土記 <do-ki>
インド変異株に警戒を
青野由利
毎日新聞 2021/5/22 東京朝刊
新型コロナウイルスの流行状況はやっぱり厳しい.今週の厚生労働省の専門家会合に示された資料には,頭を抱えたくなる要素がいろいろあった.
まずは,繁華街の人流(人出)と感染の関係.これまでの経験から人流が減少すれば感染者も減少に転じることがわかっている.ところが,人流減少から感染者のピークアウト(頭打ち)までの時間が,以前より延びているという.
たとえば大阪.昨年11月は人流減少から2週間で感染者数が減少へ.年末年始には3週間.それが第4波の今,3月末に人流が減り始めてから感染者が頭打ちになるまでに5週間もかかっている.
東京も傾向は同じ.年末年始は2週間で感染者が減ったが,今回は3週間以上たってもピークアウトは見えていない.
いったいなぜ? 感染性の強い英国由来の変異株が影響している,というのが専門家の見方だ.
専門家会合の4月7日の資料では大阪ですでに7割が変異株.関東では1割程度だったが,「5月初旬には75%に達する」と推計されていた.
そんな早く?と思ったが,その通りに.あっという間だった.
そうなると,気がかりなのはインドで広がる変異株だ.インドでの感染爆発のひとつの要因と見られ,すでに日本を含む50カ国近くで検出されている.
3タイプに分類され,中でも懸念されているのが2番目の型だ.英政府への専門家助言チーム「SAGE」によると,従来の英国株より感染性が高いことは確実で,1・5倍に上る可能性も十分あるという.
英国ではすでに従来株から置き換わっている地域もあるというから,杞憂(きゆう)ではない.専門家会合では理論疫学者の西浦博さんが,英国以外でもインド変異株の割合が増加しているという海外のデータを示し,危機感を訴えた.
英国株の感染性が従来株の1・5倍,もしインド変異株が英国株の1・5倍だとすると,かけ算で従来株の2・25倍.今でも手を焼いているのに,感染拡大のスピードはさらに加速し,同じ対策では立ちゆかなくなる.
そういえば,専門家たちはこれまで,「英国株は新しいウイルスと考えた方がいい」と警告してきた.とすれば,インド変異株はもっとたちの悪い「新ウイルス」かもしれない.
確かな性質はまだわからない.でも,この1年数カ月で学んだことを踏まえれば,わかるまで待つという選択肢はない.(専門編集委員)
検疫でのインド株,160人 3月の初確認から5月7日まで
2021年5月21日 21時10分 (共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/105792
厚生労働省は21日,検疫で見つかった新型コロナウイルス感染者の検体を国立感染症研究所で調べたところ,計160人がインド株に感染していたと発表した.
検疫でインド株が初確認された3月28日から5月7日にかけての集計.同期間に検出された感染力が強いと懸念されている他の変異株は英国株など28人で,インド株が8割以上となった.
厚労省によると,インド株感染者の滞在国はインドとネパールが目立つ.5月3日に成田空港の検疫所が指定する施設で療養中に死亡した50代の男性も,インド株に感染していた.
新型コロナのインド亜種.どこにあるのか,どのように広がるのか,感染力は強いのか?
Covid Indian variant: Where is it, how does it spread and is it more infectious? - BBC News
伝染力は強いのか?
政府の発表によると,英国で冬に感染者が急増した原因となったケント型(B.1.1.7)よりも感染しやすくなっているようです.
パンデミックの経過を数学的モデルで予測する科学顧問は,「B.1.617.2(インド型)はB.1.1.7よりも感染力が強いと確信しており,懸念されるこの新しい亜種の感染力が50%以上になることも現実的な可能性である」と述べています.
これについては,まだ不確定要素がたくさんあります.しかし,「現実的な可能性」とは,その確率がおよそ半々であることを意味すると定義しています.
コロナウイルスの亜種がインドで拡散中 - 科学者がこれまでに知っていること
ネイチャー 593, 321-322 (2021)
Coronavirus variants are spreading in India — what scientists know so far
B.1.617を含む亜種が、インドでの感染の急増に関連していることがわかりました。研究者たちは、これらのウイルスがどれほどの脅威をもたらすのかの判断を急いでいます。
Gayathri Vaidyanathan
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「インドでの感染者の急増とそこで目撃された光景は,国際的に重大な懸念となっている」と,英国バーミンガム大学の微生物ゲノム学者・バイオインフォマティシャンであるニック・ローマン氏は,英国がB.1.617.2を懸念すべき変種と宣言した後,ロンドンのサイエンス・メディア・センターに語っています.「このバリアントは今後,注意深く見守るべきものとなるでしょう」