料理は毎日つくっています.
でも,まだ初心者に毛の生えたようなもの.せめて卵焼きとオムレツが人に食べさせられるようになれば,中級入り目前かとも思うのですが.
そこで,今日の話題は卵焼き.
直接のキッカケはNHK「趣味どきっ」の月曜シリーズ「お弁当大百科 おかずの横綱 卵焼きVS唐揚げ」.
番組冒頭に「京都の卵焼き専門店で,卵に入れているこの白い液体は何?」
白い液体?私はわかりませんでした.
この答は後半で.はじめは歴史から.
1. 卵焼きはいつから食べられるようになったか
豆腐3. NHK新日本風土記 / 料理書・料理本の歴史と「豆腐百珍」 - yachikusakusaki's blog
この料理本が好評だったことから
卵のレシピをあつめた「卵百珍」が,料理本「万宝料理秘密箱」(まんぽうりょうりひみつばこ,天明5年,1785年)に掲載・刊行されています.江戸時代中期以降,鶏卵は人気の食材となっていたことがわかります.
しかし,江戸時代以前は,鶏卵を食べることは避けられていました(石毛直道,日本の食文化).
弥生時代から飼育されていたニワトリ.食用ではなく,ペット的性格をそなえた聖なる鳥,または,目覚まし時計,闘鶏用として飼い続けられましたが,鶏肉だけではなく,鶏卵も食べられなかったようです(石毛).
ただ,ポルトガル宣教師の記述によれば,「私たちの食物は彼らの間でではとても望まれています.とりわけこれまで日本人が非常に嫌悪していました卵や牛肉の料理がそうなんです.太閤様までが,それらの食物をとても好んでいます(フロイス 日本史 1593年の記述)」とあり,受け入れる下地は十分整っていた!
そして,農業に必須な牛は江戸後期までほとんど食べられなかったのに対し,鶏卵(鶏肉も食べられるようになったものの,卵がとれなくなった鶏が主)は江戸初期になると一気に広がり,中期には「卵百珍」がまとめられるまでポピュラーな食材に.
その「卵百珍」のレシピの一部:現代日本語に翻訳され、調理方法や材料などは現在の家庭でも再現できるよう工夫したかたちで,昨年,公開されました(江戸の料理本レシピをネット公開 J-CASTヘルスケア クックパッド江戸ご飯のキッチン).
小豆餅卵,卵豆腐等,現在は,10以上のレシピを見ることができます.しかし,このような珍しい卵料理が見られるものの,この中には卵焼きそのものはありません.「家主貞良(かすてら)卵」という料理が載っていますが,材料は卵・砂糖・うどん粉(小麦粉)・油.カステラに限りなく近いと言って良いでしょう.
通常のネット検索をすすめると
「卵百珍」を含め,実に40点の料理書の卵料理を調べた研究論文が.
これによると,江戸時代の主な卵料理は
「『ふわふわ』(現在のいり卵に相当),『貝焼/てんぼ焼』(現在の卵とじに相当),『茶碗焼き』(現在の茶碗蒸しに相当)の3系統」とのこと.卵焼きは江戸時代まだまだ主流ではなかったのですね.
趣味ドキッのテキストでは---
『図説 江戸料理事典(柏書房)』によるとして「江戸時代はふっくらとした厚焼き卵を『カステラ卵』と呼んでいた」と書いています.卵百珍に載せられたカステラ卵はカステラに近かったのですが---.
しかし,一方では,
「卵焼き器に入れ,巻き込みながら太くして焼き上げた巻き卵『巻き卵』」
の記述があるそうで,こちらが現在の卵焼きに近いもののようです.
『水料理焼方卵細工1848年』には,「卵に塩を加えてすり鉢で合わせ,焼き鍋で焼き,クルクルと巻き寄せてからまた卵液を入れてまいて焼いて聞き,四文銭の丸さにした」と書かれているそうです.焼き鍋が卵焼き器のことなのでしょう.卵焼きは卵焼き器なしには考えられないと言って良い料理ですから.
「様々な料理のなかで、玉子焼きが変わっているのはつくるのに『玉子焼き器』という特殊な形状の鍋が必要なこと.
フライパンや雪平鍋などは様々な料理をつくることができますが、『玉子焼き器』は専用の道具.
単一用途の道具が家庭の台所に並んでいるのは、諸外国から見ると珍しいようです」食の仕事人 第5回 玉子焼き器 | 食育通信 online
そして,卵焼きは明治初期には一般的になっていた.
趣味どきっで紹介された卵焼きの扇屋.扇屋のこだわり 王子の狐の玉子焼き。扇屋の厚焼き玉子
明治期,落語「王子の狐」(初代三遊亭圓右が上方落語から改作)にも取りあげられている割烹料理店でした.
「王子の狐」は初代三遊亭圓右により明治初期大阪落語から改作されたもの.「お詫びに扇屋の卵焼きを買う」という「王子の狐」のストーリーが当時も同じとすれば,明治初期,卵焼きはすでに広く知られた人気料理だった,といえますね.
2. 二種類の卵焼き
◎王子卵専門店扇屋の厚焼き卵
ボウルにカツオで取った出しを入れる.
出しには砂糖がたっぷり.ただし砂糖の量は秘密.出しと卵の量比も不明.ただし,後の京都のものよりかなり少ないことは明らか.
卵を割り入れる. LLを使用.白身が多い方が焼き上がりがふわっとする.
腰が残るくらいにかき混ぜる.白身が切れる程度とし,決してかき混ぜすぎないように.これで出来上がりがふんわりする.
液を卵焼き器に入れる.(卵焼き器は正方形を使用)
まわりが少し固まってきたら,奥の方から少し折り曲げる.
折り曲げた部分を奥に移動させて,卵焼き器を振って返す.
はじめの返しは1/4程度.また奥へ移動させ返す.
これを繰り返して巻いていく.最終的には卵焼き器の半分の幅になる.この間,卵はまだ固まっていないが,余熱で固まる.
卵焼き器の半分に何度か卵液をつぎ足して巻くことを繰り返し,目標とする厚さまで焼き上げる.
◎京都錦市場商店街三木鶏卵だし巻き卵 京都 錦小路 三木鶏卵 [だし巻卵専門店]
利尻昆布を1時間じっくり煮出し,昆布を取り出した後に,そうだがつお節,さば・いわし節を入れて出しをつくる.
卵を白身が切れる程度に溶く.余り混ぜすぎないように.
薄口しょうゆ,砂糖を加えたのち,出しをたっぷり加える.
そして,更に,たっぷりの出しが出ないようにとめるため.
だしで溶いたデンプン(かたくり粉)を加える.
卵焼き器に入れる.(卵焼き器はかなり長い長方形のもの)
この店では,手前から奥に向かって,一気に巻き上げて出来上がり.使うのは菜箸.
巻きすに入れて形を整える.
◎以上から「明日使えるヒント」
・(厚焼きたまご)白身が多い方がふわっと仕上がる
・卵はかき混ぜすぎない
・(だし巻き)たっぷりの出しを使い,でんぷんを加えて,出てこないように止める
・(だし巻き)巻きすで形を整える
◎以上を活かして料理研究家渡辺あき子さんが考えたレシピ
▽ジャコとネギの卵焼き(関西風)
材料(2人分)
卵(2個),細ネギ(2本分),ちりめんじゃこ(大さじ1)
A:だし(大さじ2),塩(ひとつまみ),みりん(小さじ1/2),薄口しょうゆ(小さじ1)
水溶きかたくり粉:かたくり粉(小さじ1/4),水(小さじ1)
サラダ油(適量)
作り方
(1)Aを混ぜ合わせ,水溶きかたくり粉を加えて混ぜる
(2)ボウルに卵を割り,カラザを取って菜箸で溶きほぐし,(1)を少しずつ加えて混ぜる.細ネギとちりめんじゃこを加えて混ぜる.
(3)卵焼き器をを熱して油少々をなじませ,卵液を玉じゃくしに七分目ほど入れ,全体に広げる.半熟になったら奥から手前に巻く.巻いた卵を奥へ寄せ,あいたところに油少々をなじませ,再び同量の卵液を流し入れる.巻いた卵を持ち上げて下にも卵液を流し入れ,同様に手前に巻き込む.これを繰り返す.
(4)巻きすにとって巻き,しばらく置いて形を整え,冷めたら食べやすい大きさに切る.
▽関東風みつば入り卵焼き
材料(2人分)
卵(2個),みつば(4枚),生シイタケ(1枚)
A:だし(大さじ1.5),砂糖(大さじ1),塩(ひとつまみ),しょうゆ(小さじ0.5)酒(小さじ0.5)
サラダ油(適量)
作り方
:水溶きかたくり粉を入れる以外は上記と同じ