コオロギを詠んだ短歌  朝晩の気温は確実に下がってきたと思います.コオロギの声が秋を感じさせてくれます.古くは,「秋鳴く虫の総称」でした. 夕月夜ゆふづくよ心もしのに白露の置くこの庭に蟋蟀(こほろぎ)鳴くも 湯原王  こほろぎのしめらに鳴けば鬼灯(ほほづき)の庭のくまみをおもひつつ聴く 長塚節  独り居の身に相応(ふさ)ひゆくや本棚の裏にひそみてこほろぎの鳴く 大西民子  恋ふというしづけき思念,枕べに夜もすがらなるこほろぎのこゑ 成瀬有

今日の東京は,正午の気温が30℃を切ったとニュースで報じていましたが---

結局32℃まで上がったようです.関東地方の気温は,明日,更に低そうですが,その後はまたムシムシ暑い日が続くとのこと.

 

それでも,9月に入ってそろそろ一週間.

朝晩の気温は確実に下がってきたと思います.虫の声,特に鎌倉ではコオロギの声が秋を感じさせてくれます.

 

コオロギの名前と言えば,エンマコウロギしか私は知りませんが---

http://www-w.cf.ocha.ac.jp/cos/biology/エンマコオロギ/

兵庫県立大の日本の昆虫・カエルの鳴き声 のコオロギのページ

https://www.hitohaku.jp/material/l-material/sound/koorogi/

には27種類ものコオロギ名があげられていました.日本にはこんなに沢山いるのでしょうか.

 

コオロギと言えば,最近,一部で話題になっている昆虫食の主役としても有名.

昆虫食用に育てられているコオロギは,エンマコウロギではなく,ヨーロッパコオロギ,フタホシコウロギ,タイワンコウロギだそうです.

https://plusmirai.com/cricket-species/

https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=26670

https://en.wikipedia.org/wiki/Tarbinskiellus_portentosus

 

コオロギは,現在でこそ,エンマコウロギなど,バッタ(直翅)目コオロギ科に属する昆虫をさしますが,

古くは,「秋鳴く虫の総称」

 

こおろぎ/こほろぎ【蟋蟀】

日本国語大辞典

①古く,秋鳴く虫の総称.

*万葉(8C後)八・一五五二

「夕月夜ゆふづくよ心もしのに白露の置くこの庭に蟋蟀(こほろぎ)鳴くも」

②バッタ(直翅)目コオロギ科に属する昆虫の総称.古くは「きりぎりす」といった.いとど.ちちろむし.《季・秋》

 

ややこしいのは,”古くは「きりぎりす」といった”こと.

そして,万葉集の「蟋・蟋蟀」(九例)も,旧訓では,キリギリスと訓じたそうです.(秋鳴く虫をキリギリスと言ったということ?)

上記の①の例も

「夕月夜ゆふづくよ心もしのに白露の置くこの庭に蟋蟀(きりぎりす)鳴くも」だった!

この訓を「こおろぎ」に改めたのが賀茂真淵で,以降はこの訓に従っているそうです.

 

 

コオロギを詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

夕月夜ゆふづくよ心もしのに白露の置くこの庭に蟋蟀(こほろぎ)鳴くも  湯原王 万葉集 巻八 一五五二

 

ちちろ虫夜吹く風や寒からん更くればいとどよわる声かな  作者未詳 古今和歌集

 

こほろぎの鳴くやあがたのわが宿に月かげ清しとふ人もがも  賀茂真淵 賀茂翁家集

 

ふりたらぬ宵の雨(あま)やみくらがりの木にのぼりなく閻魔蟋蟀  岡麓 庭苔

 

こほろぎのしめらに鳴けば鬼灯(ほほづき)の庭のくまみをおもひつつ聴く  長塚節 長塚節歌集

 

青野には日の光にさやるものなきに蟋蟀ぞ鳴く昼のこほろぎ  斎藤茂吉 遠遊

 

夜学よりつかれてかへりて尿(いばり)する垣根のもとの夜夜のこほろぎ  土屋文明 ふゆくさ

 

俄雨(にわかあめ)降りて止みたる夕庭にひとときひびくこほろぎのこゑ  三ヶ島葭子 三ヶ島葭子全歌集

 

こほろぎはいとどあまねく鳴きふけりわがひとり寝の夜半のしたしさ  古泉千樫 屋上の土

 

澄む空の月の光を受け歩むこおろぎの夜の身の影一つ  武川忠一 緑稜

 

なにゆゑに行きてゐるかと問ふごとく霜夜を細きこほろぎの声  安田章生 安田章生全歌集ー日月長し

 

独り居の身に相応(ふさ)ひゆくや本棚の裏にひそみてこほろぎの鳴く  大西民子 まぼろしの椅子

 

恋ふというしづけき思念,枕べに夜もすがらなるこほろぎのこゑ  成瀬有 海やまの祀り