ヒオウギ 檜扇 「厚みのある剣状の葉が何枚も重なり合い,扇を広げたように見えることから,この名前で呼ばれます」「真っ黒で艶々したこのタネを見た昔の人々は,この様子から夜の闇や美しい女性の黒髪を連想したのでした」 ヒオウギの黒光りした種子=ぬばたま / 万葉集 ぬばたまの,夜の更けゆれば,久木生ふる,清き川原に,千鳥しば鳴く 山部赤人

ヒメヒオウギスイセンは,一時期,はびこるが如く,わが家の庭に広がっていました.

ヒメヒオウギズイセン:yachikusakusaki's blog

しかし,ヒオウギはありません.残念

www.shuminoengei.jp「厚みのある剣状の葉が何枚も重なり合い,扇を広げたように見えることから,この名前で呼ばれます」

「力強く端正な草姿で,古くから庭植えや生け花材料として親しまれてきました」ヒオウギとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

と紹介されると,何とか手に入れたくなりませんか?

調べてみると,

ヒオウギは東アジアの国々、インド北部まで広範囲に生えている植物として知られています」ヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信

とのこと.実際この記事によると,日本でも,カルスト台地で有名な北九州市平尾台で自生種が見られる!

以前は広く見られたそうですが.

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平尾台 - Google 検索

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ヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信

お借りしたサカタのタネ園芸通信の写真の一番上の写真からも「厚みのある剣状の葉が何枚も重なり合い,扇を広げたように見える」ことが垣間見えます.

花もしっかり自己主張していますが,名前は葉の形状から.葉を観察して楽しむ古来からの習慣が,ここにも生かされている,ということでしょうか.

 

檜扇

「細長いヒノキの薄板をとじ重ねて作った扇.衣冠(最高の礼装である束帯の略装の一形式 ブルタニカ ,または直衣(なほし 平服のこと 直衣の意味 - Weblio古語辞典のとき,笏(しゃく)にかえてもつもの.---男子は白木のまま,--- 女子は美しく色彩---」日本国語大辞典

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鈴木法衣店WEB / 檜扇 並品 文化財 - 彩絵檜扇 - 広島県ホームページ 檜扇 総本金箔 松竹梅 | 扇や 半げしょう 歌舞伎の扇 色彩の檜扇 | 歌舞伎美人 商品紹介 « 大西京扇堂

白木でも,端正で美しい.彩色されたものは豪華.このような扇にちなんで,植物の名前を付けたくなるのもよくわかります.

 

ヒオウギ以外にも,「ヒオウギ」の名前をもっている花たちが!

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ヒメヒオギズイセン(姫檜扇水仙:モントブレチア) 一花一葉/ウェブリブログ ヒメヒオウギの育て方 ヒオウギアヤメ - Wikipedia キバナヒオウギ |岩崎園芸ネットストア

 

ヒオウギ

「従来はヒオウギ属(Belamcanda)に属するとされ、B. chinensisの学名を与えられていたが、2005年になって分子生物学によるDNA解析の結果からアヤメ属に編入された

ヒオウギ - Wikipedia

現在は,

単子葉類 monocots,キジカクシ目 Asparagales,アヤメ科 Iridaceae,アヤメ属 Iris,ヒオウギ I. domestica,

現在,園芸用として出回っているものは,変種のダルマヒオウギだそうで,たくさんの交配種が育成されているとのこと.ヒオウギとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

上の図のキバナヒオウギもおそらく交配種と思われます.

そして,ヒオウギのもう一つの特徴は,黒いタネ.北アメリカで野生化したものは「ブラックベリー・リリー」と呼ばれているそうです.ヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信

改めてお借りした写真を掲載します.

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ヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信 ヒオウギとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

サカタのタネの小杉波留夫(こすぎはるお)さんは次のように書いていますヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信

「黒の枕詞として『ぬばたま』を知っていても,植物のタネとしての『ぬばたま』をご存じない方は多いのかも知れません.真っ黒で艶々したこのタネを見た昔の人々は,この様子から夜の闇や美しい女性の黒髪を連想したのでした」

万葉集に歌われているこの植物を考えると,昔は日本でもdomestica(家庭)で身近に生えていたのだと思います.ヒオウギの自生環境である,日当たりのよい草原や丘は人々の住まいとなり,今ではヒオウギの自生を身近に見ることは難しくなりました」

ヒオウギの学名は I. domestica,

 

山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」によると

ぬばたまは,ヒオウギの黒光りした種子のことで,その色から,闇,夜,黒,夢などの枕詞として用いられています.

ヒオウギは本州以西の海岸や山地の草地に自生する多年草で,夏に暗紅色の斑点のある黄赤色の花をつけ,緑色の楕円形の実がなりますが,これが晩秋から冬にかけて熟して乾くと裂開して,球形の光沢のある黒い種子が目立ちます.これをぬばたま,うばたまと呼びます.ヒオウギは檜扇で,広い扁平な葉が互生しているのを扇にみたてたものです.

 

ぬばたま / 万葉集

ぬばたまの,よのふけゆれば,ひさきおふる,きよきかわらに,ちどりしばなく

ぬばたまの,夜の更けゆれば,久木生ふる,清き川原に,千鳥しば鳴く  山部赤人 (巻六・九二五)

 

斎藤茂吉 万葉秀歌

赤人作で前歌:み吉野の、象山(きさやま)の際(ま)の、木末(こぬれ)には、ここだも騒く、鳥の声かも,と同時の作である.「久木」は即ち楸樹(しゅうじゅ:ひさぎ)で赤目柏(あかめがしわ)である.夏,黄緑の花が咲く.一首の意は,夜が更けわたると楸樹(ひさぎ)のたちしげっている,景色よい芳野川原文ママの河原に千鳥が頻りに(しきりに)鳴いている,というのである.

この歌は夜景で,千鳥の鳴き声がその中心をなしているが,今度の行幸に際して見聞した,芳野のいろいろの事が年中にあるので,それが一首の要素にもなっている.「久木生ふる清き河原に」の句も,現にその光景を見ているのでなくともよく,写象として浮かんだものだろう.或いは月明の河原とも解しうる.それは「清き」の字で補充したのであるが,月の事がなければやはりこの「清き」は河原一帯の佳景という意味にとる方がいいようである.しかし,この歌は,そういう詮議(せんぎ)を必要としないほど統一せられていて,読者はさほど解釈上思い悩むことが無くて済んでいるのは,視覚も聴覚も融合した,一つの感じで無理なく綜合(そうごう)せられているからである.あるいは,深夜の千鳥の声だけでは物足りないかもしれない.「久木生ふる清き河原」という,視覚上の要素がかえって必要なのかもしれない.その辺りの解明がよく私には出来ないけれども,全体として,感銘の新鮮な歌で,供奉(ぐぶ:行幸などの行列に供すること 大辞林歌人の歌として,人麻呂の「見れど飽かぬ吉野の河の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む」(巻一・三七)とも比較出来るし,また,笠金村(かさのかなむら)とも同行したのだから,金村の「万代(よろづよに)見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮どころ」(巻六・九二一),「皆人の寿(いのち)も吾もみ吉野の滝の床磐(とこは)の常ならぬかも」(同・九二二)の二首とも比較することが出来る.比較してみると,赤人の歌の方が具体的で,落ち着いて写生している.なお,声調のうち,第三句の「久木生ふる」という伸びた句と,結句の「しば鳴く」と端的に止めたのを注意していいだろう.