ダイアンサスについてのまとめの3回目です.
第一回
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/06/07/235446
第二回
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/06/11/234534
今日は,英語「Pink」,「Carnation」の語源について.
Online Etymology Dictionary (ウェブ上の英語語源辞典としてはもっとも詳しい記載がある https://www.etymonline.com )
から.
属名として用いられている「ダイアンサス」の語源は,はっきり分かっています.
ダイアンサス (n.)
dianthus | Etymology, origin and meaning of dianthus by etymonline
カーネーションを含む大型の顕花植物属,1849年,現代ラテン語(リンネ),直訳すると「ゼウスの花」,ギリシャ語のDios「ゼウス」の属格(ゼウス参照)+Anthos「花」から来ています.
それに対し,ダイアンサス属を広く意味する「Pink」,その中の1品種を意味する「Carnation」は,かなり以前から用いられていたため,正確に語源を特定することはできないようです.
しかし,Online Etymology Dictionaryの記載内容から,興味深いことがいくつかみつかります.
中でも「Pink」の語源は,とても面白い.
Pinkと聞いて,
ほとんどの方が思い浮かべるのは色の名前ですよね?
「ピンク色」「桃色」.
ダイアンサス(ナデシコ属)の花の色も,ピンク色が基調になっている.⇒ダイアンサスを「Pink」と呼ぶのは,色の名前から来ているに違いない.
と思うのではないでしょうか?少なくとも私はそう思ってしまいました.
ところが---
そうではないのです.
花をピンクと呼ぶようになってからかなり後に「Pink」がピンク色を指す言葉として使われるようになった!
言い換えれば,ダイアンサス属の花の色から,色の名前「Pink」が生まれた可能性が高い!
ただし,Online Etymology Dictionaryは,このことを断定してはいません.
同様の内容は,英語版のWikipediaにも記載があります.こちらも断定はしていませんが.
The colour may be named from the flower rather than the flower from the colour.
色から花ではなく、花から色を命名する可能性があります.
なお,稲垣栄洋氏は
「この花こそが,ピンクの語源なのである」と断定しています.(稲垣栄洋 身近な花の知られざる生態 PHP研究所)
このブログでも,この言葉を引用して,上述と同じような内容の記事を上げ,この時はかなり断定的な書き方をしました.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/09/012120
yachikusakusaki.hatenablog.com今回改めて記事を当たってみたところ,「ダイアンサスを指すpinkが,色のピンクの語源である可能性がある」という言い方がより正確なようです.稲垣氏のような断定した書き方はネット上の英語辞典,語源辞典,さらには小学館ランダムハウス英語辞典には記載されていませんでした.
How the Colors Got Their Names という記事も,Online Etymology Dictionary同様,使用されていた年代を比較し,植物pink(dianthus)の方が,かなり早くから使われていたといった記述です.
以下,「Pink」と「Carnation」の語源についての記述をOnline Etymology Dictionaryから.
pink(n., adj.)
pink | Etymology, origin and meaning of pink by etymonline
(DeepL翻訳)
1570年代、様々な色を持つ園芸植物ダイアンサスの通称、語源不明。
花びらに穴が開いている(スカラップ)ことから pink (v.) に由来すると思われる。あるいは、オランダ語の pink 「小さい、狭い」(pinkie 参照)から、pinck oogen 「半分閉じた目」(文字通り「小さな目」)を経て英語になり(1570年代)、目に似た小さな点があるダイアンサスの名前として使われた可能性がある。
花の色の一つであるピンク色から、「淡い赤色、彩度は低いが明度の高い赤色」という意味の名詞が1733年までに記録されている(ピンク色は1680年代から記録されている)。
形容詞のピンクは1720年までに記録されている。
このような色の名称として、英語では、14世紀半ばに "flesh-color" (incarnation) が、1530年代には、"肉" を意味するラテン語に由来する形容詞 incarnate (incarnation 参照) があったが、これらは他の連想も持ち、意味は "flesh-color, blush-color" から "crimson, blood color" 方に流れがちであった。
花の意味は、(1590年代には)「花」あるいはあらゆるものの最高の型や優秀さの例として比喩的に使われるようになった(Mercutioの「いや、私はまさにcurtesieのピンキーだ」、Rom. & Jul. II.iv.61 のように)。」
政治的な名詞の意味として、「中央より左と認識されているが、完全に過激ではない(つまり赤)人」が1927年までに証明されているが、このイメージは少なくとも1837年にまでさかのぼる。
以下略
carnation (n.)
carnation | Etymology, origin and meaning of carnation by etymonline
(DeepL翻訳)
南ヨーロッパ原産の草本多年草ですが、香りと美しさから古来より広く栽培され、1530年代にはノルマンディー地方に多く分布していた、Dianthus Caryophyllusダイアンサス・カリオフィルスまたは"pink,"の通称で、由来は不明です。
初期の綴りは混乱しています。おそらく(初期の綴りの証拠から)、この花が礼拝堂に使われたことから、あるいは花びらが冠状に見えることから、coronation(戴冠)が転訛したものでしょう。
そうでなければ、ピンク色であることから、フランス語のcarnation "person's color or complexion" 「人の色、顔色」(15c.)に由来するのかもしれません。
これはおそらくイタリアの方言でcarnagione "flesh color" で、後期ラテンのcarnationem (nominative carnatio) "fleshiness" から、ラテンのcaro "flesh" (元はPIE語源の *sker- (1) "to cut" )に由来するのでしょうね。OED(Oxford English Dictionary)は、すべての花がこの色であるわけではないことを指摘しています。
このカーネーションという言葉は、「人肉の色」(1530年代)、「肉色の」という意味の形容詞(1560年代、英語での最古の用例は「キリストの化身」の意味、14世紀半ば)として別々に英語へ借り入れられていました。また、絵画では「人物の肉、裸体、覆われていない部分の表現」(1704年)を意味する言葉でもありました。