横山晃久さんへのインタビュー(1)
保坂展人(ほさかのぶと)
第2章障害当事者は事件をどう受け止めたか」より )
相模原事件とヘイトクライムの通販/保坂展人 岩波ブックレット - 紙の本:honto本の通販ストア
親の意識という問題
私が区長を努める世田谷区には,障害のある人たちが数多く住んでいます.事件後最初に会いたいと思ったのは,横山晃久(よこやまてるひさ)さん(「自立生活センターHANDS世田谷」理事長)でした.
保坂 七月二十六日にやまゆり園で起きた事件をどう受け止めましたか?
横山 今日(八月八日)で事件から一〇日ぐらい経ちます.この間,僕が意識しているのは,エレベーターや満員電車に乗るときです.周囲の人が,ベビーカーはいいけれど,障害者の車椅子はあっちに行け,と思っているのが視線でわかります.
口には出さないけれど,「おまえたちは邪魔だ」,もっと言えば,「金食い虫だ」と思っている.僕はよく親から「金食い息子」と言われました.そういう意識は今でもあると思います.他者を排除するのではなく認めあうことが必要です.
事件が起こってからは人々の視線が厳しくなりました.考え過ぎかもしれませんが,誰でも「障害者は邪魔だ」という意識があるのではないですか.
せっかく障害者差別解消法ができたのに,なんだこれは,という思いがします.
ですから,事件については,やはり起きたか,と思いました.
僕は生まれつきの脳性まひなので,優生思想の問題をすごく感じています.そして,僕は生まれつき障害を持っているので,中途障害の人とは違っています.そうしたことから今回の犯人は健常者だと思います.彼は精神障害者ではないと思う.
今回の事件には,三つの問題があります.
①施設の問題,②親の意識の問題,③優生思想の問題です.
報道ではこれらがゴチャゴチャになっています.
僕が親の意識にこだわっているのは,今回の被害者の名前が明らかにされないからです.
たとえば,飛行機事故が起こると,被害者がどんなに幼い子どもでも名前が出ます.今回の被害者は二十代から六十代の人たちなのに,名前が出て来ない.これは親の意思によるのでしょう.
四十年以上前に『母よ!殺すな』(横塚晃一著,初版すずさわ書店,一九七五年.増補版同,一九八五年.第四版生活書院,二〇〇七年)という本が出ましたが,親の意識はあの頃と変わっていません.
家族は,被害者にいてほしくなかったんです.
被害者の名前を出してしまうと,あそこの家には障害者がいたということが分かる.これは僕のうがった見方かもしれないけれど,事件が起こって,ほっとしている家族もいるのではないでしょうか.それが生まれつき脳性まひの僕の考えです.こういう意識は根強いです.そして,親の意識をそうさせたのは,日本全体の意識なんです.
(以下続く 予定)