オミクロンの感染拡大が急で,ブースター接種が急がれています.mRNAワクチンは,変異株に対する抗体も誘導する力があって,ブースターはその力を更に強めているようにみえます.ネイチャー誌は,ワクチン接種後のいわゆるブレークスルー感染によってできる抗体は,オミクロンに対して予防効果が高く,その力はワクチン接種と感染の間隔が長い方が強くなるという日本の研究者による研究結果を紹介しています.抗体産生の新しい知見を示すと同時に,ブースターでも同じ事が起こっている可能性が考えられます.

オミクロン株による感染拡大第6波が確実になり,三回目のワクチン接種(ブースター接種)が待たれています.

オミクロン株に対する発症予防効果は,従来株に対するワクチン二回接種では,接種後20週目には,ほぼゼロになってしまいます.しかし,ブースター接種により効果が回復し,しかも当初の2回接種時以上の効果が得られることがわかっています.

f:id:yachikusakusaki:20220111234452j:plain

オミクロン株 ワクチン接種の効果は?発症予防20週で10%程に | NHK

オミクロン株は,重症化する割合が今までの変異株に比べ小さい可能性が大といわれています.

しかし,欧米では,今までにない感染拡大により,病床の逼迫が伝えられ,日本でも沖縄はかなり厳しくなりつつあります.従来通りの感染対策のみでは状況を好転させることは難しく,ブースター接種による感染抑制が必須な状況と考えられています.

 

ブースター接種は,重症化も強力に阻止する効果があり,オミクロンに対しても当てはまります.

f:id:yachikusakusaki:20220111234536j:plain

オミクロン株 ワクチン接種の効果は?発症予防20週で10%程に | NHK

ロイターは次のように報告しています.

jp.reuters.com[ロンドン 7日 ロイター] - 英保健当局者は7日、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)が引き続き、高齢者に対するオミクロン変異株感染による重症化予防で十分な効果を発揮しているとし、4回目接種は現時点で必要ないという認識を示した。

当局のデータによると、65歳以上の人の場合、3回目接種を受けてから約3カ月後も入院予防効果は90%程度にとどまっている。2回接種のみでは、重症化予防の効果は接種から3カ月後で約70%、6カ月後では50%に低下するという。

 

しかし,不思議です.

従来株に対して作られたワクチン.何回打っても同じような抗体が作られてくるのならあまり効果がないのではと思ってしまいます.

実際,従来株に対する抗体で作られた重症化予防薬(抗体カクテル)ロナプリーブ(中外製薬/ロシュ)は,オミクロンにほとんど効果がないとされています.

どうやら,mRNAワクチンは,ファイザー,モデルナ共に,変異株に対する抗体も誘導する力があって,ブースターはその力を更に強めているようにみえます.

ネイチャー誌は,ワクチン接種後のいわゆるブレークスルー感染によってできる抗体は,オミクロンに対して予防効果が高く,その力はワクチン接種と感染の間隔が長い方が強くなるという日本の研究者による研究結果を紹介しています.

www.nature.com

ウイルスが変異してしまうとワクチンが効かなくなると思ってしまいますが,人の免疫の力もしぶとく食いさがっているという感じですね.免疫記憶細胞は絶えず学習して幅広い力を持った抗体を産生するようになっている(正確には,様々な抗原エピトープに対応した多種の抗体産生細胞を準備している.変異株にも少なくとも一部は従来株と同じ抗原エピトープが存在しているため,効力のある抗体が産生できる)と言うことでしょう.

ブースター接種によっても同じようなことが起こることが期待されますが,研究はまだそこまでは進んでいません.

 

以下,ネイチャーの紹介記事のDeepL翻訳を掲載しておきます.

ネイチャーニュース記事

ニュース

Immunity against Omicron from breakthrough infection could be a matter of timing

2022年01月07日

ブレークスルー感染からのオミクロンに対する免疫は,タイミングの問題かもしれない

実験室での研究では,ワクチン接種から感染までの間隔は,短いよりも長いほうがよいことが示唆されている.

Saima May Sidik

 

オミクロン・ウェーブを乗り切るためにも,タイミングの良さは成功の鍵となります.日本の研究によると,COVID-19ワクチンを接種した後,数カ月後にSARS-CoV-2に感染すると,ワクチン接種と感染の間隔が短い場合に比べて,オミクロン・バリアントに対する予防効果が高いことが示唆されています(1).

 

この結果は,2021年後半にオミクロン以外の感染者が大量に発生した国は,2022年に新種の感染者が発生した場合に有利であることを示唆しています.この研究は,まだ査読が行われていません.

 

多くの国では,ワクチンの接種とさまざまな亜種への感染を組み合わせることで免疫を獲得しています.しかし,日本の市民は,主にmRNAワクチンの接種によって守られています.共同研究者である国立感染症研究所(東京)の感染症研究者,新城雄士氏らは,日本ではほとんどが単一の免疫源であるため,国民がオミクロンに対して特に感受性が高いのかどうかを理解したいと考えていました.これまでのところ,日本ではブレークスルー感染のケースはほとんどありませんが,「オミクロン・バリアントが日本で大量に感染するようになったら,まったく違った状況になるのではないかと心配しています」と新城氏は言います.

 

研究チームは,日本でファイザー・バイオンテック社のCOVID-19ワクチンを2回接種し,その後,アルファ型またはデルタ型に感染した人から抗体を採取しました.これらの抗体が培養細胞をSARS-CoV-2の感染から守る能力を調べたところ,ワクチンを接種してから感染が成立するまでの期間と,その人の抗体が細胞を感染から守る能力(特にオミクロン)に強い相関関係があることがわかりました.

 

シカゴ大学イリノイ州)の免疫学者Jenna Guthmiller氏は,「興味深い研究です」と述べています.彼女は,今回の結果はあくまでも相関関係に過ぎないと注意を促していますが,抗体反応が時間とともに成熟していく様子についての免疫学者の一般的な理解と一致していると付け加えています.

 

Guthmiller氏は,ワクチンを接種すると,自然な感染と同じように,緊急に抗体が産生されると説明しています.ワクチン接種後すぐに感染した場合,これらの抗体はおそらくまだ血液中を循環しており,ウイルスと結合してすぐに排除されるでしょう.

 

しかし,ワクチンを接種してから数ヵ月後に感染した場合,反応する抗体は,病原体の記憶を持った長寿命の細胞によって作られた,新しく改良されたものであることがわかります.体内で再び病原体に遭遇すると,これらの記憶細胞が呼び戻され,抗体を改良する機会を得て,その後の感染に対する防御力が向上します.

 

ブースターとブレイクスルー

グスミラー氏は,ブレークスルー感染ではなく,ワクチンのブースターに焦点を当てた同様のデータを見てみたいと言います.「最初の2回の接種からブースターまでの時間は,交差反応性抗体の数に影響するのでしょうか」と彼女は問いかけます.

 

新城氏らは,その点については研究していませんが,オミクロン波に対抗するためには,やはりブースターが日本にとっての最善策であると考えています.「私たちは,特に弱い立場にある人々に対して,できるだけ早くブースターを投与するように働きかけています.

 

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-00004-x

 

参考文献

1.

Miyamoto, S. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.12.28.21268481 (2022).