秋らしい食べ物は?と聞かれて何と答えますか?
栗はその第一候補のひとつではないでしょうか.
https://iraw.rcc.jp/topics/articles/23272
https://report.iko-yo.net/articles/15510
ネット上に「秋の果物に関するアンケート」が掲載されていて,このアンケート(2015年)でも,秋らしさを感じる果物の1位は柿と栗(栗が果物かどうかはさておき)
生活者調査「おやゆびアンケート」
https://www.lifedesign.co.jp/oyayubi-detail.html?post=106
栗は,縄文期の日本人にとって,もっとも大切な食料の一つでした
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/10/21/002918
“縄文初期にはそのまま食べられる栗とクルミが主食”.(石毛直道 日本の食文化 岩波書店)
歴博「日本の遺跡出土大型植物遺体データベース」によれば,
「栗」は953件登録されていて,時代としては,縄文時代前期の遺跡からも見つかっています.
ほぼ同じ件数みつかる「栃の実」は縄文時代前期末葉(三内丸山遺跡等)が最古.あく抜きの技術の発達で,沢山採ることができる栃の実の食用としての利用が広がっていったと考えられています,
奈良時代に入っても,栗は食料として重要で,「五穀を助けるもの」として,その栽培が奨励されていました(日本書紀).
https://nihonsinwa.com/page/2455.html
丙午、詔令天下、勸殖桑紵梨栗蕪菁等草木、以助五穀。
(詔(ミコトノリ)をして、天下に桑・紵(カラムシ=繊維が取れる植物)・梨・栗・蕪菁(アオナ=今でいうカブ)などの草木を植えるよう勧めました。これらは五穀を助けるものになる。)
重要な食料として,古代には日常的に接していた栗.
瓜食(うりは)めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲(しぬ)はゆ いづくより 来り(きた)しものぞ 目交(まなかひ)に もとなかかりて 安寐(やすい)し 寝(な)さぬ 山上憶良 万葉集 巻5 802
甜瓜を食ふと,子どもが思い出される.栗を食ふと尚更思ひ出される.さうした風に,何につけても,思ひ出される子どもといふ者は,いったいどういふ処から(ところから)どうしてやって来たものであるか知らぬが,目の間に,心もとないばかりに,始終ちらついていて,安眠をばさせないことだ. (折口信夫 口語万葉集)
しかし,栗は古歌にはあまり取り上げられず,上記,山上憶良の長歌以外に,万葉集では二首,古今・新古今には全く取り上げられていません.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/10/10/235759
は,「三栗の」として詠まれ,これは,栗のイガに実が三つあることから「中」にかかる枕詞として用いられています.
https://matsue-hana.com/hana/kuri.html. https://blog.goo.ne.jp/utyucosmos/e/96944cfb45f9228faf470808bc0f0da5.
雌蕊三つが総苞に包まれていて,それぞれが栗の実,イガに,
https://twitter.com/hidakacity_pr/status/945490395101663232
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/10/10/235759
三浦祐介訳 口語訳古事記
人世編その五
いざ子ども のびるつみに
ひるつみに わがゆく道の
かぐはし はなたちばなは
ほつえは とりゐがらし
しづえは ひと取りがらし
みつぐりの なかつえの
ほつもり あからをとめを
いざささば よらしな
さあいとしい子 ノビルを摘みに
ヒルを摘みにと われが行く道のほとり
かぐわしく咲く ハナタチバナは
上の枝は 鳥が咋(く)い散らし
下の枝は 人が摘んで枯らし
三つ並ぶ栗の実の その中ほどあたりの枝の
色づいたつぼみのごと 美しく輝くおとめよ
ああ,刺されば いかにうれしかろう
夫木集(1310年頃成立)には,八首挙げられているのが目立つとのこと(古今短歌歳時記).ここでは,栗柴(栗などの小さい雑木林),むなしぐり・むなし栗(実のない栗のイガ),ささ栗(実の小さい栗でシバグリの異名)等も詠われています.
栗・栗の実を詠んだ短歌1
(古今短歌歳時記より)
三栗の那賀(なか)に向へる曝井(さらしゐ)の絶えず通はむそこに妻もが 作者不詳 万葉集巻3 1745
(那賀(なか)に向って,流れてゆく泉のように絶えることの無い様に通っていこう.そこに愛しい妻がいてくれたらもっといいのになぁ.楽しい万葉集)
うづもるる木の葉の下のみなしぐりかくてくちなん実をばおしまず 土御門院 夫木集
風待ちて拾ふとすれば袖の上にかかる木陰の露の落栗 冷泉為相 夫木集
栗もゑみ柿も色づきうなゐらがほこらしげなる時も来にけり 小沢蘆庵 六帖詠草
はらはらと落つる木の葉にまじりきて栗の実ひとり土に声あり 大田垣蓮月 天の刈り藻
谿の橋をりをり馬行き見ゆれども栗落すほかの物音もなし 島木赤彦 氷魚
目に見えずわたらふ秋は栗の木のなりたる毬(いが)のつばらつばらに 長塚節 長塚節歌集
栗の実の笑みそむるころ谿越えてかすかなる灯に向ふひとあり 斎藤茂吉 赤光