ツタ/蔦もみじを詠った短歌  カエデと並んで,古来から紅葉の美しさが詠われてきた植物.蔦とよく間違われるのがアイビー(セイヨウキヅタ)ですが,こちらは紅葉しません.  思はずによしある賤のすみかかな蔦の紅葉を軒に這はせて 西行  秋こそあれ人は尋ねぬ松の戸を幾重もとぢよ蔦の紅葉ば 式子内親王  とゞ松の幹の根方に這ふ蔦のもみぢ葉紅し一葉一葉に 宇都野研  ひしめきて欅の幹を巻きのぼる散り際の蔦紅に透ける 山崎孝子

歌人たちは,古来より,カエデやイチョウ以外の紅葉/黃葉も歌に詠んできました.そのような歌を取り上げています.

昨日の「柞もみじ」に続き,今日は「蔦もみじ」.

 

ツタ(蔦)は,カエデと並んで,古来から紅葉の美しさが詠われてきた植物.

唱歌・紅葉(1911年,高野辰之作詞、岡野貞一作曲)でも,楓と並べられています.

 

秋の夕日に 照る山紅葉もみじ 濃いも薄いも 数ある中に

松をいろどる 楓や蔦は 山のふもとの 裾模様

 

 

蔦は,楓より早めに紅葉して,早く葉を落とすように思います.

一週間前には,公園の林や,ご近所の車庫の壁の蔦がとてもきれいに色づいていましたが----

 

今日見ると,車庫の壁の蔦は全て葉を落としていました.

 

蔦は,コンクリート壁に這わせて紅葉を楽しむことができますが,蔦とよく間違われるのが---

アイビー(セイヨウキヅタ Hedera helix).

セリ目 Apiales,ウコギ科 Araliaceae, キヅタ属 Hederaの植物で,英米で単にIvyといえばこの種がイメージされ(Hedera属植物全体をIvyとも),他種と特に区別する必要があるときには,Common Ivyと呼ばれます.

そして,この種は紅葉しません.

 

一方の---

ツタ(Parthenocissus tricuspidata).

ブドウ目 Vitales,ブドウ科 Vitaceae,ツタ属 Parthenocissusの植物で,英米では,Boston ivy, grape ivy, Japanese ivy, Japanese creeperなどと呼ばれます.

日本,韓国,中国に自生し,紅葉が美しい.

 

 

「欧米の建物の壁に這うのはHederaで日本の森に自生するのはツタ」と思いがちですが---

実は西洋の建物でも日本のツタや同属のVirginia creeper(Parthenocissus quinquefolia)を這わせていて,紅葉をしむことができるそうです.「本物のIvyではない」と物議を醸したこともあるようですが.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/10/11/013440

 

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:University_of_Chicago_at_Fall.jpg

https://en.wikipedia.org/wiki/Parthenocissus_tricuspidata

 

なお,

日本の大学のツタとしては立教大学などがよく知られているようです.

ツタ 紅葉 大学

一方,かなり以前にヒットして,今でも歌い継がれている「学生時代」(平岡精二 作詞・作曲)にうたわれている「ツタの絡まるチャペル」のツタが日本のツタか,セイヨウキヅタかははっきり分かっていない?

うまく調べられなくてはっきりしませんが,イメージされた青山学院のチャペルが保存されていない,もしくは,ツタを這わせた状態では保存されていない?(古い写真は紅葉しているようには見えませんでした)

 

 

 

蔦もみじを詠った短歌

(古今短歌和歌集 鳥居正博 教育社)

 

思はずによしある賤のすみかかな蔦の紅葉を軒に這はせて  西行 山家集

 

 

住の江にかかれる蔦の紅葉ばは浪も幾しほよりて染むらん  藤原俊成 文治六年五社百首

 

 

秋こそあれ人は尋ねぬ松の戸を幾重もとぢよ蔦の紅葉ば  式子内親王 新勅撰集

 

 

言の葉は蔦の紅葉に書きつけて都に送れ宇都の山風  藤原家隆 壬二集・玉吟集

 

 

つたかへで茂る山路のむら時雨旅ゆく袖に色うつりけり  藤原定家 夫木抄

 

 

秋風の嵯峨野をあゆむ一人なり野宮のあとの濃き蔦紅葉  佐佐木信綱 山と水と

 

 

きり岸のせばまるところ蔦もみぢ岩垣そめてあかるき谷あひ  香取秀真 天之真榊

 

 

とゞ松の幹の根方に這ふ蔦のもみぢ葉紅し一葉一葉に  宇都野研 木群

 

 

葉のおちし若木の枝にからみたる蔦の紅葉を近づいて見る  長谷川銀作 木原

 

 

見付跡の石垣にからむ蔦の葉のもみぢせる色こきとうすきと  小野昌繁 冬花

 

 

ひしめきて欅の幹を巻きのぼる散り際の蔦紅に透ける  山崎孝子 満天星