先日,おんめ様(大巧寺)を訪れたとき,ザクロ(石榴)の実に出会いました.
鎌倉では,大巧寺以外にも,例えば,宝戒寺,そして大船フラワーセンターにもザクロが植えられていますが,花を楽しむばかりで実に出会うことはありませんでした.ちょっぴりうれしさも感じました.
熟すまでまだ時間がかかりそうですが,それまでなっていてくれるといいのですが.
花も,そして実も,世界で広く愛されてきたザクロ.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ザクロ
日本への渡来はかなり古く,平安期以前とされています(改訂新版日本百科事典).
ただし,日本では食用としてよりも鑑賞用の「花ザクロ」が主に植えられています.(改訂新版世界百科事典)
後述するように鬼子母神にまつわる説話が広まっていたせいで,実は嫌われていて花を愛でる風習が根付いてきたのかも知れません.
(ただし,ザクロの皮には薬効があるとされ,
https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003492.php
食べるというより皮を用いるためにザクロの実を育てた歴史はあるでしょう.また花を愛でればその後に実はなる.実際に食べないでいることはなかつたでしよう)
ご存じのように,ザクロの実は他の果物とはかなり異なった形態をしています.
ウィキペディアの描写では:
https://ja.wikipedia.org/wiki/ザクロ
「柘榴の熟した果実の色はさまざまで,桃色がかった黄色から光沢のあるバラ色や葡萄色,茶色まであります.
果皮は厚く,秋に熟すと赤く硬い外皮が不規則に裂け,スポンジ状の薄膜の中に赤く透明な多汁性の果肉(仮種皮)の粒が数百個現れます.
果肉1粒ずつの中心に種子が存在します」
このような特異な色,形,そして種の多さからでしょう.ザクロの実は,広範囲な宗教でシンボルとして扱われてきました.
仏教
ザクロは,「吉祥果」とも呼ばれていますが,これは,仏教用語で,吉祥天の母である鬼子母神が持つ果実の意味(日本国語大辞典).
https://mainichigahakken.net/life/article/post-2268.php
日本国語大辞典によれば:
鬼子母神は,「誓願を立て,産生と保育の神(ときには盗難除の守護).律宗,特に日蓮宗が信仰」
なお,鬼子母神が持つ吉祥果は,本来,「めでたい果物」ですが,「釈迦が訶梨帝母(かりていも)にザクロを与え,人の子のかわりにその実を食べよと戒めた」という仏教説話が日本で広まり,果実は長い間日本では好まれなかったとのこと.(ニッポニカ)
ギリシャ神話
ザクロは,ギリシャ神話にも登場し,ハーデース(ハデス,プルートーン)により冥府に略奪されたペルセポネー(ペルセポネ,プロセルピナ)は,解放される際にザクロの実を食べてしまったため,一年の内1/3(一説では1/2)は,冥府の女王として冥府に暮らさねばならなくなります.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/09/005253
Proserpine (Rossetti) - Wikipedia
絵画「プロセルピナ(ロセッティ画)」の持つザクロは,冥府の果物を意味しています.
山下正男氏は「冥府つまり大地が穀物の種子をはぐくみ豊かな収穫をもたらすという事実と,ザクロに種子が多いという事実との観念連合に基づくものだとう」と推定しています(改訂新版世界大百科事典).
一方,ザクロは最高位の女神で婚姻の神としてのヘーラー(ヘラ,ヘレ)を象徴する果物とされています.
「赤い種が,女性の懐妊する力を象徴している」というのが広く認められている理由ですが,「ザクロの実は一年の農業の終了のシンボル」でもあるとのこと.ヘーラーはギリシャがこの地域を統一する前の偉大な神で時・農業も司っていたのかもしれません.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/03/05/015601 https://www.google.com/search?client=Pomegranate fruit symbolising Hera in Greek mythology
ザクロはキリスト教では復活と永遠の生命の象徴として,聖母と幼子を描いた信心深い彫像や絵画にしばしば登場します.
ボッティチェッリの「ザクロと聖母」(Madonna of the Pomegranate,Madonna della Melagrana)は,特によく知られていますが,
https://ja.wikipedia.org/wiki/ザクロの聖母
https://en.wikipedia.org/wiki/Madonna_of_the_Pomegranate
この絵におけるザクロの意味については様々な解釈があります:
「心臓の解剖学的構造の正確な表現であるとともに母親としてのマリアの役割を象徴(https://en.wikipedia.org/wiki/Madonna_of_the_Pomegranate)」
「キリストの受難の象徴=その赤い種子は人類の救済のために流されたイエス・キリストの血を象徴(https://www.uffizi.it/en/artworks/pomegrante_madonna_botticelli)」等々
柘榴(ざくろ),柘榴の実を詠んだ短歌
(古今短歌歳時記)
葉のかひに濡れてあらはるゝ柘榴の実つゆしとしとと霽(は)るる霧かも 太田水穂 雲蝶
あまのはら冷ゆらむときにおのづから柘榴は割れてそのくれなゐよ 斎藤茂吉 霜
机なる柘榴ゆびさし見飽きなば賜(た)べよ喰べむと吾子の言ふなる 若山牧水 黒松
いと酢き赤き柘榴をひきちぎり日の光(て)る海に投げつけにけり 北原白秋 桐の花
鈴なりの柘榴いろづき埃風のなかに揺るるよその赤き実が 大橋松平 門川
前歯にて柘榴の赤き実を嚙めり すゆしすゆしとひとり嘆きて 君島夜詩 暗い川
冬山に知る劇(はげ)しさよ没(い)らむ日が柘榴が爆ぜしあかさに歪む 生方たつゑ 北を指す
緋のざくろ真盛りとなりし一夜の闇こころ動悸うち思ふことあり 葛原妙子 橙黄
ベットよりわれは見てをり机上なる柘榴は割れて裡(うち)らかがやく 宮柊二 恒河沙
葉がくれに眠りたらひしよしならむ今日実柘榴に亀裂走りぬ 稲葉京子 桜花の領
たまゆらを生くといへどもたまゆらは柘榴を照らす陽のごとさびし 紀野恵 水晶宮奇譚