第5波の感染拡大により,全国の100を超える高齢者施設でブレークスルー感染によるクラスターが発生し,病院に入院できないまま施設内で死亡する高齢者が相次いでいたことをNHKニュースが報じていました.9月22日「2回の接種後に亡くなった人はことし7月19日以降,都が把握しているだけで50人になりました」 の報を聞いたときよぎったいやな予感が,やはり現実に起きていました.

新型コロナウイルスワクチンは,感染・重症化を防ぐ強い効果を示すことが明らかになっていますが,ゼロにすることはできません.また,感染予防の効果は接種後時間の経緯と共にかなり弱まってきてしまいます.

従って,未接種の方々の間で感染爆発が起こると,ワクチン接種者の一定の割合が感染し(いわゆるブレークスルー感染),そのうちの一定数は重症化してしまいます.

特に80歳以上の方のレークスルー感染による死亡率は,50歳以下の未接種者の死亡率を上回ってしまうことが,アメリカCDCから報告されています.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/10/29/235655

Who Had Covid-19 Vaccine Breakthrough Cases? - The New York Time

 

日本の第5波の感染拡大は,ワクチンの普及と,おそらく「多くの国民によるリスク認識による自粛と緊急事態宣言での接触減」により急速に収束に向かいました.

デルタ株にオリンピック、お盆や連休......それでもなぜ感染者は減った?西浦博さんが4つの仮説を検証(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース

ワクチンじゃない?謎のコロナ急減解く3つの鍵 | 新型コロナ、長期戦の混沌 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

しかし,この第5波の感染拡大により,全国の100を超える高齢者施設でブレークスルー感染によるクラスターが発生し,病院に入院できないまま施設内で死亡する高齢者が相次いでいたことをNHKニュースが報じていました.

 

9月22日のNHK首都圏ニュースで,

「2回の接種後に亡くなった人はことし7月19日以降,都が把握しているだけで50人になりました.

の報を聞いたとき,

病院での治療を受けられなかった可能性を考えてしまいます.高齢のため治療を後回しにされた? 拒否された?」とこのブログに書きました.

yachikusakusaki.hatenablog.com

 

これが,やはり現実に起きていたのですね.

 

10月も終わろうとしています.そして衆院選の真っ只中.8月の出来事.注目を浴びにくい報道ですが,さらに掘りさげ,その責任の所在を明らかにし,今後二度と起きないような対策をしてほしいものです.

しかし,第四波における大阪での医療崩壊の教訓が全く生かされていなかったことが改めて明らかになったわけで,再び同じようなことが起きる可能性の方が高いように思います.

国も地方自治体も,病院の受け入れ体制の充実を言います.しかし,口先だけ.頭にあるのは医療費の削減のみ?

暗いいやな気持ちになります.

 

 

新型コロナ ブレークスルー感染 介護現場のクラスターの実態

NHKWEB 2021年10月30日

www3.nhk.or.jp

新型コロナウイルスの感染が急拡大していた,ことし8月のおよそ1か月に,全国の100を超える高齢者施設でクラスターが発生し,病院に入院できないまま施設内で死亡する高齢者が相次いでいたことがわかりました.

その多くがワクチンを接種した後で感染する「ブレークスルー感染」とみられ,施設は「医療的な措置が十分にできない介護現場で,高齢者の命を守ることは困難だ」として,支援の拡充を訴えています.

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211030/k10013327841000.html



以下要約

 

例1.  関東地方にある特別養護老人ホームにおけるいわゆる「ブレークスルー感染」

60人余りの入所者と50人余りの職員: ほぼ全員が7月上旬には2回のワクチン接種を終了.

ことし7月〜8月  入所者36人と職員7人が新型コロナウイルスに感染する「クラスター」が発生.

 

 7/28  PCR検査を定期的に受けていて,この日全員の陰性確認

 7/29  入所者が軽い発熱

 :前日に全員の陰性確認されていたことから,新型コロナウイルスへの感染を疑うことはなかった.

 8/ 3  入所者は6人発熱.念のためPCR検査⇒いずれも陽性

 8/ 5  入所者28人,職員3人  陽性

 

保健所に入院要請するも,「地域で感染が急拡大していて,病床が空いていない.急変した際に,どうしても延命治療を希望する人以外は入院できない」と回答され,施設内で療養を続けることを余儀なくされた.

 

ほぼ全て職員で対応.

  常勤の医師はいない.医療的な設備もほとんどない中,脱水症状を防ぐための点滴,酸素吸入も必要に.

  県から看護師や薬剤師の感染症対策チーム派遣も常駐なし.

  医師が施設内で処置することは,ほとんどなし.

  ゾーンに分けて,入所者どうしの接触をできるだけ減らした.

  認知症の人もいてマスクの着用や会話を控えることなどの徹底は難しい.

 

感染ルートは特定できず.

保健所は,食堂でマスクを外して食事をしながら会話があったことが,原因の1つになった可能性を指摘.

 

8月半ば  80代の入所者が急変し施設内で死亡.この入所者を含む計5人が死亡.

 

▽“介護施設は医療施設ではなく対応には限界”

 寺田健至施設長「もしワクチンを接種していなかったら,もっと重症になっていたのかもしれないが,介護施設は医療施設ではなく,対応には限界がある.最善を尽くしたが,もし入院できたら助かった人もいたのではないかと考えてしまう.職員の精神的な負担も大きかった」

 

「行政の責任で介護支援体制を」

大山知子理事長「万全の対策をしてきたつもりだが,それでもウイルスの侵入を防げず,感染が起こりうるという前提で準備しないといけないことを痛感した.今回は,医療支援が手薄な中,孤軍奮闘を強いられた.高齢者は急変しやすく原則入院としてほしいし,どうしても入院できない場合は,医師の支援を得られるような対応を行政でも考えてほしい」

 

早坂聡久准教授(東洋大学)「ワクチンによって重症化が少なくなったといっても,高齢者は現実に重症化して,亡くなる人もいる.行政や保健所には,医療機関ではない施設内で療養を継続することは,原則としてやってはいけないことだという認識を持ってほしい.

第5波では病床がひっ迫し,保健所機能が回らなくなる中で,介護施設クラスターが発生した時に現場任せとなり,施設が孤立するケースがあった.第6波に向けて,高齢者が原則入院できるよう病床を確保するとともに,どうしても入院できなかった場合に,医師が施設内に常駐して医療を提供する仕組みや,介護職の応援チームを派遣する仕組みを,行政の責任で整備する必要がある」

 

 

例2 沖縄県豊見城市にある有料老人ホームでの「ブレークスルー感染」クラスター : “感染者が感染者を介護”

施設のほとんどの人が6月までに2回のワクチン接種を終えていた.

 

8月8日に入居者の高齢男性2人に発熱の症状

その後9日間に入居者と職員,合わせて23人の感染が確認された.

 

県内の医療機関の病床はひっ迫していて,はじめのころに発症した入居者4人を除いて入院することができず.

施設内に,感染した14人の入居者と,濃厚接触者7人がとどまらざるを得なくなった.

4人の職員が,昼夜問わず介護

泊まり込みで介護をしていた職員2人が発熱し,感染が判明.

応援の職員見つからなかったため,感染しながら比較的,症状が軽かった2人の職員に施設に戻って介護を続けてもらうという,苦渋の決断.

感染した2人の職員は,施設の3階で防護服は着ずにマスクだけをつけて,感染した高齢者の介護を担当.

感染していない2人の職員が施設の2階で濃厚接触者を担当.

途中から日中の一部の時間だけ看護師が応援に入ったものの,酸素吸入は,介護職員がオンラインを通じて医師からアドバイスを受けながら担当.

こうした対応は,およそ1か月にわたって続き,結局,介護職員の応援が入ることはなかった.

 

8月20日に80代の男性1人が施設で死亡

 

“国には介護職員の派遣体制を早急に構築を”

施設責任者・冨里司さん「職員2人の感染が判明した時は頭が真っ白になりました.しかし,2人が離脱したら事実上対応できなくなり,お年寄りを見捨てることになるので,頭を下げて仕事をしてもらうしかありませんでした.国には介護職員の派遣体制を早急に構築してもらわないと,私たちのような事態に直面する施設が今後もでてきてしまう」

 

沖縄県新型コロナウイルス対策本部医療コーディネーター高山義浩医師「まさに“介護崩壊”と言わざるを得ない象徴的なことが起きていたと思う.本来,感染している人は誰であっても療養するのが原則だが,支援に入れる人が確保できなかったので,働き続けるということになってしまった.

感染している人が働かないといけない状況は良くない.感染者が働き続けたことに問題を矮小化するのではなく,地域でそのような状況が起きてしまったことをどう捉えるのか,再発防止策を考えることが大切だ.

今回のように集団感染が起きた時に介護職が不足するのは,これまで何度も経験してきている.地域流行が起きている時には,県域を越えた支援が必要になることも踏まえて,介護職の派遣システムを真剣に考えるべきだ」

 

沖縄県「感染者が働き続けていたということは,県としても把握していた.法律的には見過ごすことはできないが,医療が急激にひっ迫した状況で介護人材の派遣もできなかったので,そうせざるを得なかったと理解している.次の流行が来た時も第5波同様,感染者全員が入院するのは難しいことが予想され,介護人材をどう確保していくか,現在,計画を立てている」