ニンフって何者?3
ギリシャローマ神話を特徴付けるキャラクターともなっているニンフ(ニムフ,ニュンペー).
ラテン文学史上の最高傑作の一つ(平凡社 世界百科事典)とも言われるオウィディウス 転身物語.
田中秀央 前田敬作訳 人文書院版
ここに書かれた内容から,ニンフの役割を確認してみようと思います.
転身物語で初めてニンフが登場するのは,"四 狼に変身したリュカオン”.
ユピテル(ゼウス)の言葉中.
しかし,巨人族の後に生命を吹き込まれた人間も神々をないがしろにし,残虐な殺戮を好み,凶暴を極めました.
ユピテル(ゼウス)は,地上に大洪水を起こし人類を根こそぎにすることを決意し,天上の神々に伝え,続けて呼びかけます.
「わしには,半神たちや田野の神々,すなわち妖精(ニュンペ)たちやファウヌス(田野や森に住むローマ神話の半神,ギリシャ神話パンと同一視される)たちやサテュルス(酒神バックス/ディオニューソスの従者)たち,さらに山々に住むシルウァヌス(ローマの荒れ地と森の神)たちがいる.
われわれは,かれらが天上に住む名誉に値すると考えない以上は,かれらに与えた地上をせめて安全な住居(すまい)にしてやろうではないか」
ニンフは天上には住むに値しない半神もしくは田野の神ということになりますね.
ニンフは:
"海,河,泉,森,樹木,山などに住む精,またはそれの擬人化.若くて美しい女性とされ,女神と呼ばれることもあるが,不死ではなく,非常に長命であると考えられた存在.”
その後,この作品中にニンフ(ニムフ,ニュンペー)はたびたび登場します.
索引から数えてみると,登場回数は8回.
それほど多くはない---
しかし,必ずしもニンフという記述がない場合があることが分かりました.
例えば,河や泉のニンフであるナーイアス(ナイアス,ナイス,ナイアド)は,なんと17回(この内ニンフという言葉が同時に記された場面は3カ所).
木や森のニンフ,ドリュアスは8回.----
全編にわたってニンフが登場していました.
転身物語の世界は,オリュンポスの神々を中心に描かれていますが,この神話の雰囲気は,神々が「天上に住む名誉に値すると考えない」存在,ニンフらによって形づくられているのではないでしょうか.
そして,このようなニンフらの役割は,この転身物語に限らず,ギリシャ・ローマ神話全てについて当てはまる?
(余談ですが,
日本に住む私たちは,キリスト教の世界観と違って,自然界の全てに霊が宿ると信じてきました.現代でこそ,その信仰は非常に薄まっていますが.
欧米の人々の行動を一神教の世界観に基づくとする解説をしばしば見かけますが,欧米の人々はまたギリシャ・ローマの伝統も引き継いでいるといわれ,全てに精霊が宿るとする自然観もしっかり理解していると考えておいた方が良いでしょう)
前回掲載したように,ニンフには様々なタイプがあり,それぞれにナーイアス,ドリュアス等の名前が付けられています.
それぞれのタイプに,どのようなニンフがいて,どのようなストーリーが知られているのかをもう少し詳しく知りたいと思います.
そこで手始めに次回,ナーイアス(ナイアス,ナイアドNaiad)をとりあげます.
前回も記した通り,シュリンクス,ダプネー,イーオー等,よく知られているニンフがこのタイプになりますが,ストーリーの主人公になっているナーイアスが他にもいるようです.