スミレとビオラ
どちらも私が大好きな花.
スミレ,ビオラは日常生活の中ではなんの問題もなく,区別して使える言葉です.上記のように.
しかし,少し掘りさげて調べていくと,いろいろな使い方があって,戸惑いを覚えます.
スミレ
スミレは万葉集に登場します.
三首あるそうですが(たのしい万葉集),よく知られているのは次の歌(このブログでは4回目の引用).
春の野に 須美礼(すみれ)摘みにと 来し(こし)われそ 野を懐かしみ 一夜(ひとよ)寝にける 山部赤人 (第八巻 1424)
春の原にすみれを摘みにきた自分は,その野を懐かしく思って一夜寝た(宿た) /斎藤茂吉
“すみれ菜”の別名がある(和名抄931~938ごろ)ように,古代,スミレは食用だったそうです.
語源:
“「すみいれ」の略で,花の形が墨壺に似ているところからこの名がある”(日本語源大辞典 小学館)
が語源の定説
ただし,他にも諸説あるようで----
例えば,スミイレハナ,酢楡,ソミレ(染)などが候補.(日本語源大辞典)
漢字「菫」:
日本では,“すみれ”に当てられていますが---
角川新字源によれば,もともとの菫の字義は
①烏頭/とりかぶと②槿(むくげ)③セリに似た野草の名
とのこと.
いずれも,スミレとはかけ離れた植物の名前ですが---
現代中国語でスミレの中国語訳は,堇菜(ピンインjǐncài)(白水社 中国語辞典).
スミレの中国語訳 - 中国語辞書 - Weblio日中中日辞典
菫という漢字一字ではスミレではないのに,「菜」をつけるとスミレになるという不思議な使い方をされているようです.
“「菫」の字は,中国で,スミレの一種に菫菫菜とあるところからあてられるが,この「菫」は「芹」の意という” (日本国語大辞典)
植物学でのスミレ:
日本国語大辞典の② は植物学上のスミレの解説
:“スミレ科スミレ属の草本の総称.ツボスミレ・タチツボスミレなど数百種ある” 日本国語大辞典
“スミレ”という言葉を,植物学の文脈で使う場合には,スミレ属の植物全体を指すことになります.
そして,後述するようにスミレ属の学名はViola.
植物学では,スミレとビオラは同じ意味になります.
“日本のスミレ属は55種が知られており,五つのグループに大別される”(日本大百科全書)とあります
(ウィキペディアでは“学名がつけられているだけで250種” スミレ属 - Wikipedia ).
万葉集で詠まれたスミレが,数多い在来種のどの種なのか.山野草に詳しい方なら推定できそうな気もしますが,私には無理.
菫(すみれ) 国木田独歩
春の霞に誘われて
おぼつかなくも咲き出でし
菫の花よ心あらば
ただよそながら告げよかし
汝(な)れがやさしき色めでて
摘みてかざして帰りにし
少女(をとめ)よ今日も来たりなば
「君をば戀ふる人あり」と
http://folli-2.at.webry.info/201505/article_7.html
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/03/08/005854
園芸種のビオラ
“パンジーに比べて小ぶりな花をつけるものがビオラ” これはガーデニングの常識.
パンジー、ビオラとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版
“パンジー,ビオラは,ヨーロッパに自生する野生種から育種され,かつては大輪のものをパンジー,小輪で株立ちになるものをビオラと呼んで区別していましたが,現在は複雑に交雑された園芸品種が登場し,区別できなくなっています.”
とはいえ---
園芸店では,ビオラは,パンジーとはっきり区別されて販売されています.5センチ程度がを境目にして分けられるということです.
これは,英語での区別を受け継いだもの.
violaの定義:様々なガーデンハイブリッドで.白,黄色,パープルの単色または混色のスミレで,パンジーと似ているが,より小さい花をつける.(拙訳)
Definition of viola
https://www.merriam-webster.com/dictionary/viola
: violet,any of various garden hybrids with solitary white, yellow, or purple often variegated flowers resembling but smaller than typical pansies
植物学でのビオラ
スミレ属の学名がViola(ラテン語)です.
Violaは,スミレ属全体を指すことがあり,また,園芸種の一グループの名前でもあるということになります.
一方,スミレの英語はViolet.
ラテン語Violaから,フランス語を経て,できた言葉.
Violet
ランダムハウス英語辞典
中期英語<古期フランス語 violete〔viole(<ラテン語 viola スミレ)より〕]
Wolfgang Amadeus Mozart - Das Veilchen (KV 476, Kathleen Battle)
Das Veilchen(すみれ)
「Das Veilchen(すみれ)」の解説(歌詞・和訳)~モーツァルト~
一本のすみれが草原に立っていた
身をかがめて、気付かれずに
それはかわいらしいすみれだった
そこに若い羊飼いの娘がやって来た
軽やかな足どりと、朗らかな心で
そこから そこから(こちらへ)
牧場をこちらへと歌った
ああ、すみれは思う、もし自分が
自然の中で最も美しい花だったら
ああ、少しの間だけでも
愛しい人(娘)に摘み取られて
胸に押しあてられて、ぐったりとなるのに
ああ、たった、ああ たった
15分間だけでも
ああ、でも ああ!少女はやってきて
そのすみれに注意も払わずに
かわいそうなすみれを踏みつけてしまった
それ(すみれ)は垂れ下がり、死んでしまったが、それでも喜んでいた
彼女によって、彼女によって
彼女の足元で(死ねるのだから)!
Elisabeth Schwarzkopf; "Das Veilchen"; KV476; Wolfgang Amadeus Mozart