四季咲きのダイアンサス「アイラブユー」(種としてはカーネーション:Dianthus caryophyllusの一園芸種)の購入をきっかけに,
ダイアンサスについて,4日前にまとめはじめました.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/06/07/235446
今日はその続きで,日本の「なでしこ」を中心にまとめてみます.
内容は,5年前に「なでしこ」としてまとめたもののほぼ繰り返しになりますが---
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/04/012539
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/05/021933
ダイアンサス Dianthus は,属名として登場してきた言葉のようです
(英語ではダイアンス属の花の多くはPinkと呼ばれています).
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/06/07/235446
語源的にはギリシャ・ローマ神話の最高神ゼウス(ユーピテル/ジュピター)の花の意味.
ヨーロッパで高貴な花として扱われてきたことを偲ばせます.
Dianthus | Origin and history of Dianthus by Online Etymology Dictionary
Dianthus | Origin and history of Dianthus by Online Etymology Dictionary
from Modern Latin (Linnaeus), literally "flower of Zeus," from Greek Dios, genitive of Zeus "Zeus" (see Zeus) + anthos "flower" (see anther).
現代ラテン語(リンネ)で、文字通り「ゼウスの花」.ギリシャ語のDios、Zeus「ゼウス」(ゼウス参照)の属格 + Anthos「花」(anther参照) に由来する。
一方のナデシコの語源は不明と言っていいようです.
語源説として「愛児に擬してナデシコ(撫子)といった」などの説があります(日本語源大辞典 小学館).
しかし,
例えば「撫子」説については: 万葉集では「撫子」とは書かれていない,子どもに例えた例は宇津保(970−999頃)が初出であること(精選版日本国語大辞典)など,
どれも単なる「説」でしかないようです.
万葉(8C後)一九・四二三一
奈泥之故(ナデシコ)は秋咲くものを君が家の雪の巖(いはほ)に咲けりけるかも
宇津保(970−999頃)菊の宴
「二葉に生ひし なでしこを くる朝ごとに かき撫でて」
万葉の時代からの呼び名ナデシコは,植物としては,最も広く生育している現在のカワラナデシコ(Dianthus superbus L. var. longicalycinus)を指していたと思われます.
現在ではナデシコ属(=ダイアンサス属)の植物全てをナデシコと呼ぶことがありますが.
万葉集では,26首ものナデシコの歌が詠まれていて,「植物を詠んだ歌ベストテン」の10位にランクされます.
草本植物の花としてはトップ.
この頃から既に庭に植えられ,身近な美しい花として親しまれていたようです.
ガーデニング植物のはしりと言えるでしょう.
一方,ナデシコを人に例えた歌もありますが,女性だけではなく男性をナデシコに例えた歌もあります.
なでしこがその花にもが朝な朝な手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ 大伴家持 (万葉集巻三 0408)
(大伴家持が坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)に贈った歌です.
あなたが撫子(なでしこ)の花だったらなあ.そうしたら毎朝,手に取って愛でるのに.)たのしい万葉集: 撫子(なでしこ)を詠んだ歌
朝ごとに我が見る宿のなでしこの花にも君はありこせぬかも 笠郎女(かさのいらつめ) (巻八 1616)
(笠郎女が大伴家持に贈った歌です.
あなたさまが,毎朝私が見る庭のなでしこの花であってくだされば良いのですけど.)たのしい万葉集: 撫子(なでしこ)を詠んだ歌
「ヤマトナデシコ」は,もともと「カラナデシコ(唐撫子)」と区別するための言葉で,「ナデシコ」そのものを表し,主に女性を指すようになったのは,江戸後期から明治以降とされています.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/04/012539
やまと‐なでしこ【大和撫子】
(精選版日本国語大辞典)
〘名〙
①植物「なでしこ(撫子)」の異名。《季・秋》
*古今(905−914)秋上・二四四
「我のみやあはれとおもはんきりぎりすなく夕かげの山となでしこ〈素性〉」
②日本女性の清楚な美しさをたたえていう語。
*人情本・春色恋白波(1839−41)序
「倭ヤマトなでしこ漢よもぎと冠字の対をならべたれども、〈略〉漢土の貴姫を、本朝の処女風にそだて」
なお,ナデシコは,清少納言が「めでたし」のトップに位置づけた花としてよく知られていますが,この時「唐のもの」(おそらく現在のセキチク)が「さら也」としていました.
枕草子 64 段
草の花は撫子(ナデシコ).唐のはさら也、大和のもいとめでたし.女郎花(おみなえし).---