犠牲者が全て匿名になった背景
---- この事件で「障害者だから匿名を認める」となると,犠牲になった方は名前が出ないわけですよ.---- 19人の中には津久井やまゆり園で何十年も暮らしていた人もいたのに,そこにいたことにならなくなってしまう.----
彼とか彼女の人生は何だったのかなと思うと,植松にも殺されて家族にもまた殺されてしまったという気がするんです.----
あえてキツい言い方をさせていただくと,名前を出したくないという家族の方々が,被害を受けた当人でなくて,家族が差別されるから名前を出したくない.自分の保身で出さないんだと,僕はそう思っています.----ただ,最終的に決めるのはご家族だから,心が癒えて話してくれるのを待つしかない.僕がそれに対して「実名にしなさい」とは言えません.----
自分の子が障害者とわかったら,親戚,近所みんなから言われて恥ずかしい思いをする.だから,それまで知らせてなかったようなんです.
そういう差別が続いてきたことが,今回の事件で犠牲者が匿名になった理由です.
「黙ってしまうと植松に負けたことになる」1 - yachikusakusaki's blog
「黙ってしまうと植松に負けたことになる」2 - yachikusakusaki's blog
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黙ってしまうと植松に負けたことにな 3
尾野剛志 津久井やまゆり園家族会前会長
(創 2017年 9月号 相模原障害者殺傷事件1年)
匿名では植松に負けたことになる
僕は妻と再婚しましたから一矢は僕の子ではないのですが,一矢が四歳の時に知り合って,全然恥ずかしいと思ったこともないし,障害を持った子がいることを隠そうと思ったこともありません.
僕が知っている範囲でも,子どもが津久井やまゆり園にいるのに一度も来ない人がいるんです.
障害をもった人が亡くなった時に,家族がお墓には入れないという例もあるんです.これが現実なんです.
知的障害者であっても自分の子どもはかわいいんですが,それをわかちあえない.だから仕方なく隠す人がいるんです.
家族会の人たちは互いに顔も知っていますし,匿名でという人たちに僕がおかしいという立場ではないと思います.
事件の後,家族会でその問題について話す機会もありませんでした.
昨年10月6日のお別れの会には,県の部課長も来たのに,遺族は一人も来ませんでした.まだ気持ちの整理がついていなかったのでしょうね.
ただ,それから時間がたって,今年7月22日に芹が谷園舎祈りの集いをやったのですが,その時は亡くなった19人のうち8人の方の遺族,親戚なども含めて十数人が来ていらっしゃいました.
僕が名前と顔を出して息子のことを語るのも,黙ってしまうと植松に負けたことになるんじゃないかと思うからです.
植松元被告とも面識があった
略
津久井やまゆり園立て替えめぐる議論
略
今やられていることは「順序が違う」
中略
この立て替え問題にしても,匿名の問題にしても,知的障害者を含めた障害者と言われる方々が差別されているという現実が,まず問題だと思っています.
そうした差別は日本の文化や風土と結びついていて,根本的に変えるには100年かかるかもしれません.でも,僕はこの事件の背後にある差別や偏見をなくしていくことが一番大事だと思っているんです.
(談)
了