先日出かけた国立博物館特別展「毒」.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2023/02/17/235453
独自に勉強したことをつけ加えながら,内容を少しずつ紹介しています.主催者も「シェアしよう」とすすめていることもあり.
(大阪展がもうすぐ始まります.実際にご覧になることをお薦めします.実物の力は偉大です)
今日は「毒の博物館」3 動物の毒のいろいろ
④フグの毒,毒鳥ズグロモリモズ
フグ
特別展「毒」では,フグについては別立ての展示がありました.
フグは,日本人が大好きな魚.特別な調理を施さないかぎり食べてはいけない毒魚であることは,ご存じの通り.
美味とされるトラフグ,ヒガンフグ.どちらも有毒.
毒がないとされるフグもいて,その代表がシロサバフグ.
しかし---
このシロサバフグは,南アジアに棲息する「毒をもつ」モトサバフグと同種であることが最近明らかになったとのこと(特別展「図録」).毒をもったり持たなかったりするということ.トラフグでも,もっている毒の量は,個体によってかなり違うそうです.
フグの種類による毒の有無について文献からお借りした表を掲載しておきます.下表の×の部位を食べることができる(もちろん専門家による調理後)と考えて良いと思います
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2018_07/001.pdf
ふぐ毒(テトロドトキシン)は,「ナトリウムチャネル」の働きを阻害してNaが入らないようにさせます.フグ自身も「ナトリウムチャネル」は持っていますが,ふぐ毒が結合しにくい!
どうやってこのような「ナトリウムチャネル」を手に入れたのでしょうか.進化の不思議ですね.
なお,昨日取り上げたヤドクガエルの毒は真逆に作用して,毒性を発揮します.
しかし,このような猛毒をフグはどのようにして蓄積しているのでしょうか?
なんと,フグは,テトロドトキシンを持つ餌を嗅ぎ分けて,積極的に食べているとのこと.驚きです.
なお,
テトロドトキシンは,初めはバクテリア(海洋細菌のビブリオ属やシュードモナス属の複数の細菌種)によって産生されることが分かっていました.
https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?テトロドトキシン
しかし,フグは,このバクテリアから直接テトロドトキシンを得ているわけではなく,例えばクサフグはテトロドトキシンをもったヒラムシを餌としたり,他のフグの卵を食べて,自身の「ふぐ毒」を蓄積しているとのことが,最近明らかになったそうです.
明らかにしたのは,もちろん日本人の研究者です.
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2018_07/001.pdf
伝説の毒鳥「鴆(ちん)」? ズグロモリモズ
1992年,パプアニューギニア産の鳥ズグロモリモズが,羽や皮膚にバトラコトキシン類の毒をもつことが見いだされました.この毒は,餌とするジョウカイモドキ科の昆虫に由来する神経毒です.
ところで,中国の歴史書には「鴆」という羽に毒をもった鳥が記載されており,長く空想上の生物と考えられてきました.この鳥が鴆なのか,興味が持たれます.
毒をもつ鳥がいるなんて,驚きです.しかもヤドクガエルと同類の成分を持っている!
中国の「鴆毒」は聞いたことがありましたが,パネルの記述にもあったように,この歴史書にある毒の記述が,俄然,信憑性をもってきたことになります.
私は,この鳥の発見の話を全く知らなかったので,展示を見てただ驚くだけでしたが,この鳥の発見時には,世界が驚いたようです.サイエンス誌の表紙も飾ったとのこと.
真柳誠「鴆鳥-実在から伝説へ」(朝日新聞社)の記事が,ネット上に公開されています.ズグロモリモズ(Pitohui dichrous)と鴆について,かなり詳しい記載があります.