノハナショウブが農家の庭先などに集められて管理され,交雑をくり返した結果さらに新しい花色が生まれるきっかになったとされています.

ハナショウブ情報

ハナショウブについては,ネット上で沢山の情報を得ることができますが,上記の玉川学園大学の田淵俊人氏のサイトは,群を抜いています.興味をお持ちの方は,是非訪れてみて下さい.

現代に至るまでの400種の品種一覧と画像を見ることもできます.

http://www.tamagawa.ac.jp/agriculture/teachers/tabuchi/dictionary/list_a.html

▽ノハナショウブの群生の写真

ネット上で探したのですが,数が少なく,個人のブログや有料画像以外,みつかりませんでした.グーグル検索画面の一部を貼り付けておきます.https://www.google.com/search?野生のノハナショウブ

▽世界のハナショウブ

ハナショウブの園芸品種の育種は,日本だけではなく世界に広がっています.

英語版ウィキペディアには.

https://en.wikipedia.org/wiki/Iris_ensata

「19世紀半ばに西洋に紹介されると,この種の栽培に新たな一歩が開かれた.アメリカでは盛んに交配が行われ,多くの新しい品種が誕生した.イギリスでも,この植物に対する関心は同様に強い」と記され,

イギリス王立園芸協会のガーデンメリット賞(Royal Horticultural Society's Award of Garden Merit )を受けたハナショウブの品種名が15紹介されています.

Iris ensata Royal Horticultural Society's Award of Garden Merit

 

花菖蒲を詠つた短歌は,思つたより少ない印象です.あまりにはっきりした美しい花姿が,かえって歌を詠みづらくしている?

 

ハナショウブを詠った短歌

(古今短歌歳時記より)

 

(ひとり)われ打寝ころびて白菖蒲ひらかなむとする花に対(むか)ひぬ  窪田空穂 さざれ水

 

花菖蒲かたき蕾は粉しろしはつはつ見ゆる濃むらさきはも  木下利玄 紅玉

 

濃艶に咲きて日に照る花菖蒲風ふきくれば紫に揺る  大岡博 南麓

 

咲き萎えて摘み捨てられし花菖蒲泥のうえにてなお濃むらさき  久々湊盈子 黒鍵

 

 

花勝美/花克巳 in 万葉集

をみなへし 佐紀沢(さきさは)に生ふる 花かつみ かつても知らぬ恋もするかも  中臣女郎(なかとみのいらつめ)  万葉集巻四  六七五

 

女郎花(おみなえし)が咲く佐紀沢(さきさわ)に咲いている花かつみ、という風に、かつてない(今までしたこともない)恋に落ちているのです、私は。 楽しい万葉集 https://art-tags.net/manyo/four/m0675.html

 

「佐紀沢(さきさは)」は現在の奈良市水上池のあたりでしょうか。この歌ではそんな佐紀沢に「女郎花が咲き」の「さき」の「調べ(リズム)」から同音の「佐紀(さき)」を引き出しています。また、「花かすみ」はアヤメのことかと思われますが、こちらも佐紀沢に咲く花として詠い、「花かつみ」の「かつ」の音から「かつて」を引き出しています。

なんとも技巧に凝った上の句ではありますが、それだけに下の句の「かつても知らぬ恋もするかも」の率直さが活かされてこの部分が読み手の心の中にすっと入ってきますね。 黒路よしひろ 万葉集入門 http://manyou.plabot.michikusa.jp/manyousyu4_675.html