紙つぶて
東京新聞 2020年11月11日 (水曜日) 夕刊
米大統領選を見ながら,この四年間のトランプ政治に想(おも)いを馳(は)せた.
移民や女性の蔑視.事実に基づかない発信,トランプ政治が生み出したものを分断や憎悪と指摘する声は多い
そんなトランプ氏を見るたびに思い出すのは,相模原障害者施設殺傷事件で死刑判決を受けた植松聖死刑囚だ.
一月に始まった裁判で,植松はトランプ大統領の名前を何度も出した.
「立派な人」「見た目も生き方も内面もすべてカッコいい」.
そんなトランプ氏が前回大統領選の際,メキシコ国境に壁を造ると発言したことが,植松の心を動かした.
「これからは真実を言っていいんだと思いました.重度障害者を殺した方がいいと」.
また,大統領選が十一月であることから,その後に自分が事件を起こすと「トランプみたいな人が大統領になったからこんな事件が起きた,と言われるのでは」と思い,その前に事件を起こしたとも述べた.
事件がトランプ氏のせいで起きたというつもりはない.普通ではない植松の精神状態が何かを激しく歪(ゆが)ませて受信したのだろう.
だが,トランプ氏の「剥(む)き出しの暴力的な本音」ともいえる発言は,何かのタガを外した.
「綺麗(きれい)事や建前を言ってた奴(やつ)らが何かしてくれたか?」と理想を語る人を陳腐化し,連帯ではなく分断の種をばらまいた.
世界はそれを四年間,見てきた.
そのほころびをどう繕っていくかが課題だ.
(作家 活動家)
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