「どういう被災を受けたか,トータルに見て判断する必要があると思うし,家の再建が終わったから,その人の東日本大震災は終わりましたということではない.やっぱり見るべきは,家ではなく生活そのものなんだなって」 被災された膨大な数の人たちそれぞれに人生があります.人生の終盤は,誰であっても尊重される社会でありたい. NHKスペシャル シリーズ東日本大震災 終の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~4(災害ケースマネージメントの可能性)

NHKスペシャル シリーズ東日本大震災 終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~4(災害ケースマネージメントの可能性)

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 NHKスペシャル | シリーズ東日本大震災終(つい)の住みかと言うけれど… ~取り残される被災者~

2019年3月10日(日)

午後9時00分~9時54分

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~ 1(在宅被災者)

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/12/005703  

「ああ,ダメだ.交換した方がいいな」「これも(土台から柱が)外れてんじゃん」 在宅被災者の場合,私有財産の自宅の修理に使える補助金は最大258万円.それで,家が直しきれなくても,あとは,自助努力するしかありません.しかし,8年がたって,その自助努力も限界に来ている現状が分かってきました.「今の制度のままでは,これからも災害があるたびに,救われずに取り残されていく人たちが生み出されていく可能性があります」 

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~ 2(災害公営住宅)-1

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/13/012338 

仙台市で最初に完成した災害公営住宅.男性が死後,数ヶ月たった状態で見つかりました.隣人すら,名前を知らなかったといいます.誰にもみとられずに亡くなる孤独死.災害公営住宅では,入居者の増加と共に増え続け,去年は76人.前の年に比べ,4割も増えました.住民の健康に新たな異変も起きていました.移転による健康被害.リロケーションダメージ.

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~ 2(災害公営住宅)-2

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/14/000500 

暖チーズのモットーは,“おせっかいの心”.「時間がかかる.あきらめずに,やれることを続けていく」 隔絶された終の住みか.孤独に陥る人が後を絶たない問題. 24年前の阪神・淡路大震災のあとも,深刻な問題として指摘され続けて来ました.東日本大震災でも,コミュニティーづくりが後手に回ったケースが目立ちました.更に,個人情報という壁.大事なのは住民の命.原点に立ち返って,制度を柔軟に運用する段階」

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~3(原発事故被災)-1

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/15/000500 

終の住みかを考える上で,別の次元で見ていかなければならないのが,原発事故が起きた福島の人たち.災者への支援は次々と打ち切られ,終の住みかをどこにするか,被災者自身に決断を迫っている.「きょうは解体の最終立ち会いということで.断腸の思いで解体せざるを得ないと決断したんです」「ダメですね.気分が悪くなってきた.帰ります.---もうこれで失礼します」「直面しているのは,『明確な喪失感』です」

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~3(原発事故被災)-2

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/16/000500

避難指示=ふるさとを失ったのかどうか分からない(あいまいな喪失)⇒帰還=思い描いていたふるさととは異なる現実(明確な喪失).

先祖代々の土地を守るため自宅に戻ることを決めた佐々木さん.「誰もいない」「みんな,取り壊した」「すごい量だべ(周囲は,除染廃棄物の仮置き場になっていました)」「終の住みかにはなりっこねえ.若い人1人もいねえ.子供も1人もいねえ.動かんなくなったら,誰も助けてくれる人いねえ」

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~3(原発事故被災)-3

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/03/17/000500

2年前に避難指示が解除された飯舘村.村の居住率は2割ほど.自宅に戻ってきた男性.農業再会のめども立たず,再び酒に手を出すようになった男性.「俺,これで一生終わりかなと思うと,自分でがっかりしちまうな」 曖昧な喪失が明確な喪失へと変わった瞬間,もう一度,深刻なダメージと向き合うことに.コミュニティーを,なんとかつなぎ止め,生業が成立する仕組みを構築するという,長くて困難な道のりは,これからが本番.

 

終(つい)の住みかと言うけれど…~取り残される被災者~4(災害ケースマネージメントの可能性)

 

大越キャスター

「曖昧な喪失が,明確な喪失へと変わった瞬間,人々は,もう一度,深刻なダメージと向き合うことになります.

それに1人で打ち勝てというのは,酷な話です.バラバラになりそうなコミュニティーを,なんとかつなぎ止め,生業(なりわい)が成立する仕組みを構築するという,長くて困難な道のりは,これからが本番なのです」

 

「あの日から,8年がたち,被災者という言葉でくくるのが難しいほど,被災した人たちが抱える問題は,多様化細分化しています.

加えて,復興政策のレールから外れた人たちの暮らしは,より,深刻の度合いを増している現状も浮かび上がってきました.

従来の制度による支援が限界に近づく中で,苦しむ人たちの個々の問題にどう向き合い,生活再建の軌道に乗せていくべきなのか,宮城県石巻市にあるボランティア団体の取り組みに,ヒントを探りました」

 

壊れたままの家に住む在宅被災者を支援する「チーム王冠」.代表の伊藤健哉さんは,今,およそ500世帯の相談に乗っています.

被災者が抱える課題が多様化する中.伊藤さんは様々な専門家集団と連携するようになりました.

家の修理について相談に乗るのは建築士です.

建築士の男性(床の勾配を測りながら)「この辺から極端に下がっちゃってるんだね」

 

法律上のトラブルや,行政との折衝は弁護士.

これら,専門家は無償で協力しています.

このほかにも,医療や福祉の機関,就労支援,心のケア,ファイナンシャルプランナー,学習支援,フードバンクに関わるNPOなど,15を超える団体がネットワークを形成. 専門家が連携し,被災者の個別の課題に沿って,生活再建を後押しするこの仕組み.

災害ケースマネージメントと呼ばれています.

「チーム王冠」が支援する1人,仮設住宅に入れなかった佐藤悦一郎さん(74)です.

震災後,体調が悪化して医療費がかさみ,苦しい年金暮らしが続いています.

佐藤さん「はい,どうぞ」伊藤さん(扉を開けて)「おう」

この日,「チーム王冠」の伊藤さんが連れてきたのは,ファイナンシャルプランナーです.

家計管理の専門家に,伊藤さんの収支を見直してもらおうというのです.

伊藤さん「これが,現在,生活費で必ずかかるわけよ」

年金は2ヶ月でおよそ14万円.電気代などの固定費を差し引くと,わずか4000円しか残りません.

専門家の目で,佐藤さんの収支を細かくチェックすると---.

佐藤さんは,支出を抑えるために,震災でケガをした脚の回復には欠かせないリハビリを止めていたのです.

ファイナンシャルプランナーの男性「それは,絞らない方向がいいですよ.絞るとしても最後の最後だし---」

相談の結果,新聞の購読や,携帯電話の料金プランなどを見直すことで,リハビリを再開できるめどが立ちました.

ファイナンシャルプランナーの男性「あの,ちょっと頑張って」

佐藤さん「でも,そうしないと,私が楽にならないことが分かったから---」

ファイナンシャルプランナーの男性「頑張ってみましょう」

 

伊藤さん「あの〜,その人がどういう被災を受けた,例えば“仕事がなくなった”りだとかとか,“心のケアが必要”なのかっていう,そういうことを全てトータルに見て判断する必要があると思うし,家の再建が終わったから,その人の東日本大震災は終わりましたということではないんだな,という.やっぱり見るべきは,家ではなく,生活そのものなんだなっていう---」

 

「チーム王冠」の取り組みは,専門家の無償協力で成り立っているのが実情です.

こんご,安定した支援体制をどう築いていくか,伊藤さんは課題を感じています.

 

大越キャスター

「災害ケースマネージメントという手法は,いわば,オーダーメードの支援を行うものです.

被災者の抱える問題が多様化する中で,その重要性は増していると言えるでしょう.

ただ,オーダーメイドである分.手間暇もかかります.

ボランティアや専門家に任せるだけでは,持続可能な仕組みとして機能していくのは難しいのです.

 

こうした中で,災害ケースマネージメントを制度化した自治体があります.

3年前に,震度6弱地震鳥取中部地震2016年10月)が起きた鳥取県では,1万5000棟に被害が出ました.

去年から,県が主導して災害ケースマネージメントを実践しています.

自治体や,ボランティア団体,福祉などの専門家が集まり,県が持つ被災者の情報をもとに,1人1人の課題について,解決策を探ります.

その上で,専門家を被災者の家に派遣.

必要な経費は,県が負担します.県が主体となって,継続して支援に当たることで,被災者の生活再建を目指しています.

 

慣れ親しんだ暮らしを奪われ,決して望んだわけではない場所を,あるいは,大きく変わり果ててしまった我が家を,終の住みかとせざるを得ない人たち.

そうした人たちを,未曾有の規模で生み出したのが,東日本大震災です.

規模が大きすぎたから,全てに支援の手が回らないのは仕方がないというのは,逃げの理屈にしかなりません.

被災された膨大な数の人たち,そのそれぞれに人生があります.

貴重な人生の終盤は,誰であっても尊重される社会でありたい.

震災からの8年という年月は,その理想を捨てずに持ち続けることの覚悟を,私たちに問いかけているのではないでしょうか」