秋の花とされるツユクサ(露草)ですが---
わが家では早くも咲いていること,そして,昨日の流れから,今日はツユクサを詠んだ短歌について,簡単にまとめてみます.
といっても,例によって,古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)の抜粋になります.
万葉集では,つきくさ/月草として登場します.良い名前!と思ってしまいますが,「月の草」の意味はありません.
“この花の汁を染料に用い,摺染め(草木の花,または葉をそのまま布面に摺りつけて、自然のままの文様を染める)にしてよくつくので「着きくさ」,また,臼でついてその汁を用いたので「搗き草」の意とも言われています.”
“つきくさで染めた衣の色が変わりやすいことから多くは「移ろう」という意味で用いられています.これは,心変わりしやすいことにかけています.また,早朝に咲いてしぼんでしまうことから,はかなく消える短い命にもなぞらえられます.” 山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」
なお,つきくさ/つゆくさの漢名が鴨頭草で,日本ではつきくさ(ときにはつゆくさ)の漢字として用いられます.
月草に衣は摺らむ朝露に濡れて後には移ろひぬとも 作者未詳 (万葉集・七・一三五一)
朝(あした)咲き夕(ゆうべ)は消(け)ぬる鴨頭草(つきくさ)の消(け)ぬべき恋もわらはするかも 作者未詳 (万葉集・一〇・二二九一)
月草が露草と呼ばれるようになつたのは,かなり早く,平安時代.
宇津保(970−999頃),枕草子(995−1004頃),堤中納言物語(成立年代は不明。ほぼ平安時代後期から鎌倉時代中期にかけて制作、結集されたといわれる)などに露草が登場とのこと.
ただし,月草,露草どちらも用いられていて,近世はもとより近代においても「月草/鴨頭草」と詠まれることが圧倒的に多かったとのこと.
現代短歌になると「つゆくさ/露草」が多くなります.
つきくさ/つゆくさは詩にもうたわれ,室生犀星は「月草」,三好達治は「露草」としています.
▽かれんなる月草の藍をうち分け つめたきものをふりそそぐ われは青草に座りて かなたに白き君を見る 室生犀星 叙情小曲集(一九一八)
▽かへる日もなきいにしへを こはつゆ艸の花のいろ はるかなるものみな青し 海の青はた空の青 三好達治 花筐(がたみ)(一九四四)
たのむ人露草ごとに見ゆめれば消えかへりつつ嘆かるるかな
月草のあはれ仮りなる命もてぬれてののちの人に恋ひつつ 藤原為家 (新撰六帖・六・二〇五七)
いかばかりあだに散るらん秋風のはげしき野ベの露くさの花 源俊頼 (夫木抄・秋二・四五五三)
をさなきを二人つれ立ち月草の磯辺をくれば雲夕焼けす 伊藤左千夫 (左千夫歌集)
露草の茎にはうすき紅(あけ)みえて秋に近づく庭の草むら 土屋文明 (ふゆくさ)
今朝ほどはわが道の辺に霧濡れてはなださびしきつゆくさの花 高橋幸子 (うすむらさき)