アヤメ--おそらく--
が庭の一角で咲き誇っています.
イチハツは最後の花も終わりかけています.
美しい.アヤメはわたしが大好きな花の1つです.
しかし,どうも紛らわしいことが大好きな花のようで---
紛らわしさ1. アヤメ / カキツバタ / ハナショウブ---アヤメ科の花々は見分けるのが大変
「いずれアヤメか,カキツバタ」とはよくいいったもの.ハナショウブも加えて,見分けるのは,花からだけではとても難しい.自信は全くありません.
見分け方の基本はというと:たくさんのサイトに記載あり.
(たのしい万葉集: 杜若(かきつばた)を詠んだ歌などより)
我が家は湿地ではないし,付け根の網目模様もありそう(写真では分かりませんが).
写真を比較(下)---色はやや違いますが.これは写真の写し方のため.
アヤメでまず間違いないでしょう.
アヤメ Iris sanguineaは
アヤメ科(Iridaceae) アヤメ属(Iris)
アヤメとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版
カキツバタ I. laevigataとハナショウブI. ensata(ノハナショウブのI. ensata var. spontaneaの園芸種)
画像はよく似ています.一目で見分ける人はプロの方のみかもしれませんね.
カキツバタとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版 ハナショウブとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版
イチハツやシャガも似ています.
ただ,この2つは花をつける時期が1ヶ月近く早い.そして葉の太さなども違います.シャガは花の色が薄いことからも一番見分けやすいでしょうか.
イチハツは一初=アヤメの仲間で一番早く咲く
シャガは Iris japonica の名前をもらっている.「日本のアイリス」(でも帰化植物だそうです.かなり早くから帰化したようですが).そして,いろいろな場所で一番見かけるアヤメ科の花といってもいいかもしれませんね.
イチハツ - Wikipedia シャガ - Wikipedia
以上は全てアヤメ科アヤメ属.他にジャーマンアイリス,ヒオウギなどもアヤメ属.
アヤメ科まで広げてみると--
さすがにもう花は似てはいませんが,とてもよく知られた花がいくつか.
クロッカスとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版 フリージアとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版
紛らわしさ2. アヤメとカキツバタ
2-1.「いずれアヤメかカキツバタ」は有名ですが---
以前はカキツバタなしで単に「いずれアヤメ」と言っていたようです.
日本国語大辞典の「いずれ」の成句には,
「いずれ菖蒲(あやめ)」と「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)」の2つが載っています.
「いずれ菖蒲(あやめ)」 :[源頼政が鵼(ぬえ)退治で,菖蒲前(あやめのまえ)という美女を賜るに当たって,同じような美女12人の中から菖蒲前を選ぶよう命じられた時読んだ和歌「五月雨に沢辺の真薦(まこも)水越えていづれ菖蒲(あやめ)と引きぞ煩ふ」太平記 によるという] どれもすぐれて選択に迷うことにいう
「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)」 :[菖蒲も杜若も同科の花で区別しにくいことから]=「いずれ菖蒲」
同じ意味で使われるのですが---
「いずれアヤメ」は太平記を知らなければ意味が分からないですね.そのために,この言い方は廃れたのかな?と想像しますが---
「いずれアヤメかカキツバタ」なら大多数の人が分かるように思います.
2-2.花札5月はアヤメ?
花札の5月はアヤメ.とばかり思っていました.
わたしだけでなく,一般的にアヤメと呼ばれているように思うのですが---カキツバタが正解のようです.花札の販売をしている天狗堂の言い分はとても説得力があります..
花札は月ごとに4枚ずつ花で表し、その月の高得点札には特徴のある絵柄が描かれています。
この高得点札の中の五月の札は「菖蒲(アヤメ)と八橋」とも呼ばれていますが、大石天狗堂は「杜若(カキツバタ)に八ツ橋」としています。それには理由があります。
「菖蒲と八橋」ではない理由の一つ目がアヤメは川べりには咲かないという事です。アヤメは水辺ではなく山野の草地や畑などに生える植物で、特に湿地を好む種類の植物ではない。花はカキツバタに似ているが、川べりには咲かないという事です。そして一番の理由になると思います。
カキツバタと言えば能の演目にもなっている『伊勢物語』第九段東下りに出てくる『三河国八橋』が有名です。この演目は愛知県碧海郡海郡知立町八橋(現在の愛知県知立市八橋町)という処が舞台で、昔 在原業平(百人一首の歌人の一人)が、「かきつばた」の5文字を使い
「からこ(ご)ろも きつつなれにし つましあれ はるばるきぬる たびをしぞおもふ」と詠んだ。
それによって、草木ながらも成仏できたと杜若の精(シテ)が旅の僧(ワキ)に伝えるという内容である。 今でも、知立市八橋町寺内にある、無量寿寺敷地内のかきつばた園が杜若の名勝地として有名です。
葛飾北斎も『三河の八つ橋』を題材に想像で浮世絵にしています。(この八橋は平安時代中期に無くなり、北斎の時代にはすでに無かった。無量寿寺杜若園が出来たのは1812年の江戸時代)
その為、花札の五月の高得点札は『菖蒲と八橋』ではなく、『杜若に八つ橋』と当店は考えます。
(なお,この文中の業平の歌は古今集・覉旅にもあって,「折句」の代表的な歌としてもよく知られているとのこと折句 - Wikipedia.訳は次の通り:「唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ」からころもの意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典)
まとめると
1. アヤメは、川べりには咲かない
2.「八つ橋」は伊勢物語のカキツバタの和歌,及び,カキツバタの名所,として有名
この二点から,5月の高得点札は「杜若に八つ橋」である
いかがですか?
この稿続く⇒アヤメ(2)紛らわしさ3 明日投稿予定
万葉集には現在のアヤメの花を詠った和歌はありません.一方,カキツバタを詠った和歌は7首あります.ただし,折口信夫氏はカキツバタをアヤメのこととよみといています.今のアヤメは万葉時代なんと呼ばれていたのでしょうか?
かきつばた,きぬにすりつけ,ますらをの,きそひかする,つきはきにけり
かきつばた,衣(きぬ)に摺(す)り付け,大夫(ますらを)の,着襲(きそ)ひ猟(か)する,月は来(き)にけり 大伴家持 (第十七巻 3921)
菖蒲の花を着物に摺り著けて(すりつけて),立派な男達が上に著襲ねて(きがさねて),薬狩りをする月は,もうやって来た.
▽楽しい万葉集
かきつばたを衣(きぬ)に摺(す)り付けて,大夫(ますらを)が着重ねて狩りをする,そんな月が来ました.
狩りは薬狩(くすがり:薬草や鹿の袋角をとる行事)のことです.