口には出さないけれど,「おまえたちは邪魔だ」,もっと言えば,「金食い虫だ」と思っている.僕はよく親から「金食い息子」と言われました.そういう意識は今でもあると思います.他者を排除するのではなく認めあうことが必要です./ 僕が親の意識にこだわっているのは,今回の被害者の名前が明らかにされないからです.  横山晃久さん(1)「自立生活センターHANDS世田谷」理事長 / 保坂展人「相模原事件とヘイトクライム 岩波書店  第2章障害当事者は事件をどう受け止めたか」より

横山晃久さんへのインタビュー(1)

保坂展人(ほさかのぶと)

(「相模原事件とヘイトクライム 岩波書店

 第2章障害当事者は事件をどう受け止めたか」より )

 

f:id:yachikusakusaki:20170629224724p:plain

相模原事件とヘイトクライムの通販/保坂展人 岩波ブックレット - 紙の本:honto本の通販ストア

 

親の意識という問題

私が区長を努める世田谷区には,障害のある人たちが数多く住んでいます.事件後最初に会いたいと思ったのは,横山晃久(よこやまてるひさ)さん(「自立生活センターHANDS世田谷」理事長)でした.

保坂 七月二十六日にやまゆり園で起きた事件をどう受け止めましたか?

横山 今日(八月八日)で事件から一〇日ぐらい経ちます.この間,僕が意識しているのは,エレベーターや満員電車に乗るときです.周囲の人が,ベビーカーはいいけれど,障害者の車椅子はあっちに行け,と思っているのが視線でわかります.

口には出さないけれど,「おまえたちは邪魔だ」,もっと言えば,「金食い虫だ」と思っている.僕はよく親から「金食い息子」と言われました.そういう意識は今でもあると思います.他者を排除するのではなく認めあうことが必要です.

 

事件が起こってからは人々の視線が厳しくなりました.考え過ぎかもしれませんが,誰でも「障害者は邪魔だ」という意識があるのではないですか.

せっかく障害者差別解消法ができたのに,なんだこれは,という思いがします.

 

ですから,事件については,やはり起きたか,と思いました.

僕は生まれつきの脳性まひなので,優生思想の問題をすごく感じています.そして,僕は生まれつき障害を持っているので,中途障害の人とは違っています.そうしたことから今回の犯人は健常者だと思います.彼は精神障害者ではないと思う.

 

今回の事件には,三つの問題があります.

①施設の問題,②親の意識の問題,③優生思想の問題です.

報道ではこれらがゴチャゴチャになっています.

 

僕が親の意識にこだわっているのは,今回の被害者の名前が明らかにされないからです.

たとえば,飛行機事故が起こると,被害者がどんなに幼い子どもでも名前が出ます.今回の被害者は二十代から六十代の人たちなのに,名前が出て来ない.これは親の意思によるのでしょう.

 

四十年以上前に『母よ!殺すな』(横塚晃一著,初版すずさわ書店,一九七五年.増補版同,一九八五年.第四版生活書院,二〇〇七年)という本が出ましたが,親の意識はあの頃と変わっていません.

 

家族は,被害者にいてほしくなかったんです.

被害者の名前を出してしまうと,あそこの家には障害者がいたということが分かる.これは僕のうがった見方かもしれないけれど,事件が起こって,ほっとしている家族もいるのではないでしょうか.それが生まれつき脳性まひの僕の考えです.こういう意識は根強いです.そして,親の意識をそうさせたのは,日本全体の意識なんです.

 

(以下続く 予定)