青果売り場の果物の主役がリンゴになってきています.
日本で最も生産量の多いフジ(国光とデリシャスの交配種 晩生種で10月下旬から11月上旬収穫)が,店頭に並ぶのはまだ先ですが,私がよく買い物をするお店では,青森早生フジ,そして,長野秋映(千秋とつがるの交配種)・青森とき(王林とフジの交配種)といった中生種が並んでいました.
今日は,リンゴを詠んだ短歌を,古今短歌和歌集(鳥居正博 教育社)より紹介します.
リンゴは楽曲の歌詞として最も置く取り上げられる果物の一つですが(りんご6 ネット上から“果物が歌われている楽曲”106曲を拾い上げランキングしてみるとyachikusakusaki's blog),短歌に詠われることも多い果物.
様々な感情を託しやすい果物と言うことでしょうか.
なお,北原白秋の傑作とされる短歌については,今年3月放映・NHK「究極の短歌 50選」の解説を載録しておきます.
リンゴかみぬ十月の朝庭の木の風鳴るを聞き柱によりて 前田夕暮 収穫
君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋 桐の花
顔ぢゅうを口となしつつ雙手(もろて)して赤き林檎を噛めば悲しき 若山牧水 路上
おつるべくして落つるりんごは地に落ちよみなぎる秋のひかり熱もつ 五島美代子 母の歌集
焼林檎の酸き香ただよふ地下食堂授乳を了へてやさしき母ら 葛原妙子 橙黄
せめて深き眠りを得たし今宵ひとり食べ余したる林檎が匂ふ 大西民子 まぼろしの椅子
わが歯形のこる林檎を投げすてて壊すべきものさがしにゆかん 三井ゆき 三井ゆき歌集
NHK究極の短歌 50選解説
《発表!》究極の短歌 50選 - 完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選 - NHK
君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋
愛する人と一夜を過ごした後,その人を帰さなければならない,雪の中をさくさくと歩いて行く.その時,ふいに,“雪よ林檎の香のごとくふれ” っていうのに,胸を打ち抜かれた記憶があつて,『なんて素敵なことを言うんだ,こいつは』って.
“さくさく”って,雪の舗石を踏む音であると同時に,林檎をかじる音にも聞こえるし,かじった林檎の白さは,雪の白さにまた帰って行くというような.
普通,短歌って,目で見た視覚が強くて,耳とか鼻がその次に強いんですけど,この歌は,五感の全てが連動している希な歌という感じがしますね.
ヤマザキマリ 官能的ですね.これ.
風間俊介 凄い素敵.
ヤマザキマリ 林檎っていうものの甘さと香り高さっていうものが,去って行く女性に象徴されるものかなって言う気もするし,あと,西洋的な見方ですけどね,林檎つてアダムとイブの禁断の果実だから,そういう官能性が潜んでいるのかなっていう気も,ちょっとしますね.
栗木京子
ヤマザキさんのご意見が鋭いと思ったんですけど,この恋の相手っていうのが,隣家の人妻なんです.
やっぱりそう.
栗木京子
白秋は独身でしたけど.だから,禁忌の恋.禁断の果実を食べてしまったという.