オリンピックの開催予定日が近づく中,管首相,小池都知事は「安心安全な五輪」を強調し続けています.
小池都知事「安全安心な五輪にすべく連携」、菅首相との会談で | ロイター
しかし,何をもって「安心安全」と言えるのでしょうか?
最近でこそ,「安心」と「安全」がセットとなっています.しかし,以前は「安全」だけだったと思います.なぜ,「安心・安全」というようになったのでしょうか?
はるか昔になりますが,リスクコミュニケーションを少しだけ勉強したことがあります.
以下,その頃を思い出して安心安全なオリンピックについて考えてみます.改めて勉強し直したわけではないので,かなりいい加減な内容になってしまう恐れ大.
専門家が「安全」を評価し,行政が国民に「安心」を届ける.
「安全」は,対象となる事柄の専門家によって判定されます.
例えば,今最大の関心事の一つの新型コロナウイルスワクチンの安全性は,ワクチンに精通した「専門家」が治験段階で有効性・安全性を評価します.承認後,実際に使用されていく中でも,有効性・安全性の評価が,やはり「専門家」によって続けられています.
しかし,一般の生活者にとっては,専門家が「安全」と評価しても不安は消えません.ワクチンの場合には特にその不安は大きくなります.健康なのに「訳のわからない物」を体に入れるのですから.一般生活者の「安心」は,専門家のいう「安全」とは別物になります.
一方,社会的に見た時にはできるだけ多くの方に接種してもらいたいというのが「行政」の立場.一般生活者である国民の大多数に「安心」してもらわなくてはなりません.専門家のいう「安全」をわかりやすく発信し,メディアの助けも借りて,国民に「安心」を届ける行政の力が必要になります.
東京オリンピックの「安心安全」は,今のところ空念仏.
新型コロナウイルスワクチンについて,その有効性・安全性にについては,厚生労働省のウェブサイト等で確認することができます.
新型コロナワクチンの有効性・安全性についてについて|厚生労働省
「安全」については,専門家が集めた情報を整理して掲載されています.その内容はかなりわかりやすいので,これを見た方は「安心」も同時に得られるでしょう.それでも,ネット上にはワクチンの危険性を訴える投稿がかなり見られるようですし,大手メディアからも,安全性への根拠のない危惧を伝える記事がちょくちょく配信されています.
行政は国民に安心を届ける努力を続ける必要があります.ウェブサイト以外に行政官・政治家が,自らの言葉で発信することも必要になってくるでしょう.
一方の東京オリンピック.
安全安心について,オリンピック組織委員会がウェブサイトでいわゆるプレイブックなどを公表しています.
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/news/road-to-t2020
少しずつ改良され,選手団が感染したり,感染を広める危険性についてはかなり対策がとられているようにみえます.しかし,これで「安心安全なオリンピック」と考える国民は少ないように思います.
国内でほとんど使用実績のない接触確認アプリCOCOAの義務化?メディア関係者の違反ペナルティとして急遽書き加えられたとみられる「GPS等の利用」に到っては実効性も大いに疑わしい---
さらに,最も懸念されるオリンピック開催に伴う国内人流の増加(*)については,一切触れられていません.
上記のウェブサイトの記載事項は,様々な指摘を受けてつぎはぎした選手やオリンピック関係者中心の安全対策集.最終的には選手関係者の安全性の確保はワクチン頼みになるでしょう.
(しかし,ワクチンを接種し終わった選手関係者,さらにはメディア関係者がこのように細かなプレイブックに従うとは思えません)
ボランティアにもワクチン接種が検討されているとの報道されましたが----
ボランティア7万人全員のワクチン接種を検討 丸川五輪相(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
五輪ボランティアへのワクチン接種、5万人分めど立たず :朝日新聞デジタル
そして,何より大事な日本国民全体の「安全」についての配慮はないに等しい.
また「安全」を担保するために必須な専門家の評価を受けているとは思えません.策定した委員会には専門家が入ってはいるとのことですが,一委員としての参加と専門家によるリスク評価とは別物です.
国民の「安全」についての配慮がなく,専門家による評価も受けていない「安心安全のオリンピックに向けての対策」を見て,「安心」することはできません.
実際半数以上の日本国民は,オリンピック開催に懐疑的(**).「安心な」オリンピックとはほど遠い現状
また,「安全」を担保する専門家の評価は,まだ行われていません.
現在のところ,東京オリンピックの「安心安全」は,空念仏.
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東京五輪開催で感染者数どう変化? 東大グループ試算 | NHK政治マガジン
東京五輪の開催による新型コロナウイルスの感染拡大への影響について東京大学の経済学者のグループがシミュレーションを行い,大会終了後に都内の感染者を増やさないためには大会期間中に人出が増えるのを極力,抑える必要があるとする結果をまとめました.
国内のワクチンの接種は1日に60万本のペースで進むと仮定しました.
また,大会期間中,海外から選手や関係者など10万5000人が入国し,このうち半数がワクチンの接種を終えていると想定しました.
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多くの世論調査では中止または再延期が6割を超えています.
東京オリンピック「中止」「再延期」が6割超 毎日新聞世論調査 | 毎日新聞
東京五輪「中止すべきだ」60%…都民意識調査、開催都市で反対の声根強く:東京新聞 TOKYO Web
一方,直近の読売新聞の世論調査が50%賛成となったことが報じられています. 東京五輪「開催」50%、「中止」48%…読売世論調査 : 世論調査 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン
ただし,この調査では再延期の選択肢はなく,また,開催50%のうち,無観客開催が過半数を超えています.