「生きたかった 相模原障害者殺傷事件が問いかけるもの 大月書店」より
当事者・家族・支援者の声
相模原事件で思うこと
橋本 操 ALS当事者
わたしはALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病をもつ重度重複障害者です.
わたしがはじめて障害者と出会ったのは十歳の冬でした.脳性まひのお兄さんと同じ病院にひと月入院していて,毎日お兄さんが脚で折り紙を折ってくれるのです.その見事な出来栄えと,くれるばかりの嬉しさは今も鮮明に覚えています.
日本では障害者は信じられないほど差別をされています.小学校の二,三年からインクルーシブ教育が導入されていれば,わたしのように障害者を尊敬する文化が生まれていたはずです.
わたしがALSという難病を患い障害者になったのは三十二歳で,発病して三十年以上経ちますが,ケアスタッフのおかげでこうして原稿も書けています.人工呼吸器をつけて二四年目なので,さすがに体力の衰えは自覚しています.
ALSとは,手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です.しかし筋肉そのものの病気ではなく,筋肉を動かし,かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます.その結果,脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより,力が弱くなり,筋肉がやせていきます.その一方で体の感覚,視力や聴力,内蔵機能などすべてたもたれることが普通です(*注).
病状の進行は個別的ですが,わたしのはわたしの進行がもっともスタンダードであると考えます.
はじめて事件のニュースに接して,一番驚愕したのは「拘束具」という言葉でした.まず拘束具の使い方から調べはじめましたが,一般の高齢者施設でも使われていることに,さらに驚きました.同意書が必要なことから,家族も共犯であると考えます.
家族といえば,数年前の支援者の説明会で,遠くの施設に障害者・児を預けている人々から出た質問のほとんどが年金や手当のことでした.今回の津久井の事件でも,同様の背景と経緯があると想像します.
障害者が家にいることはそれほどいけないことですか.
友人の在宅独居の知的障害者は,僕はバスに一五分乗ると一人で帰れないとか,新聞の勧誘が断れないので,一人は嫌だと言っています.
この事件で親族が出て来ないのは,差別以前に金銭的な問題があるのではないでしょうか.山奥に捨てられて,金銭も搾取されていることは十分に想像されます.この問題の解決は,まず金の流れを変えることにあります.
全ての被害者に平穏な日々が戻るように祈っています.
*注 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/52 の解説より.